清く正しいネット恋愛のすすめ_83_制裁の余波

「空太っ!!お前は何をしたんだっ!!」

夜の10時…空太は明日の話し合いに向けて少しでも自分に有利な状況を作っておかねば…と、考え込んでいた。
そこに飛び込んでくる父親。

激怒をしている父に、もしかして今日の濡れ衣を学校側が鱗滝に預けると言いつつ、親には連絡したのか…?

「今日の諸々なら誤解だから。
実は同学年の腹黒い女子に陥れられそうになっただけで、やましいことなど何一つしていないよ」
と即答えたが、あまり聞き入れてもらえていないようだ。

「伯父さんが来ているから、居間に来て自分で弁明しなさい」
と、部屋から引きずり出されて居間に行けば、そこには母方の伯父が機嫌が悪いなんてものじゃない、怒りで真っ赤な顔をしてソファに座りもせずに立っていた。

空太の母方の伯父は旧帝大を首席で卒業した人物で、非常に有名な大企業の部長職についている。
それだけではない。
出世頭でいずれは役員になるだろうと言われている人物だ。
母も母の親族も、そして父も、そんな伯父が自慢で、しかし彼には頭があがらない。

その伯父が何故か空太に激怒しているようだ。
父も母も青ざめて、それで伯父の怒りが自分達に向くのを避けるように、空太を伯父に差し出す。
そんな親の態度に半ば絶望感を覚えながらも、空太は脳内で必死に言い訳を考えた。

成績もよく運動もできる空太は、若い世代の親戚の中では評判が良く、将来的に子のいない伯父の養子にと言う話が何度も来ていたので、その優等生が学校で問題を起こしたらしいと聞いて怒っているのだろう。

だが、その件は鱗滝錆兎が収めるということで解決済みのはずである。

「伯父さん…今日のことなら誤解で…」
と、まず空太が言いかけた言葉は、

「今日の夕方…私はお前のせいで、職権乱用と脅迫、そしてセクシャルハラスメントを理由に降格、左遷されたんだぞっ!!どう責任を取るんだっ!!」
という伯父の怒号にかき消された。


え?え?ええっ???

何故そうなるっ?!
そもそも誰がどういうルートで何をすれば大企業の伯父を左遷させることなんて出来るんだ?!

「…伯父さん…何が起こっているのかよくわからないんですが…。
何か僕が関わるようなことがあったんですか?」
と、おそるおそるそう言えば、伯父は空太が本当に身に覚えがないと思っていることを察して、少し声のトーンを落とす。

「…本当に身に覚えはないのか?」
と、聞かれても、自分程度が何かしでかしたとしても、大企業の伯父を左遷させるほどの影響があるとは思えない。

だから
「ありません。何かの誤解では?」
と、即答すると、伯父はふむ…と、あごに手をやって考え込んだ。

「…お前がT.K.コープレーションの社長の娘に、私の名を出して、自分とつきあえ…と脅したと言う話だったんだが…」

少しの間のあと呟かれた、身に覚えがありすぎるそれに空太は青ざめた。
脳内パニックである。

確かに自分の伯父は義勇の父親の大手取引先だから、自分とは仲良くしておいた方がいいとは言った。
暗に付き合えという脅しだと言う自覚もあった。

…が、それは本来は自分のことが好きなはずの彼女が騙されて洗脳されて他の男と付き合わされているため、目を覚まさせるためである。
空太には立派な理由があるのだ。

だが、ここでそんなことを言っても通用しないだろう。

「…誰が…そんな、ことを…?」
と、聞く空太。

まだ事情聴取をしていないので、そのことを知っているのは義勇だけなはずだ。
よしんば彼女がそれを父親に話して父親が知ったとしても、T.K.コーポレーションと天下の四葉商事の部長である伯父とでは、伯父の方が立場は強いだろう。

四葉商事の出世頭の部長を左遷できるような権力を持っている相手など、そうそう居るわけがない。
しかも今日の昼の発言だ。
処分があったにしても早すぎる。

そんなことを思っていると、伯父は苦々しい表情で
「欧州最大手の一つ〇×ジャーナルの女性編集長から権力をカサに女性に交際を強要している親族を容認していることについて取材をという話があって、それだけなら誤解だと言えたかもしれんが、その後、わが社の取引先でも最大手の米国の〇〇社から、同様の理由で会社として対応しないのなら、コンプライアンスの問題で今後の取引を考えると言われて、さらに同じくフランスの大手取引先数社からも同様のことを言われたらしい。
ここまで大手取引先から一斉に動かれるということは、さすがに早急に対応をしなければ、会社の損失が取り返しのつかないものになるということで、急遽、中心から外されて最北の営業所に送られることになったんだ。
お前は本当に身に覚えがないのか?
それを誤解だと証明できるか?
それが出来れば処分も取り消せるかもしれんが…」
と言うので、空太は思わずうなずいてしまった。

言ってしまったということは本当で、誤解とは言えないが、そういう意図があったわけではないと証明できればいいわけなので、明日、鱗滝との話の中でそう伝えればなんとかしてもらえるだろう。
もし便宜を図ってもらえるなら、高校の間くらいは奴に義勇を預けてやっていてもいい。

この時、空太はまだ事態を把握せず、楽観視していた。
そして、翌日、恐ろしい状況を思い知るのである。


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