空太の言葉に錆兎は
「…なかなか壮大な話だな」
と目を丸くする。
ふむ…と、視線を机に落として考え込む錆兎。
さきほどまでの心臓が凍り付きそうな冷ややかな空気はいつのまにか消えている。
「つまり…拝島は騙された、と、言う事だな。
それでも、やり方、手段は犯罪すれすれでNGだぞ?わかってるな?」
との錆兎からの確認に、とりあえず自分自身は破滅の運命から免れることができそうだと、空太は安堵で泣きそうになりながら、コクコクと頷いた。
圧倒的ボス感、安心感。
絶対に敵に回してはならないが、味方として居るなら誰よりも頼もしい。
「とりあえず今回のことは、同級生がからかいで義勇が拝島に秘かに思いを寄せていると言ったことに拝島が騙されて、義勇を呼び出して、両想いだからとやや強引に出たら、異性慣れしていない義勇が驚いてブザーを鳴らしたと報告をする。
ブザーは胡蝶しのぶの私物で、男子生徒に呼び出されたと聞いて、何かあったら鳴らせと渡されたもので、不審者云々の音声については、飽くまで借り物なので他意はないということで。
誤解は解けたから今後こういうことはないと思っていいと学校側には告げるという事でいいな?」
それなら…空太自身が追うダメージは限りなく少ない。
学校側にも空太の素行について問題視されることはないだろう。
誤解…そう、飽くまで誤解で済む。
よもや錆兎の側から、そういう面を配慮した案を提示してもらえるとは思わず、肩の力が一気に抜けた。
ああ、これで助かる…と、そこで思ったが、一瞬ののち、空太はハッとなった。
そうだ!それより重要な案件がまだ残っていた!!
「あ、あのっ!すごくありがたい提案で、もう感謝の言葉もないんだが、僕自身の事以上に伯父の件が…」
そうだ、学校も大切だが生活基盤の方がより深刻である。
状況は学校内と違って、もう大企業のやりとりになっていて、いくら学校内の諸々を収めてくれた元生徒会長と言えど、そこまでのことを言われても困るかもしれない…
そう思いつつも一縷の望みをかけて言ってみると、
「ああ、権力を使って脅しをかけるなら使えないようにしないとと思って、さらに上から踏みつぶしてみただけだから、そちらも甥が反省していること、そして伯父は一切関与していないことを伝えて、厳重注意くらいになるよう手配しておこう」
と、飛んでもない答えが返って来て、空太は唖然とした。
…踏みつぶしてみた……踏みつぶしてみたっ!!!???
一介の高校生にそんなことが出来るはずがない。
ということは…????
「鱗滝は高校生と言うのは実は世を忍ぶ仮の姿だったりするのかっ!!???」
空太はかなり本気で言ったのだが、当の錆兎は目を丸くして、その隣では宇髄が爆笑している。
「…高校生というのは全く世を忍んでいない、本当の姿だが?
何故そういう発想になるんだ??」
「いやっ!普通の高校生に日本有数の大企業の人事を動かせるとか、おかしいだろう!!!」
「ああ、そのことか」
「そのことだよっ!!」
あまりに淡々と言われて、思わず立場を忘れて声高に怒鳴りつけてしまう。
しかし、この鱗滝錆兎という男は、自分に対する相手の無礼な態度とかに関しては、あまり気にしないようだ。
最初の威圧感が嘘のように肩の力が抜けた感じで言う。
「俺自身は本当にただの平凡な高校生だ。
だが、祖父が有名な剣術家で、年齢性別国籍を超えて様々な人種と接する機会に恵まれているため、友人が多くてな。
その中には大企業の社長や政治家もいたりするだけだ」
「それは、”だけ”じゃないよっ!!!!」
なんというか…よく人物像がつかめない。
だが、男女問わず好かれるというのは、なんとなくわかる気がした。
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