亜紀が裏切った!!
それは本当に全くの想定の範囲外の出来事だった。
最近は確かに微妙に距離があったように思わないでもないが、互いに互いの弱みを握っているような関係なので、よもや裏切るとは思ってもいなかった。
そう、大成功をおさめたミミズ作戦でほくそ笑みながら遠巻きに冨岡義勇を見ていたまりの目の前で、亜紀は自らの靴と靴下を脱いで義勇に提供したのである。
最初は何かの作戦かと思った。
しかし靴と靴下に何か仕掛けがあるとするなら、自らの手で渡せば自分が犯人だとバレバレである。
亜紀もそこまで馬鹿ではないだろう。
胡蝶しのぶはそれでも疑ったようだが、亜紀が、いまのいままで自分で履いていたものだから何もしていないと言えば、錆兎君がそれを信じて受け取った。
そうして冨岡義勇にそれを履かせたということは、特に何かしかけたものではないということだろう。
…となると、これは亜紀が裏切ったということか…
亜紀が裏切ることができるとは思っても見なかった。
だって、彼女は共犯なわけだから、裏切ったら当然過去の諸々を追及されるだろう。
そうしたら亜紀自身、学校に居場所がなくなる。
…そう、思っていたのに……っ!!
体育祭が終わってから1週間ほどたった日の朝礼で、信任投票で無事会長に就任した錆兎君が挨拶と共に他の役員の人選について発表した中に、なんと亜紀が入っていた!
え?何故?なんでっ?!!!
錆兎君と仲の良い村田や宇髄君、最近特に親しくしているらしい伊黒、その彼女の甘露寺蜜璃、そして憎き冨岡義勇が入っているまでは想定の範囲内だったが、嫌がらせ仲間だったはずの亜紀や拝島空太まで入っているのが解せない。
冨岡義勇を邪魔に思っているはずの亜紀や、錆兎君と冨岡義勇の仲を疎ましく思っているはずの拝島が、何故かれらと一緒にいるのか…。
そして、それを知っているはずの錆兎君が何故かれらを受け入れているのか…。
もしかすると…裏切って情報を漏らす代わりに仲間に入れろと取引したか……
幼稚舎の時の一件では、裏事情を追求することもなく男子科に移籍していったことも考えると、錆兎君はそういうことをする人間じゃない。
いつでも正々堂々公明正大清廉潔白な人間だ。
宇髄君は…裏で画策と言うことも得意そうではあるが、どちらかというと主犯となってやるタイプではなく、頼まれたことに対して情報を集めたり手を回したりするタイプだと思う。
いつもいつも邪魔をしてくる胡蝶しのぶも、今回は自身が役員になっていないとなると違うだろう。
…となると、黒幕は錆兎君を騙して取り入った、あの性悪女、冨岡義勇かっ!!
大人しそうな顔をして、なんて腹黒い!!
そして、それにほいほい騙されて自分を裏切った亜紀も亜紀だっ!!
もう…許せない……
二人とも地獄に突き落としてやる。
体育祭の一件が失敗に終わったら実行しようと思っていた最終作戦…
実行犯は間違いなく刑務所行きだが、まりは一切手を出さない…無関係をキープする。
本当はターゲットは冨岡義勇の予定だったが、裏切者の亜紀もそこに加えておこう。
そして…これで冨岡義勇が完全に消えて、落ち込む錆兎君を慰めて一気に彼女の座をゲットだ。
そんなことを決意しているうちに、役員を全員紹介し終わって朝会を行っている体育館に響く生徒達の拍手。
それがまるで、まりの完璧な計画を称賛するもののように思えて、まりは自身も拍手をしながら、1人にやりと笑みを浮かべた。
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