清く正しいネット恋愛のすすめ_86_罠と自覚

「拝島空太…。
産屋敷学園には小等部から入学。
それ以来、現在高校1年まで共学科。
クラスは、小1,2がA、3~6がC.中等部は1,2がBで3年がA組…
ということで相違ないな?」
と、まず確認されて、空太はコクコクと頷いた。

普段ならその堅苦しい言い回しに『お白洲での取り調べかよ』と、チャチャをいれるであろう宇髄も、今回は下手に突くと自分も巻き込まれて地獄をみそうなので、空気を読んで、黙って書記に専念している。

が、何故ここで話がそこから始まるのだろう?とは思っていて、ちらりと錆兎の様子を伺うと、錆兎はまとめてきた資料が入っているらしいファイルに時折視線を落としながらも、先を続けた。

「一方で、義勇は小等部から現在まで共学科なのは同じだが、クラスは同じになったことはないようだな。
さらに、2学期までは特に双方から互いに接触を持つこともなし。
拝島は不死川のように他を気にせず拒絶されるであろう相手に突進するようなタイプでもないと思うのだが、何故ここにきて、急に強引に近づこうとしたんだ?」

あ、そこかぁ…と、宇髄は感心する。
確かにそうだ。

宇髄が知る限りでも、確かに拝島はプライドが高い分、負けることを嫌うため、勝算の見込みの低い戦いはしない主義だと思う。

そして、その錆兎の指摘には、昨夜からずっと何故こうなったんだ?と自問自答し続けた空太本人も今更のように原点に立ち返ったような気持ちになった。

そうだ。
確かに見栄えの良い彼女が欲しいとは思っていた。
その相手としては、気の強い胡蝶しのぶや互いに両想いのバカップルの片割れとして知られる甘露寺蜜璃よりは、内向的で自分をたててくれそうな、フリーの義勇が好ましいと思っていたが、少なくともちょっかいをかけ続けている不死川が厄介なので、このタイミングで動こうとは思っていなかった。

…と、思いついたことをどう伝えようかと悩む。
言葉を選ばなければ社会的に人生が終わるかも…と考えていると、

「思いついたまま口にしていい。
言葉が悪いのは実弥とかで慣れているしな。
それで腹を立てたり心証を悪くしたりすることはない。
俺が知りたいのは美辞麗句で飾り立てられた言い訳ではなく、偽りの混じらない真実だ」
と、錆兎の方から言葉が添えられたため、それを信じることにして、

「ちょっと自分でもまとまっていないんだが…」
と、前置きをしつつ、空太は思いつくままを口にした。


「僕は自分で言うのもなんだけど、幼少時からなんでも他人より出来る子どもだったし、容姿も良かったから、そんな自分にさらに付加価値をつけるべく、見栄えの良い彼女が欲しいと思っていたのは確かなんだ。
学年の3大美少女と言われている3人の中で、胡蝶しのぶとは本当に相性が悪いと言うか互いに嫌いで、甘露寺蜜璃はずっとバカップルと言われる恋人がいる。
だから冨岡が良いかと思っていたが、ずっと追い回している乱暴者の不死川は面倒だしな。
奴は馬鹿だったからどうせ産屋敷学園大には進めないだろうし、奴がいなくなる大学時代に声をかければ良いと思っていた」

「あ~、確かにお前が考えそうな発想だわ」
と言う宇髄の相槌は、普段なら腹が立つ言い方なのだが、今のこの状況だと錆兎に信じてもらえることが第一なので、それを裏付けるようなその発言は正直ありがたい。

「ついでに言うと…ウサが女子にめちゃモテで野郎どもにも好かれている男だってのは、周りの反応見てりゃわかるだろうし、そんなモテ男が彼氏として名乗り上げたタイミングでわざわざ戦い挑んだりするタイプじゃねえよな。
どっちかっていうと、つきあってしばらくたって倦怠期に入ったくらいで隙狙うタイプだろ」
と、さんざんな言い方もされるが、それも否定はできない。

「…まあ、そうだね。
付き合いたてが一番気持ちが盛り上がってるだろうから、奪うのきつそうだし…」
と、それにも本音を言っておく。

許されているのは本音か無言かの選択肢しかない。
少しでも嘘が入れば、色々終わる。
だから、やややけくそなくらい本音を吐いておくことにした。

実際に略奪を企んでいたということについては、少なくとも表面上は腹を立てている様子もなく、問題にしていなさそうだ。
そうわかってくると、空太も少し落ち着いてきた。

「…で?結局何を知りたいんだい?」
と、こちらから聞いてみると、錆兎はそれなりに圧はあるがこれまでのどこか背筋が寒くなるようなものではなく、少し温度の戻った笑顔で

「拝島がこのタイミングで行動を起こそうと思った理由だな。
何かきっかけがあったのかどうかとか」
と言う。

「あ~!!」
と、その問いで空太は完全に思い出して叫んだ。

「そうだっ!元々は冨岡が俺のことが好きで、胡蝶に騙されて鱗滝との取引の材料にされているって聞いて、それなら洗脳を解いてあるべき姿に戻さないとと思ったんだっ!」


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