…こんな感じでどうだろうか?
…うむ…髪の色ならそれで良いんだが、瞳の色となると、もう少し青みがかった美しい緑だと思わないか…?
前日、夏祭りの時に甘露寺が義勇が付けていた義勇と錆兎の瞳の色合いの髪飾りを羨ましがったので、それなら!と彼女命の伊黒が錆兎に髪留めの作り方を習いに来たのだ。
そもそもが何故そこまで生地を持っているんだ、男子高生?と問いたくなるような量や種類の生地を出してくる錆兎も錆兎だが、伊黒のこだわりはそれをはるか超えているようだ。
自分と伊黒の瞳の色の髪留めが欲しい…という甘露寺の注文に、普通の彼氏なら甘露寺の瞳の緑と伊黒の金と濃い青か緑くらいで納得するのだろうが、そこは甘露寺厨の伊黒としては、自分の目の色ならとにかく、甘露寺の色にはこだわりがあるらしい。
それでも、
「ん~~そこまで同じ色の布はさすがにないな…」
と、唸る錆兎に、
「すまん。一番近そうな色を選ぼう」
と、譲る。
他の人間ならそんなことはまずない…というか、そもそも休日の時間を甘露寺以外と過ごすなどと言うこと自体がありえないところだが、恋人に対する熱い思いを持つ者同士、昨日の出会いからずっと、まるで10年来の親友のような扱いである。
だが、錆兎の方もそんな伊黒の友情を無下にするどころか、さらに厚い友情で応える。
「よし、ここはやはり布を染めよう!!
幸い染料もあるし…」
「いや、そこまではさすがに悪……」
「何を言う!どうせ贈るなら可能な限りぎりぎり彼女の希望に沿うものを作ろう!
俺に悪いなどと気にすることはない。
小芭内が一番気にするのは、大切な恋人の望みを叶えることじゃないかっ!」
「錆兎っ!!やはりお前はそんじょそこいらの奴らとは違う!!
俺の気持ちをよくわかってくれている!!」
「当たり前だろう!互いに愛しい恋人のいる者同士だっ!
己のことを考えればわからないはずがない!」
がっしり手を取り合う彼女の希望を叶えるため手芸に勤しむ2人の男子高校生。
なかなかシュールな図である。
こうして大量の白い布を前に染色から始める2人の職人。
「ああ…これぞ甘露寺の色だ。
甘露寺色に囲まれるなんて、なんだか楽しくなってきたぞ…」
とピンクに黄緑、そして淡い青緑色の布地を前にうっとりと呟く伊黒の横では、
「中央に飾るパールと花びらをそれぞれ自分と相手のカラーにするのもいいかもしれない。
俺はパールを青と藤色に染めるが、作った染料寄越すならついでにそちらの分も染めておこうか?」
などと、うきうきと鼻歌交じりに白いパールを染料につける錆兎。
初めて出来た彼女のために贈り物を作るのは楽しかったが、同じ立場の彼氏仲間と一緒に作業するのはなお楽しい。
ついでに言うと、甘露寺が食べることが好きなため、その彼女をあちこち連れて行くことの多い伊黒はカフェやスイーツの情報にとても詳しくて、色々教えてもらえるのも非常に嬉しいところだ。
そして…恋人がいかに愛おしいか、あれをしてやりたい、これもしてやりたいと、そんな話をしても、呆れた目で見られないのも素晴らしい。
そう思っているのは伊黒の方もらしく、もう趣味の域をはるかに超えて、どこのハンドメイド作家だ?!と突っ込みが入りそうなクオリティの作品を作り上げつつ、定期的に情報交換プラス贈り物作成のための彼氏会を開こうという話になった。
こうして彼らの彼女たちは定期的に可愛らしい小物やアクセサリが増えていく。
それを見て、どうやら、手作りらしい。
すごい器用でセンスもいい。女子力めちゃくちゃ高くないか??
などと噂されるようになるのだが、実はそれは手作りは手作りでも彼氏達の手作りである…という点は知られないままなのである。
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