──なるほどね。よくここまで調べたね。
翌朝…自宅に他を残して、宇髄と共に今回の諸々の証拠を持って、アポイントの取れた産屋敷学園理事長、産屋敷耀哉に会いに行った。
そして理事長の産屋敷と学校長の悲鳴嶼行冥と4人で、初めて足を踏み入れる理事長室での会談と相成る。
今日はそれをプリントアウトしたものを持参して臨んだ。
幼稚舎からこの学園に通っているが、初めて直接対面する理事長。
逆に行事のたびいつも会う穏やかな雰囲気の学校長は、今は涙を流している。
「確かにこのまま放置しておいたら、第二第三の事件が起きるのは目に見えているのだけど、君の話だとこの資料は公にはできない筋からの入手で、あまり表で公開はできないもの、なんだよね?」
との、理事長の確認に、錆兎は大きく頷いた。
「学校側に知りうる限りの情報を提供してもらえるのはとてもありがたいけど…それで私たちは君に何を求められているのかな?
武藤まり君を退学にするにも大義名分は必要なんだけど…そもそもが退学にしたからといって、安全になるわけじゃない…ということは、君も当然理解しているよね?」
応接セットのソファに宇髄と並んで座る錆兎。
正面のソファにはひたすら涙を流す学校長。
そして部屋の奥で資料を手に穏やかな笑みを絶やさずに理事長の執務用のデスクに座る理事長産屋敷耀哉が、柔らかな声音で問いかけてくる。
それを聞かれるのは当たり前に予測していた…というか、それを説明して依頼するためにアポを取ったのだ。
当然答えは用意してある。
なので、錆兎の方も感情的になることもなく飽くまで冷静に、それを口にした。
「この資料を学校側が用意したことにして欲しいんです」
と、その言葉に、耀哉は綺麗な黒髪をさらりと揺らして、
「ん?どういうことかな?」
と、小首をかしげる。
「つまり…この情報が学校側のネット警察のようなシステムで判明した正規のものということにして、武藤の親に、これを警察側に提出すれば武藤はなんらかの罪に問われるが、もし親の監視の元、海外に留学という形で日本を離れて戻ってこないようにするという事なら、学校側も自校の生徒から犯罪者を出すことは望むところではないので、目をつむるということで交渉に持ち込めないかと…」
「ああ、そういうことか。
そうだね…あれから武藤君の家について調べたけど、確かに海外に長期留学させるくらいは可能な家だしね。
下に年の離れた弟君がいるから、その将来をも考えれば、親御さんはその条件を飲むと思う。
そういうことなら、欧州の拘束の厳しい修道院系の全寮制の女子校を一校知っているから、そこを勧めてみようか…」
と、ずいぶんと判断の早い産屋敷理事長は、
「そういうことで…早急に武藤君のご両親とアポイントを取るから、君も同席してくれるかい?」
と、逆に聞いてきた。
「は?俺も…ですか?
学生が同席というのは、あまりよろしくないのでは?」
と、錆兎はぽかんとするが、理事長は錆兎よりも随分と人生経験が豊富だったらしい。
「うん。一応ね、今回の事件で標的になったらしい二人を武藤まり君が嫌っているということは生徒の間でも有名なことで、学生たちの間ではすでに、あるいは彼女が関与しているのでは?という噂がたっているという事も添えれば、それが誤解でない以上、あまりゆっくり対処していられないと、ご両親も行動が速やかになるかなと思ってね」
などと、飽くまで穏やかなのは変わらないのだが、どこか悪い大人の顔をする。
「武藤君が彼女たちを嫌っていたという具体的な話が聞けたら尚可だし、出来れば今日の午後…遅くとも今日の夜には面談の手筈を整えるつもりだから、それまでにまとめておいてもらえるかい?」
方針が決まった時点で、主導権は理事長に移行したようだ。
今度は理事長の方から錆兎に依頼があって、錆兎はそれを承諾し、いったんは会合は終了。
理事長からの連絡があるまでは、いつでも動けるようにしつつ、自宅で待機することになった。
0 件のコメント :
コメントを投稿