……?
生徒会発足直後から学園祭までの生徒会は忙しい。
その日も暗くなるまで仕事をして、全員揃って校門を出た帰り道…
と、突然後ろを振り向いた錆兎を隣を歩く義勇が不思議そうに見上げた。
「…いや…なんでもない…」
と、錆兎はそう言って前を向き直りつつも、釈然としない表情である。
少し考え込みながら歩を進め、駅の改札に着くと、
「…拝島…頼みがあるんだが…」
と、義勇と反対側の錆兎の隣にしっかり陣取った拝島空太に声をかけた。
「え?なんだいっ?!なんでも言ってくれたまえっ!!」
と、錆兎からの頼みという事で嬉しそうな拝島。
その勢いに少し苦笑しつつ、錆兎は
「お前、電車の方向、伊藤と同じだよな?
もう暗いし女子を一人で帰らせるのは心配だから、家まで送ってもらえないか?」
と、ちらりと亜紀に視線を向けた。
それに亜紀はびっくりしたような顔で
「え?ううん、大丈夫だよっ。
これから学祭まではこれくらいの帰宅時間になるし、拝島君だって疲れてるでしょ」
と、顔の前で手を振るが、拝島は
「いや、僕は全く問題ないよ。鍛えているしねっ!
それより女子が夜道を一人で歩くのは危険だと言う鱗滝君の意見は正しい。
さすが鱗滝君!!」
と、またいつものセリフを口にして、宇髄に、『出たよ、決まり文句!』と笑われる。
亜紀もそれに少し笑って、あまり固辞するのも場の空気を乱すと思ったのだろう。
「ありがとう。じゃ、お願いしようかな」
と、小さく頭を下げて、拝島の横に移動した。
こうして全員で駅の改札を抜けてホームへ。
先に拝島と亜紀が乗る方向の電車が来て、2人並んで電車に乗るのを手を振って見送ったあと、
「…で?なんかやばいこと起こってる感じか?」
と、宇髄が唐突に錆兎に視線を向ける。
伊黒も同じことを思っていたらしく、しかし無言。
「…あ~…なんというか……」
と、それに錆兎は少し考え込んで…そして、人差し指を自分の口に当てて
「これ、秘密な」
と、小さく笑う。
「彼氏会…もう一人くらい増えても楽しいかなぁと思ってな。
拝島は手先も器用そうだから…」
と、その錆兎の言葉に甘露寺の目がキラキラ輝いた。
そして
「素敵っ!!そう言われれば、亜紀ちゃんと拝島君、お似合いよねっ!!
二人が付き合うことになったら、今度はダブルじゃなくてトリプルデートねっ!」
と、楽しそうにその場でぴょんぴょん飛び跳ねる。
「まあ、あまり不用意なことをすると、上手くいくものも行かなくなるから、余計なことはせず、今は一緒にいる時間をさりげなく作るくらいで静観な?
特に蜜璃」
「うんうんっ。そうよねっ!あまり周りが色々すると恥ずかしくなって距離ができちゃうかもしれないし、分かったわっ!
ああ、でも本当にお付き合い始めてくれたら楽しいのにっ」
と、錆兎の言葉にそう言いつつも、手を胸の前に組んでうっとりする甘露寺。
「あ、ちょっと悪い。一件メール」
と、そこで錆兎はスマホを出して何やら打ち始めた。
──…うかつな発言は控えろ。
と、宇髄のスマホにメッセージが来たのは、錆兎がとうに打ち終わってスマホをポケットの中に放り込み、しばらくしてきた電車に乗っている時だったので、宇髄もなるほど…と、自身の失言に気づいた。
確かに…。
本当に何か危険が迫っているのを周知するつもりなら、拝島に亜紀を送るように依頼する時に口にしているだろう。
つまり…おおやけには言えない何かがあるということだ。
だが、わざわざこういうメッセージを送ってくるということは、自分には話してくれる気はあるのだろう。
案の定、帰宅後すこしした頃、錆兎からメッセージが入る。
そして全てを理解した宇随は、双方の普通の高校生からすると常軌を逸した水面下の戦いに青ざめた。
正直、武藤まりは狂ってると思う…。
だが、それに対する錆兎の引導を渡し方もやばい。
本当にやばい。
最終的に何か実害が出た場合の責任は全て自分が取るから…と、最後にそう付け加えられた言葉に、宇髄はもう何も言えなかった。
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