4人ほぼ同時にキャラ作成を終えて完了のボタンを押すと、画面が一瞬暗くなって、4台のパソコンからほぼ同時にプロローグの音楽が流れ始めた。
前回の時は12名しかやらない簡易版だった事もあって、中世のお城みたいなのをバックにストーリーが流れるだけだったんだけど、今回はさすがに凝っている。
サラサラの黒髪が金髪ウェーブだという点を別にしたら、なんだかフロウちゃんに似てる気もする。
その礼拝堂の日差しがだんだんかげり、お姫様は祈りを中断して曇ってくる空に目をやった。
雲は空を覆いきり、やがて雷鳴が轟き始める。
暗い空に出来た裂け目から魔物が現れた。
平和な国を蹂躙する魔物達。
「どうか…魔物から国をお守り下さい…」
再び祭壇に向かって祈りを捧げるお姫様。
光る祭壇……
天使のように背中に翼のある神様、イルスの像から光が放たれ、お姫様の後ろをたくさんの光の筋が照らす。
「聖なる姫よ。祝福されし神の兵を与えよう。
この者達はいつか闇を払い、この世に完全なる平和をもたらすだろう」
光が人間の形を取って行き、自分が作ったアオイキャラもその中の一人として現れた。
姫が振り向いて口を開く。
「みなさん…どうかこの国をお救い下さい」
うるんだ瞳でそう言う姿は誰かを彷彿とさせたりはするんだけど…まあ深くは考えないでおこう。
こうしてアオイちゃんは再度イルヴィス王国へと降り立った。
「神様の兵隊のくせに貧乏って絶対におかしいよねっ」
最初は当然レベル1…なのは良いとして、所持金0って何?
一応初期装備で皮鎧と短剣は装備してるんだけどさ…。
とりあえず情報収集とかもしないとだし、お互いの居場所とかレベルとかがわかるようになるフレンドカードなるものを交換して、それぞれ単独行動中。
街中を歩いた限りでは前回とおおよそ同じ作りな模様。
中央に噴水と死亡時とかに戻る復活ポイントがあって、南に商店街、その奥にお城、北は街の出口。
東西にはそれぞれ教会と前回はなかった居住区がある。
居住区の門をくぐり抜けるとマイルームに入れて、そこでは色々な事ができる。
当座使わない荷物をクローゼットに閉まっておく事もできるし、要らないものを店に出品する事もできる。
出品は雑貨屋に売るのと違って自分で値段を設定出来て、欲しい人が同じく出品リストを見ると、現在出品されている全物品のリストが表示されて、購入する事ができる。
その購入ももちろんマイルームで行う。
あとは…日記。
ゲーム内ではもちろん、公式HPからアクセスしてつける事もできて、さらに希望者は公式HP内で公開する事もできる。ようはゲームに関するブログみたいな感じだね。
あと…公式HPの内容を見られる水鏡なんて物もあって、今現在行われているイベントとかも確認できてなかなか便利だ。
とりあえずマイルームでできるのはそんなところで…街中を歩いてると前回とは違ってたくさんの参加者とすれ違う。
始まったばかりのゲームだからまだみんなレベルは10未満て感じ。
ジョブは見たところウォーリアやガーディアン、ベルセルクといった近接ジョブが着る金属鎧が目立つかな。
あとはウィザードもなんだか多そう。
まあ…シーフなんてジョブ選ぶ人間は早々いないのか、茶色の皮鎧はみかけない。
意外にエンチャも少ないみたいで赤いマントもいないな。
ポーションが比較的安いせいかプリーストも少ない予感。
まあ…前回のあれやってたら、次第に安いポーションじゃ回復足りなくなって、大金はたいて高い薬品を買う事になるのはわかるんだけどね。
このレベルだと必須感がないんだろうな。
狙ってる対象がネットゲームのライトユーザーなだけあって、みんな深く考えずにとりあえず物理的に強いジョブを選択してるぽい。
あと前回はなかった機能といえば…ショートカット。
装備変更や魔法などをファンクションキーに割り当てて自動でできる機能が追加されている。
その他には…ジョブごとにテクニックと呼ばれる技ができた。
テクニックはグループテクと単体テクに分かれる。
グループテクは3種類に分別されたグループごとのテクで詳細は以下の通り
○ウィザード、プリースト、エンチャンター
各魔法=テクニック
○ウォーリアー、ガーディアン、ベルセルク
ディフェンス=防御倍、オフェンス=攻撃倍(両方同時に発動はできない)
○アーチャー、シーフ
隠れる=敵にみつかりにくくなる
さらに魔導師3種以外はジョブごとに以下の単体テクが追加
○ウォーリア
プロヴォケーション=敵の注意を自分に引きつける
○ガーディアン
守る=対象者の代わりに攻撃を受けて守る
○ベルセルク
バーサク=攻撃倍、防御半分になる
○アーチャー
コンヴァージョン=HPを半分削って大ダメージ
○シーフ
トロット=移動速度2倍
○ドラゴンウォーリア
ライド=自分を含めて二人まで竜の背に乗り飛行移動できる。
フュージョン=戦闘時に竜と融合してその力を使う事ができる。
○モンク
相打ち=自分の攻撃が必ず当たる代わりに敵の攻撃も必ず当たる
再生=自分の最大HPの3分の1を回復。ただし使用できるのは5分に1度。
モンクとドラゴンウォーリアに関してはグループテクがなく、代わりにジョブテクが2種類ある。
ってことで一気に並べるとなかなかややこしいな。
まあこのあたりはおいおいって感じか。
試しにトロット使って街中疾走してみた。快適♪
シーフ自体が珍しい事もあって、周りが不思議そうな目をむけてくる。
ふふっ♪
とりあえず街を一周して中央の噴水に戻ったところで、私は他の3人のパソコンを覗き込んだ。
ユートは…せっせと魔法をショートカットにセットしている。
エンチャはかける魔法多いもんね。
フロウちゃんは…いきなり釣り。
「竿どうしたの?」
と聞いたら、最初の支給品の薬を全部売ったお金で一番安い竿と餌を買ったとのこと。
自己回復できるプリーストならではの選択だね。
んで、最後にコウはいきなりせっせと戦闘してる。
「コウ…何してんの?」
「金稼ぎ」
「なんで?どうせならみんなで行こうよ」
私が言うと、コウは眼前の敵を倒してアイテムを取得して街に戻った。
そのまま雑貨屋さんに直行してアイテムを売り、今度はお城に向かう。
「普通のな、パーティやる前に買っときたい物があるから」
と、城の中の一室に入った。
中には長衣を着たNPC。
そのNPCに今稼いだお金をトレードしたコウは、丸いアイテムを受け取る。
「何?それ」
私の言葉にユートとフロウちゃんも手を止め、コウのパソコンを覗き込んだ。
「ん、ギルドクリスタル。
今回のゲームではギルドっていうサークルみたいな物作れるんだ。
で、このクリスタルをつけてるとどこで何しててもメンバーの状態わかるし、ギルド会話ができる」
ほ~、そんな物があったんだ。
「というわけで、だ、ギルドネームはどうする?」
コウは私達を見回した。
「えっとね…」
口を開くフロウちゃんにコウは苦笑いを浮かべる。
「姫…あんまりすごい名前は勘弁な。一応…俺やユートもつける事前提に考えてくれ」
あ~確かに…。
フロウちゃんが考える名前ってなかなかすごい物になりそうだ…。
フロウちゃんはコウの言葉に少し首をかたむけ、じ~っとコウを凝視した。
「じゃあ…ねぇ…Hemp palm…かな。コウさんのイメージで♪」
え~っと…
(ごめん。私さ、学ないからわかんない、どういう意味?)
コソコソっとユートに聞くと、ユートも困ったように首を横に振った。
でも私達に学がないわけじゃなかったらしい。
日本有数の名門高校からT大現役合格のコウですらわからないらしく、
「それどういう意味だ?」
と、聞いている。
「えっとね、棕櫚を英語で♪」
ごめんね…日本語で言われてもさらにわからないんですけど…
ユートも同じくらしい。
コウはかろうじて
「え~っと…植物の名…か?」
と自信なさげに聞き返した。
その言葉にフロウちゃんはうんうんとうなづく。
「えっとね、ヤシの一種♪」
「アロハ~なイメージなの?姫の中のコウって…」
思わずユートが聞き返すと、フロウちゃんはフルフルと首を横に振った。
「花言葉がね、勝利とか不変の友情とかなのですっ」
おお~~~なるほどっ!ぴったりだっ。
「へ~、いいねっ」
ユートもうんうんうなづいた。
コウも
「姫…変な所で博識だよな…」
と、驚いた目を向けつつ、じゃ、それで、と、ギルドクリスタルに名称を付ける。
そしてコウはその親クリスタルから分割した子クリスタルをそれぞれ居住区と噴水前にいたユートと私に
それぞれ届けに来た。
フロウちゃんもいったん釣りを中断して街に戻るとクリスタルを受け取る。
それを装備するとキャラ名の上にギルド名が表示された。
これ…確かに痛い名前つけるとつらいよね…装備するの。
意外にセンスの良かったフロウちゃんの命名でギルド名も無事決定。
こうして私達のネットゲーム生活は再び始まった。
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