安全策として取ったネット作戦が失敗したからには、もう残った手はリアルでの引きはがししかない。
しかし、ネットですら失敗したのだ。
匿名と言う手段が使えない以上、うかつなやり方をすれば自分に跳ね返ってくるリアルでの計画は慎重に練らねばならない。
幸いにして今はまだ夏休み。
心の準備をする時間は十分ある。
…そんなことを思って過ごしていたら、休みはあっという間に過ぎ去って、新学期になっていた。
2学期の初日、登校したまりは衝撃的な話を耳にする。
なんと錆兎君が2学期から男子科から共学科に移籍してくると言うのだ。
これは現在まで普通に接触を持てずにアプローチできなかったまりにとって、ものすごいチャンスである。
ネットの失敗はリアルで頑張れと言う神様からの思し召しだったのか…
心の中でガッツポーズを決めていると、身の程知らずにもまだ諦めていない女子が
「男子科にいる時は近寄ることもできなかったもんねっ!」
「同じ校舎にいるなんて超うれし~~!!同じクラスだとさらに嬉しいっ!」
「あわよくばお近づきになりたいっ!!」
「でも彼女いるんでしょ?」
「あ~B組の冨岡さん…だっけ。顔は可愛いけど目立たない子だよね」
「結婚してるわけじゃないしさ、付き合ってるだけなら、まだチャンスない?」
などと話している。
朝のホームルーム前でB組の教室に入り浸っていた他クラスの女子も混じって盛り上がっているところに、まりも加わることにして、まあ、錆兎君がこいつらごときになびくことはないけどね…などと思いながらも
「錆兎君、今まで男子科だったからね。
他の女子と会う機会がなかったし、共学科で懐かしい顔ぶれに再会したら、錆兎君の気持ちもまた変わるかもね」
と、とりあえずそんな軽いジャブをいれてみると、幼稚舎からまりの邪魔しかしない仇敵、胡蝶しのぶが、まりの言葉に泣きそうな顔をする冨岡義勇をかばうように立ちはだかり、
「相変わらずですね。そんなことだから錆兎さんに嫌われるんですよ?武藤さん」
と反論してきた。
本当に本当に苛立たしさしかない女だ。
少しくらい錆兎君に気を許されているからといって、彼の心のうちの代弁者のようにでたらめを吐き出すその口を縫い付けてやりたい
そんなことを思いながら
「なんですってっ!!」
と、振り向くと、男子達には学年3大美少女などと呼ばれているが、性格の悪さが滲み出ているキツイ顔立ちにいけ好かない笑みを浮かべた胡蝶しのぶは、さらにとんでもないカウンターを返してきた。
「正直…彼が幼稚舎の頃の同級生の女子で会いたくないと思わないのって私くらいだと思いますよ?」
「どういうことよっ?!」
「私ね、言っちゃいましたっ」
「…なに…を…?」
「昔ね、女子がみんな錆兎さんを避けていたのは、武藤さんが裏で同じクラスの女子に、錆兎さんの傷は呪いで出来たものだから、錆兎さんに近づいたら呪いが移るって言いふらして、女子が錆兎さんを避けるようになったこと。
昔話をしていた時についうっかり宇髄さんにそのことも言っちゃったので、錆兎さんにも伝わってるんじゃないかと思います。
本当に子どもの頃の話をしてただけなんですけどね、失敗、失敗」
…っ!!!…っの、女あぁあああ――!!!!
このタイミングでなんてことをバラしやがるっ!!!!
まりは一気に顔面蒼白だ。
こんなことがこの時期に錆兎君に知られたら、さすがに引かれる、避けられる。
もうさすがにどう切り返していいかわからず、それでもなんとか
「…でたらめ、言わないで…」
と言うが、胡蝶はにこりと
「…真実は…当時の女子の錆兎さんの避け方の異常さを目の当たりにしてきた皆さんが知っているんじゃないですか?
まあ、私には関係ありませんし、こそこそと裏で言うのは主義じゃないので、言ってしまったことは本人にも報告しておこうかなと思っただけです。
ただ、私や錆兎さん、それに彼女の義勇さんとかに何かあるとしたら、攻撃してきた人間の見当はつくかな?とは思いますが…」
と言って、するりと義勇の前から抜け出して自分の席についた。
ざわつく教室内。
クラスメートがほぼ揃っている中で話されたので、口止めは不可能。
これは…もう正攻法は無理かもしれない。
だからと言って諦める気も引く気も一歩もない以上、何か考えなくては…
血の気が失せた顔で半泣きになりながらも、まりの闘志は消えることなく燃え続ける。
そう、これくらいで諦めてたまるもんか!!
最後に錆兎君の隣で笑うのは私だ!!!
そう心の中で繰り返しながら、まりはこのピンチを打開すべく、脳内で勝利への道を模索し続けた。
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