「おかえりなさい、錆兎さんっ!
さ、揃ったところでご飯にしましょうっ!
お腹ぺっこぺこっ!」
食欲をそそる匂い。
品数も申し分ない量で、
「すごいな、よくこんなに作れたな。
甘露寺、料理得意なのか?」
と、聞けば、
「私じゃなくて伊黒さんと…」
と言う甘露寺の言葉を
「僕だよっ!料理くらい任せてくれたまえっ!」
と、空太が遮るように言って胸を張る。
「貴様…よくも甘露寺の言葉を…」
とキレかける伊黒。
そこにナイスタイミングで亜紀が
「伊黒君もすごいよねっ!
やっぱり蜜璃ちゃんが食べること好きだから?
愛だよねっ!うんっ!!伊黒君の蜜璃ちゃんへの愛をめっちゃ感じるっ!!」
と、半ば強引に割って入った。
怒りかけていた伊黒も、甘露寺への愛を感じると言われれば満更でもなくて
「んんっ。当然だろうっ!
俺の料理が世界一素晴らしい甘露寺の栄養となって血となり肉となると思えば、いい加減な物も作れないしな」
などと、したり顔で良質な料理を作るのにどれだけ手間暇をかけたかを語りだす。
伊黒を褒めた亜紀に
「…僕だって錆兎君だけじゃなく、亜紀君が美味しく食べられるようにと気を配ったんだけど…味だけじゃなく、見た目にもこだわってみたし…」
と、しょぼんとした目を向けると、亜紀はそちらにも
「うん、空太君は何でもできるからびっくりしちゃうよ。
包丁だけでこんなに綺麗なお花の人参作ったり、サツマイモが銀杏の葉の形してたり、まるで料亭のご飯みたいだよねっ。
私も料理はするけどね、大勢の分を大皿でドン!って感じのモノばかりで、こんな風にオシャレに作れないから、本当にすごいと思う!」
と、惜しみのない誉め言葉を贈る。
それにうんうんと頷いて機嫌を直す空太。
そんな様子に、
「…実は伊藤ってすごくね?
伊黒を宥められるのはお前か甘露寺だけかと思ってたぜ。
それにしても、よくあれだけスラスラと誉め言葉が出てくるよな?」
と、宇髄が目を丸くするのに、
「まあ…長年、あの気性の激しい武藤と揉めずにやってこれたって言うだけで、才能だと思う」
と、錆兎がため息をついた。
しかし言われてみれば確かに亜紀はすごい。
争いが起きかけると息をするように激高している相手をなだめにかかる。
元々は武藤まりの包囲網のために引き込んだ人間ではあったのだが、ああいう空気を読みまくる潤滑剤的な存在は今のところ周りには村田くらいしかいないので、伊藤亜紀は意外に掘り出しものな人材だったかもしれない。
何故か錆兎推しになって義勇にマウントを取りがちだった拝島空太にも
「空太君、本当に錆兎君を理解してるもんねっ!
他の表面上しか見てない錆兎君ファンと違って、錆兎君にとって能力とか関係なく義勇ちゃんが大切な存在だっていう事もちゃんと理解してるところが、本当の錆兎君ファンだよねっ!
私と空太君、カップルで、錆兎君と義勇ちゃんのカップル推してるって、新しいよねっ!」
などと、先回りをして言うので、空太も彼の性格上、そう言われるとついつい
「…ま、まあねっ!僕はそのあたりの浅はかなファンとは違うからねっ!」
と、言ってしまう。
そして、言ってしまえば実行するしかないと言うのも、意外に融通の利かない男、拝島空太なのである。
「ありゃあ、能力的には拝島が遥かに上なように見えて、実は伊藤が持ち上げて持ち上げて、手の上でコロコロと転がしてる感じだよな」
と、そんな二人に、本来は警戒心の強い宇髄も気を許しているようだ。
食事中も、大皿のモノはせっせと取り分け、なんなら、
「義勇ちゃん、義勇ちゃん、せっかくの可愛い顔に米粒が…」
と、食べるのが何故か下手で、いつも何かしらを口元につけて食べる義勇の口元をせっせと拭いてやっていたりする。
それについプスっと小さく噴き出して、
「伊藤さ、お前、もしかして大家族の長女だったりする?」
と聞く宇髄に、
「え?なんでわかるの?!
確かにうちは、私が長女、下に弟3人に妹1人の5人兄弟なんだけど…」
と、目を丸くする亜紀。
するとそれに、
「え?一緒っ!!うちもそうよっ!
私が長女で弟、弟、妹、弟の5人兄弟!!」
と、甘露寺がはしゃぐ。
そんな二人の言葉に義勇が
「…私は末っ子。姉が1人…」
と、ぽつりと零すと、そこで亜紀と甘露寺が
「「やっぱり~~!!義勇ちゃん、絶対に末っ子だと思ったっ!!」」
と、笑いながらはもった。
「男性陣はみんな長男っぽいよね」
と、そこで亜紀がさらに言うが、宇髄が、
「はずれっ!俺は長男だけど、ウサと伊黒は一人っ子。
拝島と…村田は?」
とそれに乗ると、空太は
「弟が1人。学校は違うけど」
と、村田は
「妹。同じくあっちは別の女子校通ってる」
と、それぞれ答えた。
「意外。鱗滝君は絶対に長男だと思ってたわ。一人っ子に見えない。
でも長子率高いわよね、私達」
と、甘露寺がびっくり眼で言うと、
「まあ、爺さんが子ども相手に剣道教えてて大勢のチビ達の面倒みてきたからじゃね?
ウサがそう見えるのは」
と、宇髄が持論を述べた。
そうして和やかな夕食が終わった後、錆兎の口から今回の事件や武藤まりの処遇などの諸々の説明がある。
その最後に、とりあえず武藤が海外に追放な時点で、今後はこの手のことはないとは思うが、学校側が今セキュリティについて見直しを行っていることと、噂が広まったりして小等部に在籍中の武藤まりの弟に害が及ばないよう、基本的には他言無用だが、生徒会だけは正しい情報を共有し、必要ならフォローに動くことなど認識を持つことを確認した。
そうして全ての話が終わったあと…全員で後片付け。
その後、甘露寺がいそいそと錆兎の所に来て、
「あのね、鱗滝君。
お部屋で飲食ってしていいかしら?」
と、聞いてくる。
そう言いつつ彼女はおそらく空太あたりのお手製なのだろう。
クッキーや野菜チップスの入った瓶を手にしている。
「ああ、かまわない。夜通し女子会でもやるのか?」
と聞いてやると、
「そうなのっ!
お部屋もね、1人きりじゃ寂しいわねっていうことで、女子は広めのお部屋をお借りすることにして、3人一緒に泊まろうねって」
と、ぱあぁ~っと満面の笑みを浮かべるので、なんだか微笑ましくなってしまった。
「部屋にあるミニ冷蔵庫とかも使って構わないから自分達で電源をいれてくれ。
温かい物が飲みたければ、台所から電気ポットを持っていくといい」
と言ってやると、
「ありがとうっ!そうさせてもらうわねっ」
と、パタパタと軽い足取りで様子を伺う義勇と亜紀の元へと戻って行った。
「なるほど。それでクッキーだったのか」
と、それを見た空太がそう言って、
「錆兎君も食べるかい?僕と亜紀君の共同作業だよ」
と、笑いながら、甘露寺が持っていたよりもだいぶん小さな瓶から出した星型のクッキーを差し出してくる。
「女性陣が女子会なら、僕らも居間のテーブルを少し端に寄せて、雑魚寝で良いから布団だけ運んできて、男子会でもどうだい?」
と、そんなことを言い出せば、
「お、いいなっ!1人じゃ確かにつまらねえ!」
と、宇髄が乗ってきて、押しの強い二人が言い出したらもう、あとは引きずられるしかない。
ということで、男子も布団を運び込み居間で男子会と相成った。
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