「そこでの会話は回収したICレコーダーで聞かせてもらった。
話の内容は一応音声から書き起こしているが、当事者なので記憶はしているだろう。
まず義勇の拝島に呼び出されるのが迷惑だと言う発言、その後の拝島の義勇が俺達といることで悪影響を受けているのではないかと言う発言までは、まあ互いの認識の違いなので問題はないと思う。
だが、そのあとは問題だ。
拝島の伯父が義勇の父の会社の取引先の権力者だから自分と仲良くしておいた方が良いと言う発言は、父親の会社を盾に性的な意味合いでの脅迫をかけていると取られても仕方がない」
これは非常にまずいことになった…という事は、さすがに空太でもわかった。
その言葉を口にした時、そういう意図があったという自覚があるので、余計にだ。
何か言い逃れが出来るネタがないかと脳内で必死に考えを巡らせるが何も考えが浮かばない。
このままでは本当にまずい。
すでに伯父が左遷。
あんな大企業の出世頭である伯父ですらそんな状態なのだから、このまま事態を収拾できなければ、一般企業の中間管理職である空太の父など、今日にでも失業者になるかもしれない。
学校を転校すればどうにかなるどころか、下手をすれば高校自体をやめて人目の届かないような所でその日の糧を得るために働かなければならないような状況になりかねない。
どうする…どうすれば、いい?
そもそも目の前のこの男は、今の空太の家の状況をどこまで知っているのだろうか?
日本有数の企業の人事が動かざるを得ないほどに、外国の大手マスコミや大企業が働きかけてきた原因を知っているのだろうか…
どちらにしても、…これはもう、土下座でもなんでもして慈悲にすがるしかない。
この流れが伯父で止まらず父にまでくれば、自分達は一家離散。
明日の食にも困る生活に落ちてしまいかねない。
「心の底から反省しているっ!なんでもするっ!!助けてくれっ!!!」
空太は生まれて初めてくらいにプライドを捨てた。
いきなり立ち上がっての土下座から、昨夜伯父が訪ねてきて言われたことまですべて打ち明けて、全身全霊で慈悲を乞うた。
ここでそうしておかないと社会的に人生が終わるのだと本気で思う。
そんな空太を、宇髄は、
(あ~あ…遅えよ…)
と、先日の錆兎の言葉を思い出すと、許されないであろうことを察してため息をつくが、空太の謝罪に対して錆兎から出た言葉は意外なものだった。
──…司法取引…のような扱いでどうだ?
ぞわり…と、宇髄は何故か悪寒を感じる。
温度のない笑顔…
自分が知る錆兎はそんなものを浮かべる男だった…か…?
それだけ深く怒らせたのだろう。
自分は間違ってもこいつを本気で怒らせるのだけは避けようと、改めて思う。
さて、それはとにかくとして、司法取引…とは?
拝島に何かこちら側の役に立つようなことができるのだろうか?
一体何に対して?
不思議に思う宇髄だったが、その後に続くやりとりに、本当に間違ってもこいつを敵に回すことだけはすまいと、さらにさらに心に固く誓うことになる。
「まずは、これから俺が質問することに正直に答えること。
それが大前提だ」
相変わらず目が笑っていない笑みというものを浮かべつつ、そう言う錆兎に、拝島はすっかり血の気のなくなった顔でコクコクと頷いた。
親しくはなくとも自分の学年の人間くらいはほぼ認識している宇髄が記憶している限り、自信家な拝島がここまで追いつめられたところはみたことがない。
まあ、宇髄自身だって、彼と同じ立場に追い詰められて、こんな錆兎を目の前にすることになったなら、拝島と同じようにひれ伏す気もしないでもないのだが…
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