その後、午後の競技がいくつか終わり、最後から2番目の男女混合騎馬戦へ。
産屋敷学園の体育祭では馬は男子3名、そして上に乗るのは女子で行うのが恒例だ。
1クラスにつき騎馬が3体。
「まあ…騎馬が錆兎さんなら、万が一もないでしょうけど…」
と言いつつ、かなり警戒している。
それを受けて騎馬の真ん中を担当している錆兎は靴を脱いで騎馬に乗った義勇に、
「いざとなったら安全を優先して、ハチマキなんて取られても良いから体制を前に倒して俺に抱きつけよ？」
と、指示を与えた。
うんうんと頷いて騎馬の上で身を少しかがめて錆兎に抱きつく義勇に
「今じゃない、今じゃ…。
一応学校行事なんだし、身に危険が及ぶ気配がするまでは、真面目にやるぞ」
と、錆兎は苦笑して注意を促す。
こうして不穏さをはらんで始まった騎馬戦だったが、義勇の下の騎馬の中心は錆兎なので、激しくぶつかられたりする危険を避けながらも、ぶつかり合いになる時は騎手ではなく、騎馬のレベルで、さらに武藤が騎手の騎馬からは距離を取るようにした。
騎馬は元々は茂部太郎とその親友達の予定で、そのうちの壱藩仁が怪我のため見学となり、あとのメンバーは茂部太郎と園辺射人だったのだが、この二人は驚くほどに錆兎の動きについてくる。
クラス内でも全く目立たないのでそうは思わなかったが、実は運動神経がとても良いのかもしれない。
かなり無茶で激しい動きでも、本当に文句の一つも言わず、疲れた様子も見せずに合わせてくれるので、上手に相手の後ろに回り込んで義勇に多くのハチマキを取らせることが出来た。
騎馬戦はクラス対抗で、1年から3年までがそれぞれＡ，Ｂ，Ｃで競い合うのだが、これもＢ組の圧勝で無事終わる。
とりあえず離れるようにしていたせいなのか、特に武藤からの嫌がらせも妨害もなく、あっけないほど平穏に終わった騎馬戦。
騎手の女子は裸足なので騎馬のまま生徒席に戻って、そこで靴と靴下をはくことに。
「お疲れさん。ここまでは１年はＢ組圧勝だな。
あとはリレーだが、この宇髄天元様が走るんだ。
負ける気はしねえ」
と、ジャージを脱ぎ捨てて立ち上がる宇髄。
「いいから急げぇ。
もう皆並び始めてんぞぉ」
と、急かす不死川。
女子の席の方ではちゃっちゃと靴下と靴を履き終えた胡蝶しのぶが、
「冨岡さん、何やってるんですか、靴履いたらちゃっちゃと行きますよっ！」
と、義勇を振り返り…そして少し険しい表情で
「…なにかありました？」
と、眉を寄せる。
それに義勇は
「…靴……」
と言ったきり、じわりと目に涙を浮かべた。
「靴？」
と、もう言葉を待つよりは早いだろうと、胡蝶は椅子に座ったままの義勇の足を取って靴を脱がせると、一瞬、ぎょっとした顔をして、次に、
「…やられましたね……」
と、はあぁ～っと首を横に振った。
「どうしたの？」
と、その二人のやりとりに寄ってきた甘露寺が、ああっ！と、声をあげたことで、男性陣も気づいて駆け寄ってきた。
靴を脱いだ義勇の靴下に潰れた茶色の物体…おそらくミミズがこびりついている。
泣いたまま固まっている義勇の足から靴下を脱がせると、錆兎は当たり前に自分のカバンからミネラルウォーターのペットボトルを出し、それで足を洗って、自分のタオルで拭いてやった。
そんなことをしているうちに、放送で
「1Bのリレーの選手は早く集合してください！」
と言われて、
「ちょっと待ってくれっ！」
と、宇髄がとりあえず返事をするが、そう待たせるわけにもいかない。
「…この靴は…さすがに履けませんね」
と、眉を寄せるしのぶ。
「サイズ…一緒なら私のを貸してあげるんだけど、義勇ちゃん23よね？
私24.5だからさすがに無理よね…」
と、甘露寺も困ったように頬に手を当てた。
「あ、あのっ！
私ので良かったら履いてっ！
靴下とか他人がはいてたの嫌かもしれないけど、汚れたのよりは良いと思うし、サイズも一緒だからっ」
と、その時、1人の女子が寄って来て、さっと靴下と靴を脱いで差し出してきた。
「…あなたの…ですか？」
と、それにしのぶが少し警戒の色を見せるが、彼女、伊藤亜紀は
「今まで私が履いてたのだから、変な細工とかはしてないよっ！
幼稚舎の頃は色々悪いことしたと思ってるっ。
だから贖罪というわけじゃないけど……」
と、言ってくる。
「すまないな。ありがとう、助かる」
と、その彼女の申し出を受け入れたのは錆兎だった。
亜紀の手から靴下と靴を受け取ると、それを義勇に履かせて、
「とりあえず急がないとならんから、礼はあとで改めて！」
と、しのぶと義勇を促して、リレーの選手の整列場所へと駆け出して行った。
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