清く正しいネット恋愛のすすめ_120_産屋敷学園高等部体育祭__男女混合リレー後半

そしてかなりの差をつけてしのぶが義勇の待つテイクオーバーゾーンに入って手を伸ばす。

他はまだまだかなり後方を走っていて、余裕なはずだが、震える手。


トン!と後ろ手に伸ばしている義勇の手に確かにバトンを置いて手を離すが、バトンは開いたままの手に握られることなく、ポロリと地面に転がり落ちた。


…あ……
青ざめて固まる義勇。


だが、しのぶは冷静に即それを拾い、開いたままの義勇の手に置くと、
「握ってっ!!」
と、声をかける。

そして義勇が握ると、
「いいから、走ってっ!!」
と、前を指さした。


はじかれたように走る義勇だが、どこか足元がおぼつかない。

その間に迫ってくるすでにC組。
さらに男子にバトンタッチしたA組男子が2位のC組女子を追い抜いて義勇の横を走り抜けていった。

真っ白になる義勇の頭に浮かぶのは、潰れたミミズの感触で、気持ち悪くて足を動かせない。

じわり…と涙で潤んだ視界。
もうだめだ…自分のせいで錆兎がトップでゴールテープを切れないどころか、ビリになってしまった…。

絶望的な思いでいる義勇の耳に、その錆兎の声が入ってくる。


「義勇っ!俺のところにバトンを持ってこられるか?!
来られないなら迎えに行くっ!
来られるならゆっくりでいいから来い!」

え?…と顔をあげると、別に焦った様子もなく、自分の横を走り抜けていく他のクラスのアンカーの事を気にするでもなく、ただ、気づかわし気な視線を義勇に送る錆兎の姿。

「気分が悪いなら棄権してもいいぞ?
俺がそこまで迎えにいってやるから」

そんな錆兎の言葉に、義勇はふるふると首を横に振った。
ビリになってしまったけど…自分の足で錆兎に届けなければ…
そう思ったら色々が吹き飛んだ。

嘘のように軽くなった足で錆兎の所にたどり着いた時には、もうすでにトップのA組のアンカーははるか先…1周目の半分ほどを走ってしまっている。

「ごめん…ごめんね、錆兎…」
と、泣きながらバトンを渡せば、錆兎は

「よく頑張ったな!大丈夫っ!800をトップスピードで走れば問題ない」
と、言いながらまるで短距離走のように疾走していった。


唯一中距離走の走行距離になるアンカーはそれなりに皆ペース配分をしつつ走るので、それが見ている側にすれば面白いところなのだが、初っ端から飛ばす錆兎に生徒達がざわめく。

「鱗滝君、速いっ!!半周の差などものともせず風のように疾走していくっ!!
さすが、鱗滝君!さすが、鱗滝君っ!!さすが、鱗滝君っ!!!!
と、興奮した拝島の中継。

おおおーーーー!!!と、湧き上がる歓声。


「いくらウサでもありゃあ初っ端から飛ばしすぎだろ。
最後まで持つかぁ?」
と、走り終えた女子2人と並びながら呆れる宇髄。

その横で昨今の若者にしては珍しく腕時計をしているしのぶが、
「半周200m約27秒ですね。
トップスピードで走れば問題ないと言いつつ、錆兎さんとしてはあれで配分しているのかもしれませんよ」
と、実に冷静に時間を計って言う。


そう言っている間に1周あたりで2位のC組を抜かし、1週と4分の1ほどのところでトップのA組に追いついた。

「追いついたあぁぁ―――!!!さすが、鱗滝君っ!!!
半周くらいの差はハンデにもならないかっ!!!
さすが、鱗滝君――――!!!!!

もう、拝島はマイクを手に立ち上がって身を乗り出して叫び、他学年も皆大興奮で歓声をあげる。


「…あいつ…絶対に自分がC組の人間だってこと忘れてるよな…」
「…勉強の出来る馬鹿ですから、彼は。
それよりも、これから錆兎さん、陸上部の勧誘に追い回されそうですね」
と、どこか呆れた目で冷静に語り合う宇髄としのぶ。

こうしてそのままA組アンカーを抜き去り、トップでゴールテープを切る錆兎。

そうして大歓声の中で1年のリレーは終わり…そして、秘かにとある包囲網がじわり…じわり…と、張り巡らされ始めた…。

そう…飽くまで秘かに…思いもよらぬあたりから……



Before<<<    >>> Next(11月25日0時公開予定)




0 件のコメント :

コメントを投稿