計画は全て完璧なはずだった…
なのに、さらに追い込まれてしまったのは何故なんだろうか…
夕方…帰宅した自宅の自室で空太は頭を抱えていた。
失敗だ、大失敗だ。
学校での地位はすでに危ういが、今後次第では学校生活が終わるかもしれない。
昼休みまでは絶好調だった。
もともと義勇を呼び出すつもりだったのだが、登校して担任が来るまでゆったりと過ごしていると、なんと義勇の方から空太を訪ねてきたのである。
──昨日の話…昼休みで良かったら聞くけど……
空太の席まで来てそう言いながら見下ろす義勇は可愛い。
小さくて…でも、同じ小柄でも胡蝶しのぶのようにピキピキしていない。
おっとりほわわ～んとした、どこか柔らかい雰囲気がある。
昨日、断られた時には今日は強引にでも連れ出さねば…と思っていたが、なんのことはない。
昨日の『放課後だし人を待たせてるから、どうしてもだったら明日の休み時間にでも…』と言う言葉は便宜上ではなく、本当に放課後で人を待たせているから今は困るということだったようだ。
そうだ。義勇は胡蝶しのぶのようにとがった女ではない。
ましてや空太の事を好きなのだ。
邪険にするはずがなかった。
一度断ってしまったことを気にしているのか、どこか気まずそうにしているのも愛らしい。
空太は全く気にしていたりはしないのに…。
などと思いつつ、機嫌が急上昇した空太は
「ああ、それでいいよ。
ランチ一緒にする？今の季節なら特別校舎裏の庭のベンチとかもいいかも」
と提案するが、その言葉に彼女は何故か不機嫌に
「お昼ご飯は美味しく食べたいから知らない人と食べたくない。
だから昼休み始まって30分後。
裏庭の銅像の前ね」
と、言い捨てて行ってしまう。
なんだ？なんなんだ？
もしかして照れているんだろうか？
まあ、そうなのかもしれないな。
彼女は異性慣れしていないから。
空太はそう納得して、昼休みを楽しみに待つことにした。
そして待ちに待った昼休み。
空太は大急ぎで昼食を済ませて待ち合わせ場所の特別校舎の裏庭の銅像前へ。
とりあえずはとにかく説得。
説得が出来たら再度洗脳されないように、即、既成事実を作ってしまった方が良いかもしれない。
そうなると、帰りに鱗滝に捉まらないよう、昼休みが終わったら彼女を連れて一緒に帰ってしまおうか…。
伯父から義勇の父親に手を回してもらって、彼女が気分が悪くなったから早退させるのに、婚約者の空太を同行させて欲しいと連絡をさせるのはどうだろう…。
そのままタクシーを拾って家に連れ帰れば、気が強くない義勇のことだ。
強く言えばそのまま空太の部屋で既成事実を作ることもできるだろう。
もちろん、ちゃんと責任をとって大学を卒業して社会人になったら嫁にもらってやるから、問題はないはずだ。
むしろ自分のように優秀な男と婚約させてやるのだから感謝されてしかるべきである。
そんなことを考えていると、彼女がやってくる。
緊張しているのか、綺麗な形の眉を寄せ、難しい顔をしているが、そんな表情すらもあのレベルの美少女だと愛らしい。
この昼休み後から、さらに自分にだけ愛くるしい顔を見せてくれるようになると思うと心が躍る。
しかし、そんな甘く幸せな予想は、この数分後には破られることになった。
洗脳を解いて説得するのに失敗をする…
そのことまでは最悪の結果として予測しないでもなかった。
とても納得がいかないし理不尽で腹は立つが、洗脳が解かれないままでは、自分との将来について語っても否定されるのも想定しないでもなかった。
だが、そのあたりも、家族大好き娘らしい義勇のことなので、父親の会社の話を出せば、とりあえずついてはくるだろうし、部屋に連れ込んで既成事実を作ってしまえば目を覚まして話を聞くだろうくらいには思っていた。
しかし、その言葉と移動しようと手を掴んだだけで、いきなり防犯ブザーの音を鳴らされるとは普通思わないだろう。
──不審者ですっ！助けてぇぇ～！！！などという、大変人聞きの悪い言葉が響き渡るようなものなんて、最悪だ。
しかも、わざわざ人の少ない場所を選んだと言うのに、2階の女子科生徒会では女子科の生徒会役員達が集まっていたらしく、2階の窓から飛び降りてきた女子科の生徒会長に腕をひねり上げられる。
もう本当に不審者のような扱いだ。
騒ぎを聞きつけて野次馬だけではなく、教師達まで集まって来るにいたっては、もう絶望しかない。
空太の輝かしい学生生活が…社会的評価が、終わってしまった。
唖然としていると、得意げに出てくる胡蝶しのぶ。
どうやらまたしてもあの女に嵌められたらしい。
しかしながら、何故かそこで鱗滝が仲裁に入ってくる。
胡蝶しのぶの手先ではないのか？と空太も怪しんだが、にこやかな笑みを浮かべながら、ずいぶん友好的に近づいてきたかと思えば、処罰を話し合う教師達に、教師が介入するとおおごとになるから、と、今回の諸々は自分に預けないかと申し出る。
おおごとになるから、というからには、おおごとにならないように、と、動くつもりなのだろう。
これまでは科が違ったので接触がなかったが、実際に接してみると、悪い奴ではないらしい。
少なくとも、必ずしも胡蝶しのぶの味方、というわけではないのかもしれない。
そう思って見て見れば、なかなかの好青年のように思える。
まぐれとは言え、一度は学年1位を取ったくらいなので、頭も悪くはないのだろうし、他の男子達のように空太に嫉妬して僻んだ態度を取ることもないのだろう。
まあ、これが終われば友人にくらいはしてやってもいい。
とりあえず双方の言い分を聞いて、それをまとめて、まとめたものを間違いがないようにもう一度本人に確認後、教師に提出するから、と、いうことで、翌日に話をすることになった。
まあ、あやうく学校内の地位が地に落ちるところだったが、この鱗滝の聞き取りが終わったら誤解を解いて回ればなんとかなるだろう。
…と、これで最悪な事態は終わった…と、空太は思ったのだが、この最低最悪な諸々ですら、まだ甘かったのだと、彼はその夜に知ることになる。
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