清く正しいネット恋愛のすすめ_123_包囲網計画

──ウサ、俺を呼んだのって…
──ああ、当事者じゃない奴の後押しが欲しかった

感謝感激涙ぐみながら帰る伊藤亜紀を笑顔で手を振って見送りながら、2人残った竈門ベーカリー喫茶室で、宇髄はようやく確認作業に入る。


「んで?信頼させたのは良いけど、あれ、どうすんの?」
と、まずはそこだ。

あげて落とすのか、本当に許して保護するのか…
それによって宇髄も心づもりが変わってくる。

「俺は自分の言葉を違えるつもりはないが?」
とにこやかにカフェオレにパンを浸して口に放り込む錆兎。

「お前って和食のイメージなんだけどな」
と、それにそう言うと、錆兎は

「ああ、祖父は和食だが、幼い頃の俺にとっては週に1度必ず昼食用に買うここのパン屋のパンがなによりの楽しみだったんだ。
昼に食えるだけ選べと言われていたから、その日の朝は少しでも腹が減って多く食えるようにと練習に身がはいったものだ」
と、顔をほころばせる。

「ここの上に乗ったざらめがしゃりしゃりするぶどうパンや、たっぷりバターのブリオッシュ、あとは食欲をそそる香りのガーリックフィセルも好きなんだ」
と、実に嬉しそうにパンについて語りつつも、一応、宇髄の疑問も覚えていたらしく、もちろんそれに対する返答もあれで終わりではないらしい。

「俺に対しての諸々は全く問題ない。
あとは義勇に関してだが、体育祭の一件で武藤と必ずしも同調したいわけではないということが見て取れたからな。
積極的に危害をくわえたいわけではなく、自分がターゲットになるのが嫌で流されていたということなら、脅しているやつより良い条件で抱え込んでやればいいかと思ってな。
話を聞いてみると案の定だし。
優先するのは過去より未来だ。
俺は俺なりに義勇を守るつもりだが、異性だから常にと言うわけにはいかん。
あいにく武藤のことがなくとも義勇は女子の友人が多くなくて、守ってくれそうな同性がしのぶと甘露寺くらいしかいないからな。
武藤のやり方を熟知していて武藤と離れたいと思っている伊藤なら、少なくとも武藤を中心とした女子の嫌がらせから義勇を守るための情報くらいは流せるだろうし、一旦は武藤の諸々に加担していても義勇を守る側についた伊藤の待遇を良くすれば寝返るモノも出てくるだろうから一石二鳥だ」

これからはお前も伊藤には愛想よくしてやってくれ…と言う錆兎の笑顔は相変わらずいつもの善意に満ちたキラキラしいものだが、考えていることを思うとエグイ。

「…つまり…目指すは武藤の完全孤立…か?」
と念のため確認すると、

「もちろんだ!
相手は女子のボス格だからな。
そいつを潰すには敵対する相手を一人にして、他には美味しい餌をばらまくのが手っ取り早い」
と、恐ろしい答えが返ってくる。

『道具として利用する気満々か?』と聞けば、『義勇に危害を加えた人間のどこに人権を尊重する意味があるんだ?』とか返ってきそうで、怖くて聞けない。

そんな宇髄の心境も当然察しているのだろう。

「悪意があろうとなかろうと、殴られた側は痛い。
善行もそれと同じで、俺がどういう意図で親切にふるまおうと、その先も態度を変えることがない前提だが、相手が助かるのは一緒だ。
俺は伊藤が義勇に危害を加えない限り、彼女を善良で好ましい人物として遇し続けるし、それは彼女自身やその評価にいい影響を与えるだろうから、WinWinだろう?
裏があるかないかと言われればあるが、それは俺の感情の問題であって、俺はそれを表に出すつもりはないから、物理的には裏がないというのに等しい」

「…で、俺は王様の耳はロバの耳ってことか?」
宇髄が苦笑すると、錆兎は案外真顔で

「いや?俺の感情はどうでもいいんだ。
ただ、そういうことだから、親しく接するのと信用できる人物と思うことは別だということを俺以外で認識してくれる人間が欲しかった。
伊藤を含めて今後寝返ってくるだろう女子達は悪気のない精神的弱者で、こちらが優位な状況を整えているうちは義勇にも親切にしてくれるだろうし、良いクラスメートとして接してくれるだろうが、俺よりも影響力その他が強い悪意がある人物に強要されれば、手のひらを返す可能性が非常に高い。
飽くまで自分の中の善悪でブレずに行動するしのぶや甘露寺とは違う。
そのことを理解したうえで、信用しすぎず、でも友好的な関係を築くということを念頭に置いて欲しい。
ようは…裏切りがあった時にすぐ一緒に対応してくれる人間として、色々をリアルタイムで見られる席に同席してもらっている、ということだ」

「あ~、なるほど。了解だ。
確かにあと信用できそうな不死川はポロリしそうだし、胡蝶は潔癖すぎるしな」

「そういうことだ。そのあたりは信用していないわけではないのだが、信頼はできないというか…。
知ってて絶対に漏らさず黙って協力してくれそうな相手が天元しかいない」
と、錆兎は苦笑した。


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