翌日、冨岡義勇は錆兎君と登校してきた。
当たり前に持たれるカバン。
錆兎君の腕に手をかけて、まるでカップルのように歩いてくる。
どうしてくれよう…と、錆兎君を横から奪った女を睨みつけていると、共学科の玄関先でなんと胡蝶しのぶが錆兎君から何か袋を受け取りつつ、冨岡義勇を引き受けている。
それに武藤まりはさらに苛立った。
義勇だけならさりげなく周りの女子に嫌味を言わせたり、仲間外れにしたりして、登校拒否まで追い込むこともできるかもしれないが、1人味方が…しかも強力な人間が味方になってしまうと、孤立させるのが難しい。
幼稚舎の頃といい、胡蝶しのぶは自身は錆兎君に言い寄ったりすることはないが、まりのやろうとすることを本当にことごとく邪魔してくれる忌々しい存在だ。
それでも…諦めるもんか!諦めてなるものかっ!!
こっちは幼稚舎から12年間、錆兎君の彼女の座を目指し続けていたのである。
ちょっと顔が良いだけのポッと出のバカ女に横取りされるなんて冗談じゃないっ!!
そこから武藤まりの根回しは始まった。
クラスの女子の約3分の2ほどは牛耳っている。
だから彼女達に冨岡義勇が普通なら接触出来ない男子科の錆兎君に汚い手を使って女を武器に騙して近づいたのだと広め、許されざる人間だと認識させて、排除の方向で動くように回させた。
本人が自分から学校に来なくなり、できれば転校するなり不登校になるなりしてくれればいい。
大きなことをすれば学校が動いてしまうだろうから、嫌がらせをされているのか勘違いや事故なのか微妙なラインのことを、ノイローゼになるくらいにいくつもいくつもやっていこう。
もちろん並行して女子だけの時は無視する方向で。
ただし男子は味方に引き入れるのが難しいし、それこそ義勇を好きなのであろう不死川あたりに暴れられると厄介なので、男子には気づかれないように、飽くまで女子だけ、水面下でやるように…
嫌がらせについてはまり自身は考えない。
思いついた人間にその方法を報告させる方式を取っている。
そうすれば万が一バレることがあっても、まり自身は無関係を通せるからだ。
もちろん、周りにそんなことを言ったりはしないが……
靴を隠したり、宿題の連絡を回さなかったり、文具を抜き取って壊して捨てたり…
そのままでは嫌がらせだとバレるものについては、例えば靴はゴミ箱に捨てたりとかではなく、女子だと視界に入らない下駄箱の上に隠して、たまたま落ちていたのを拾った誰かがおいておいたとか、文具はペンを抜き取って椅子で思いきり壊して、落ちていたペンを間違って椅子で踏んで壊れてしまったのでゴミ箱に…など、アレンジを加えて、故意か過失や善意かの境界線があいまいになるように画策させた。
ひとつひとつはそんな嫌がらせかどうかわからない小さなものだが、それが続くと精神的に参ってくるだろう。
特に元々内気で暗い女なので、病むのも早いんじゃないだろうか…
そんな風に思ってワクワクしていたのだが、どれだけ経っても義勇が変わった様子を見せることはなかった。
不思議なことなのだが、よくよく見張ってみると、確かに下駄箱の上に隠したはずの靴は義勇が履くときには何故か義勇の靴箱に戻っている。
宿題は余計なことに胡蝶しのぶがチェックしてやっているし、唯一、ペンだけは義勇が思い入れを持っていた物だったらしくて、翌日、目を赤くして登校してきたが、なんと、翌々日には錆兎君にプレゼントされたという錆兎君と色違いでお揃いだという万年筆を嬉しそうに胡蝶しのぶに見せていた。
あまりに腹がたったので、それだけはこっそり抜き取って、でも錆兎君が買った錆兎君とお揃いの物という事なので、こっそりもらっておくことにしたが、さらに翌日には同じ種類の色違いを錆兎君にもらったらしい。
これはまた抜いても補填されるのだろうからキリがないし、あまり何回もやればバレるので、それ以上は諦めた。
幼稚舎の頃も胡蝶しのぶ相手にこの手の嫌がらせを随分と試みたのだが、上手く行ったためしがない。
それこそ胡蝶の靴にいれたはずのダンゴムシが何故か自分の靴に入っていたなんてこともあって、踏みつぶしてしまった気持ち悪さに泣くことになったのに、先生にも他人の靴にダンゴムシをいれようとしていたことがバレて怒られたこともあった。
最初はまりのやろうとしたことに気づいたしのぶに逆にやり返されたのかとも思ったが、その日はしのぶはずっと教室にいたから本人は出来ないし、代わりにやってくれるような友人もいなさそうだったので、本当に謎である。
結局、一緒にやった亜紀が靴を間違えたのだろうということで落ち着いたが、そんなはずはない。
だって、しのぶの靴に入れた時にはもちろんまりも亜紀と一緒に居たのだから、靴の主は確かに確認しているし、万が一間違えたとしても、しのぶ一人の靴に入れたはずのダンゴムシが、まりと亜紀の2人分の靴に入っているのはどう考えてもおかしい。
なんだか昔からそうやって嫌がらせをしようとすると、たまに不思議な失敗がある。
無視して孤立させる作戦も、飽くまでまりに同調してくれないどころか、おそらく錆兎君に頼まれて義勇の面倒をみることにしたのであろう胡蝶しのぶと、明るく優しいキャラに見えて、実は彼氏である伊黒以外に一切忖度をしない甘露寺蜜璃が義勇を囲んで仲良しグループのようになってしまっているので、今一つ効果が出ていない。
というか、むしろ『学年3大美少女が一緒だと眼福だよなぁ』などと男子にちやほやされる始末である。
このままではいけない!!
なんとかしなくては!!!
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