清く正しいネット恋愛のすすめ_109_産屋敷学園高等部体育祭_黒い策略

「冨岡さん、ちょっといいかな?」


錆兎と甘露寺がありえない速さでゴールしたあとも、当たり前の速さで進んでいる他クラスがまだゴールしていないので当然だが続いている競技を義勇は眺めていた。

錆兎はいつでもカッコいいし、障害物競争の錆兎もカッコ良かったが、義勇は少し不機嫌である。
理由は体育祭実行委員の中継。
例の拝島空太の『さすが鱗滝君っ!!』だ。

錆兎がさすがなのもカッコいいのも心の奥底から思い切り同意するが、それを拝島だけがマイクで絶叫できるのはずるい。
義勇だって学校中に錆兎の素晴らしさを主張したい。
なので来年は絶対に体育祭実行委員になろう!…と、義勇は拝島を見て秘かに決意を固めたのだった。

そんな風にやや厳しい目を校庭に送っていると、あまり話したことのないクラスの女子に声をかけられる。

良くも悪くも目立たない女子…皆川沙奈だったか…?
同じクラスになるのは初めてなので、他人の名と顔を覚えるのが苦手な義勇はうる覚えだ。

まあ、いいか。
声をかけてきたのはあちらなので、必要なら自分で名乗るだろう。

そう思って
「なにか?」
と、視線をそちらに向けると、ちょいちょいと手招きをするので仕方なく立つ。


「ごめんね、ちょっとお願いがあって…」
と手を合わせて言うその声が小声なのは、続く言葉で納得できた。

「実はね、私、このあとの男女混合の騎馬戦に出る予定だったんだけど、生理になっちゃって…ほら、下の馬が男子だからちょっと嫌かなと…
で、馬の1人の壱藩君が今日怪我して見学になって、代わりに鱗滝君が入ることになったでしょ。
だから私も代わりをお願いするなら冨岡さんかなって…
ダメなら他も当たってみるけど…」

「やるっ!」
と、義勇は即答した。

そう言えば錆兎が代役で騎馬戦に入ると言うのは聞いていた。
そうでなければ他を当たってと言いたいところだが、錆兎が馬ならむしろ望むところである。

義勇の返答に皆川は少しほっとした様子で、

「良かった…ありがとう。直後にリレーもあるのに忙しくさせてごめんね」
と、もう一度手を合わせて、自分の席へと戻って行った。


錆兎に支えられての騎馬戦。
本来ならあの手の争う系の競技は得意ではないが、錆兎と一緒なら話は別だ。

機嫌よく鼻歌交じりに席に戻ると、
「皆川さん、なんですって?」
と、いつものように義勇の身の回りの様子を気にしてくれていたのだろう。
しのぶが聞いてくる。

彼女も騎馬戦の参加者組だ。

本当なら騎馬戦の上ならしのぶのように敏捷な人間が向いているのだろうし、そうなると義勇より適任者は多いとは思うが、これだけは譲れない、と、義勇は自分に一番先に打診してくれた皆川に感謝した。

「うん、騎馬戦の上を代わって欲しいって話だった」
と義勇が言うと、しのぶが怪訝そうな顔をするので、そこは男子に聞かれないようにと、義勇は
(…急に生理になっちゃったんだって)
と、しのぶに耳打ちする。

(ああ…それは位置的に馬が男子だと嫌ですね…)
と、おそらく錆兎との約束を律儀に守り続けて日々警戒をしているしのぶも納得した。


そんな話をしているうちに障害物競争が終了。
1位の得点40点を引っ提げて、錆兎と甘露寺が戻ってきた。

歓声で迎えられる二人。
でも二人とも互いに義勇と伊黒の方へ真っ先に向かう。

「錆兎、すごくカッコ良かったっ!
でも私も拝島みたいにマイクで錆兎の応援したかったな。
来年は実行委員やろうかな」
などと言って錆兎に笑われている義勇の横では、予備のパンをもらってきて嬉しそうな甘露寺に目を細める伊黒。


──…うちの組、大型カップルおおすぎじゃね?
──…運動神経半端ねえ奴らだから、クラスの勝利のためには爆発しろって言えないのが辛いな。
などと苦笑するクラスの男子達。

女子は義勇の発言を聞いて
──確かに…マイクで鱗滝君や宇髄君の応援したいよね。
──来年は体育祭実行委員狙ってみようかな
──例年からするとありえない熾烈な争いになりそうだね、実行委員。
などと盛り上がる。


そんな和やかな空気の中、冷え冷えとした視線の一団が少し離れたところから義勇に視線を送っていた。
気づかれない程度に離れたところから……



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