清く正しいネット恋愛のすすめ_145_交渉

その日の夕方…理事長から連絡があり、今度は武藤の両親を交えての話し合いのため、再度学校に足を運ぶことになった。

そこでまずは両親に事情を説明。
そして両親が納得したところで、今度は武藤まり本人も呼び出しという予定となっている。


ということで、武藤の両親が来る少し前に理事長と学校長と共に錆兎も理事長室に待機することに…。


錆兎が待機して20分ほど経った頃、理事長がそれぞれの職場へ連絡をして子どもには言わずに内密に来てほしいと依頼した武藤の両親が、揃って理事長室へと案内されてきた。

すでに学校側からは、学園祭に包丁を持った男が乱入した件に関しては、特定の女生徒を狙ったものだったこと、犯人が無事その場で逮捕されたことなどの知らせが各家庭に行っていたので、武藤の親は、自分達の娘がその標的だったために呼び出されたのかも…と思っていたらしい。

「お待たせして申し訳ありません。
もしかして…学園祭の事件のことでしょうか?」
と、開口一番に言いつつ、ちらりと何故か同席している生徒、錆兎に不思議そうな視線を向ける両親に、産屋敷理事長が

「こんばんは。
本日お呼びたていたしましたのは、ご指摘の通り、学園祭の事件についてお話をさせていただきたく思ったからです。
同席している学生は、本校の高等部共学科の生徒会長で、当日、暴漢を取り押さえてくれた鱗滝錆兎君です」
と言うのに合わせて、錆兎も武藤の両親に向かって、頭を下げる。


「1年で請われて生徒会長になられた、とても優秀な生徒さんだと伺っております」
と、にこやかに笑みを浮かべて言う武藤母。

それに理事長も
「ええ、当校でも屈指の優秀な自慢の学生です。
今日は事件に立ち会っただけでなく、諸々当事者である学生の代表という立場で同席してもらうことにしました。
長くなりますので、まずはお座りください」
と、笑顔で頷いて席を勧めた。


そして始まる話し合い。

まずは学校側が調べたところ…ということで、錆兎が提出した資料に基づいて犯人が犯行を企てた動機から、それを扇動した人物がいて、扇動した人物は標的になっていた女子を装って犯人を騙したことなどを説明。

その人物は産屋敷学園の学生で、SNS登録時の携帯の番号から身元が割れていること。
公になっていなかっただけで、これまでも他者に迷惑行為を行っていることまでを伝えるが、武藤夫妻はきょとんとした顔でそれを聞いている。

よもや自分の娘がそんなことをしていたとは想像もしていない様子だ。
まあ、そうだろう。
自分の子がそんなことをしていると気づいていたならば、普通の親なら必死で留めている。

「大変申し上げにくい事なのですが…」
と、最後にその番号が彼らの娘であるまりの携帯の番号なのだと告げても、返ってきた言葉は

「つまり…娘が誰かに携帯を無断使用されていたか、あるいは脅されていたということですか?」
というものだ。

自分の娘を全く疑ってもみない親の心情に、学校長の悲鳴嶼がダ~ッと涙を流し、理事長の産屋敷は少し困ったような顔をする。

「いえ、紛れもなく、それらを自らの意志で行ったのは、お嬢さん、まりさんです」

そうはっきり言われてさえ、
「何かの間違いか、なりすましでは…」
と、漏らす。

そこで理事長が出してきた資料は、なんと幼稚舎の頃からの武藤まりの問題行動の証言だった。

それには、錆兎の傷について近寄ればうつると裏で女子を脅したこと、協力しなかった女子に嫌がらせを目論んでその靴にダンゴムシをいれようとしたことなど、具体的にあげられた案件について、当事者の証言と、ダンゴムシについては教員に見つかって叱られたことから、当時の職務日誌にも明記されている。

「幼稚舎の時のことについては、靴に細工されそうになった女子と、お嬢さんがそれを行おうとしていたのを偶然見つけて阻止した男子3名、そして、脅された当時の同級生の女子の証言が取れています。
その後、小等部に進級したあとも、資料にあるように一部の女子に嫌がらせを続け、最近は件の犯人に標的にされた女子に集中して嫌がらせを続け、1人ではなく、何人ものクラスの女子から、お嬢さんに脅されていたという証言があがっています。
さらに、学生の間で流行しているオンラインゲーム内でも、同女子に誹謗中傷を繰り返し、それが周りに発覚してアカウントを削除していますが、オンラインゲームの提供元の会社から、そのアカウントを作成する際の携帯の番号も、お嬢さんの携帯からという裏が取れています。
一応、ここまでは学校側が伝手を使用して非公式に集めた情報ですが、これを警察の側に提出すれば、お嬢さんもなんらかの罪に問われることになると思います」

錆兎が知っている案件から、男子科にいたため全く知らなかった案件まで、この短時間によく…と思うが、あるいは今回の事件が起こったあたりで、胡蝶しのぶあたりが元々記録か何かをしていたものを提出していたのかもしれない。

どちらにしても、これだけのことをやらかしていれば、もう、誤解だ、でっちあげだと言う気も起きないだろう。

現に武藤の両親は青ざめて、母親は号泣している。

確か小等部に弟が在籍しているので、姉がこんな問題を起こしてあまつさえ捕まれば、彼の人生もただではすむまい。

両親もそれをまず思ったらしく、

「申し訳ありませんっ!!どうかっ!!弟の方には影響のないようにっ!!!」
と、その場で椅子から飛び降りてガバっと土下座。

「まりは学校をやめさせます!必要なら被害生徒さん達に慰謝料もお支払いします!
なので、どうか警察にはっ!!」

2人して床に頭をこすりつけて謝罪する両親に、理事長は

「まず、頭をあげて、椅子にお座りください。
学校側としての対応を述べさせていただきますので」
と、2人を椅子へと促し、2人が再度着席する。

泣きながらもひどく緊張した様子で理事長に視線を向ける両親。
それににこりと見る者を安心させるような穏やかな笑みを浮かべて、理事長は口を開いた。

「まず…退学をしても今回のように法の範囲を超えて我が校の生徒の安全を脅かす行動に出られる危険性はなくなりません。
なので、まず簡単に我が校の生徒に近づけないよう、ちょうど欧州のS国の寄宿学校に伝手があるので、そこにまりさんを留学させること、それが本件を学校内でおさめておく最低限の条件です。
相手の学校側には即入学手続きを取ることは可能なので、渡航準備ができ次第出発。
渡航までは当校に近づかないよう、誰かしらの監視下に置く。
当該学年…つまり、本年度の高1が大学を卒業する年度までは、基本的には帰国させず、やむを得ない理由で帰国をする際は、1人にしないよう監視をつけ、当校および当校生徒へ接近させない。
以上の条件でどうですか?」


理事長の言葉に武藤夫婦は顔を見合わせる。
あまりに急な展開に戸惑いながら、しかし、他に方法はないと決断したようで、頷きあった。

「わかりました。
あの子はパスポートも持っているので、即留学させます。
……しかし…ああいう事件があったあとに即留学となると、色々憶測を呼んで弟の方に影響がでたりしないでしょうか?」

両親の心配はすでに留学させると決めた娘よりも、息子の方に向いているようだ。
不安げにそう尋ねる彼らに、産屋敷は安心させるように笑みを向けた。

「そのために今回、彼、鱗滝君に同席してもらっています。
彼は小等部で児童会長、中等部、高等部で生徒会長を歴任し、男子科でも共学科でも広い人脈を持つ学生なので、万が一、ご子息に何か言う学生が出てきても、速やかに問題を収束させ、守ってくれます」

え?俺??
と、いきなりふられた役目に錆兎は唖然とするものの、ここでそれに驚いたり否定したりしてはいけないということはさすがにわかる。

まあ、確かにこの学校の小等部にも多くの親しくしている弟弟子達がいることだし、いじめでも起こったら止めてやるよう、依頼することくらいはできるだろう。

なので、今度は自分の方に不安げな視線を向けてくる武藤夫妻に、にこりと笑みを浮かべて見せた。

これで武藤両親は完全に落ちたと言っていい。
ひとまず第一の難関は突破した。

…が……これから第二の難関が待っている。



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