清く正しいネット恋愛のすすめ_139_ノーブル喫茶の惨劇

──気になること…?伊藤についてか?

空太の言葉に錆兎の表情が少し硬くなった。
そして自ら水のグラスを持って空太の席に向かう。

「もしかして…すでに何かあったのかい?」
と、空太の方の表情も少し硬くなったところをみると、良い事ではなさそうだ。
そんな男子2人の様子に、とうの亜紀もさすがに不安げな表情を浮かべる。

しかしその後、空太から出てきた言葉は
「やっぱり誰かが亜紀君を口説いてきたりとか?
でも、鱗滝君が居るなら、ちゃんと間に入って追い返してくれたよね?」
で、一気に力が抜けた。

特に錆兎の気の抜けた感がすごくて、義勇はプスッと吹き出してしまう。

隣で亜紀が
「やだなぁ…学年3大美少女がいる中で私に声かける人なんているわけないでしょう?」
と苦笑すると、空太は何を言うと言わんばかりに

「朝にも言ったと思うけど、心根の美しさも考慮すれば、君は学校でも3位に入る美しい女子だよ?
なにしろ、自分が大好きで好みにもうるさい僕が自分の一番傍にいる人間として選ぶくらいだからね」
と、言い放った。

はっ?とびっくり眼の周り。
赤くなって顔を覆う亜紀。

錆兎も驚きの表情を浮かべるがすぐ
「なるほど。そういうことか」
と、にやりと笑みを浮かべて言う。

「じゃ、拝島も彼氏会にご招待だな」
と、さらに続ける。

「…彼氏会?
なんだい、それは?」

「ああ、彼氏の彼氏による自分達の彼女のための会だ。
主な活動は…情報交換と手芸?」

「…情報交換はわかるとして…どうして手芸?」

「ああ、それはな、自らの手で作った物を彼女に身につけてもらうことによって、他の男に対して彼女は自分の恋人だぞ、と、牽制するためだっ」

何故かドヤっとした顔で言う錆兎に、空太の方も
「それは平和的で良いアイディアだねっ!さすが鱗滝君っ!!」
と、こちらは心底感心した顔で言った。

普通なら、ダメだ、こいつら…と思うところだが、これが現在学年トップと2位の男子達なので、もしかしてそれが本当に正しくも素晴らしい彼氏の姿勢なのかと周りも流されてしまう。


「…そうか、これ、そういう意味だったんだ…」
と、可愛らしい花の髪留めに指先で触れる義勇。

「え?それ…まさか手作りなのっ?!」
と、亜紀が驚いて聞くと、義勇は頷いて

「うん。蜜璃ちゃんも色違いのお揃いしてるでしょ。
あれ…錆兎と伊黒が彼氏会で作ったやつなんだ。
1ヶ月に1回くらいの頻度で新作が色々渡される」
と言いつつ、来月からは亜紀ちゃんもお揃いだね、と、ムフフと笑う。


「じゃ、伊藤、注文よろしくな?
彼氏会については、あとでな、拝島。
義勇はキッチンに戻って6番テーブル」
と、少し油を売りすぎたか…と、錆兎は仕事に戻っていく。

義勇は、うん、わかった…と、テチテチとキッチンスペースに足を向け、亜紀は水を運んできたトレイを手に
「何を召し上がりますか?ご主人様」
と、彼氏であっても客なので接客モードに戻り、空太がメニューを手にしたその時だった。


座席が空いて新規で入店した男性客が何故か空太の座るテーブルの方へ。

案内係の女子が
「ご主人様のお席はこちらでございます…」
と、言ってそのあとを追いかけたが、早まる男の足。


…え?
と、一部それに気づいた生徒が不思議な顔をするが、最初にさらなる異変に気付いたのは空太だった。

──いとうあきいぃぃぃ~!!!!
と、叫びながら血走った目で包丁を出してくる男。

即椅子を蹴飛ばして立ち上がり、右手で亜紀を自らの後ろにかばう空太。
迫る男の包丁を、なんと左手で亜紀から取り上げた金属のトレイで防いだ。

店内に響き渡る悲鳴。

駆け寄る錆兎が、死角から包丁を握る男の手を取って前に進もうとする男の力を利用して投げ飛ばす。

そして
「大丈夫ですっ!暴漢は取り押さえましたので、安全です。
これから事情を聞かれる可能性もありますので、お客様方はひとまずお席にお戻りくださいっ!
宇髄っ!警察に連絡!!
村田っ!ご迷惑をおかけしたお客様全員にお詫びにお茶とケーキっ!」
と、とりあえず自分の胸ポケットのチーフを出して、それで包丁を確保しつつ、足で男を抑え込みながら周りに指示を出す。

…すげえ…
…もしかして…何かのサプライズイベント?
かっこいい!漫画のダーク・バトラーに出てくるイケメン執事みたいっ!!

よもや本当の通り魔だとは思っても見ずにはしゃぐ店内の客。
逆に廊下は大騒ぎで、生徒達が教師を呼びに走った。


警察に通報してすぐ駆け寄ってくる宇髄にとりあえず包丁を預けて、警察よりも早く駆けつけた警備員にとりあえず男を引き渡すと、同じく校内なので早々に駆けつけた教師に事情説明を求められたのを少し制して、錆兎は、パン、パン、と服の埃を払って客席に向かってお辞儀をして言った。

「お騒がせして申し訳ありませんでした。
当店店長の鱗滝です。
現在、警察がこちらに向かっているとのことなので、到着するまで当店自慢の紅茶とケーキを召し上がりつつ、もう少しこのままでお待ち下さい」

もちろん、すでに村田の指示で全員にケーキと紅茶が配られていて、それと同時に村田が各席を回って謝罪を終えている。


「…おま……いったい何がどうなってるんだ?
やりすぎたイベントか何かか?」
と、そのあまりに落ちつきはらった生徒達の流れ作業に、教師が唖然として聞いてきた。

それに錆兎は苦笑。

「全員…落ち着きっぷりがすごいですね、このクラス」
と、自身が一番落ち着きっぷりに驚かれているのだが、そんなことを言いながら教師に簡単に事情を説明。

そうしているうちに、やがて警察が到着した。


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