清く正しいネット恋愛のすすめ_81_暗躍…そして…

まずは出来れば敵の人数を減らしたい。

胡蝶しのぶ以外の奴の性格その他はわからないが、冨岡義勇が元々は空太のことを好きだったのを胡蝶に騙されているのだ、と、知れば、少し考えてくれる人間はいないだろうか…。

いきなり彼女は自分のことが…と言い出せば身バレもするし、こちらが潰される。

だからとりあえず、今彼らがしていることは恥ずべきことなのだ、と、暗に伝えて、そのことを気にしそうな反応を取る人間が居れば、申し訳ないが善意の第三者で真実を知る武藤あたりに頼んで、事情を説明してもらうと言うのが安全安心確実かもしれない。

そうして敵を味方として取り込んでいくのがいいだろう。


…ということで、隣のクラスが音楽で休み時間が始まる瞬間には全員特別校舎にある音楽室にいる3時間目のあとの休み時間に、空太は大急ぎで4人の机の引き出しにメモを放り込みに行った。

当たり前だが隣のクラスの誰もいないので、見咎められることなくミッション終了。
さっさと自クラスに戻っていく。

あとは反応待ちだ。

……と、思っていたのだが、空太が考えるよりずっと、彼らの性根は腐っていたのだろう。

メモに気づくと恥じる様子もなく互いに見せ合い、それを見た義勇は彼らに洗脳されているのでメモの主に対してけしからんと声をあげたため、クラスの女子を巻き込んで、犯人を探そうと言う声があがったようだ。

唯一鱗滝だけは少しばかり恥を知っていたのか、単なるいたずらだと思うのでおおごとにしないようにと周りをなだめていたらしい。

B組の女子達はそれで『さすが鱗滝君。心が広いわよね~』とまたさわいでいたとのことで、あるいはそういう言葉を引き出すためのポーズなのかもしれない。

胡蝶しのぶに操られているとはいえ、空太の彼女であるはずの冨岡に横恋慕して奪っておきながら、とんでもない奴である。

少しばかり顔が良くて強いくらいで、女子に騒がれていい気になりすぎだ。
しかも胡蝶しのぶの友人だけあって他人を騙すのも上手いのか、空太のことは僻む男どもも、この鱗滝にはずいぶんと好意的なようだ。
全く皆、騙され過ぎではないだろうか…

ともあれ、この作戦も、まだ共学科に移籍して数週間なのに鱗滝がいかにクラスメートたちを騙せて人気を稼いでいるかを確認することになっただけで、作戦自体は大失敗だ。

となると…残りは直接冨岡義勇を説得することなのだが、彼女にはいつも余分な者がくっついている。
さて、どうするか…と、悩んでみたのだが、そう言えば委員会だけは胡蝶しのぶが画策する前に決まっていたものなので、胡蝶しのぶの取り巻きがくっついていなくて、義勇が一人になる時間だ。

もちろん空太も図書委員ではないのだが、どちらにしろ委員会中に込み入った話ができるわけではない。
だが、彼女の委員会が終わって教室に戻る前に待ち伏せして連れ出せばいい。

そう思って空太は図書室から共学科の教室に向かう渡り廊下の手前で彼女を待った。



行きは図書館まで鱗滝が送ってくる。
空太より背が高く、さらにわかりやすく筋肉がついているが、体格が良ければいいというものではない。
空太だってスタイルはかなりいいし、単に体格よりも脳みそを鍛えているのだ。
なにしろ毎回2位をキープしている。
まぐれで1度1位を取るより、継続して2位の方が絶対に上だ。

おそらく奴のほうが人気があるのも、出来すぎる男である空太に一般人は委縮をしてしまうからだろう。

まあそれでも胡蝶しのぶに操られる程度に頭が悪いのだから、わざわざムキになって相手をしても仕方がない。
いずれ義勇にふられてしまうわけだし、その時は胡蝶しのぶの企みが破れて本来あるべき関係に戻っただけで空太が悪いわけではないが、巻き込まれさせてしまったことについて形ばかりは謝罪してやろうとは思っている。

そう、自分は寛大な人物なのだ。


こうして委員会が終わるまで1時間ほど待ち、図書室のドアが開くなり飛び出してくる義勇に声をかける。

「少し話があるんだけど、ちょっといい?」
と、ネット内ではよく話す仲になっていたこともあり、その感覚で声をかけたが、

「…良くない。放課後だし人を待たせてるから、どうしてもだったら明日の休み時間にでも…」
とにべもなく断られた。

そのまま走り去られそうになったので、思わず手首を掴んで
「話をしたいだけだ。少しついてきて…」
と、引き留めて、遅くなって鱗滝達が迎えにきて邪魔をしたりしないように、人目のつかないあたりに連れて行くことにする。

義勇は大人しいタイプだし、異性とつきあったりとかもなさそうだし、むしろキスの一つでもしたら大人しく話を聞いてくれるのではないだろうか…

と、そんなことも思いついて、さて、とりあえずどこに連れて行こうか…。
委員会で使うような教室もない4階が良いだろうか…

そんなことを考えていると、いきなり

「あ~!冨岡さんっ!俺、鱗滝君から図書委員終わったら一緒に帰って来てって頼まれててっ!!」
と、声がする。

振り向いてみれば、1人の男子生徒。
どこかでみたことがあるようなないような…同じ学年ではあると思うのだが、モブ顔すぎてあまりに印象に残らない。

しかし話しぶりからすると、そいつは義勇のクラスのもう一人の図書委員なのだろう。
特に鱗滝と仲が良いような感じでもないが、そんな奴にまで声をかけて義勇を見張っているなど、少し気持ち悪い、ストーカーなんじゃないか…と空太は思う。

が、洗脳されているせいだろう。
義勇はホッとしたようにそいつに走り寄ろうとする。

ダメだっ!

「冨岡さんは僕と話があるから…」
と、空太はグイっと強く義勇の手を引きながら、気が弱そうなそのモブを威圧するように宣言するが、モブは困った方向に気が弱かったらしい。

「ごめん。俺が鱗滝君に怒られちゃうし…」
と手を合わせてくる。

鱗滝と自分と…どちらが怖いか思い知らせてやろうかっ!!
と、空太はその言葉に気色ばみそうになったが、続く、

「なんだか最近、冨岡さんの周りのクラスメートに嫌がらせのメモが配られてたらしくてさ。
…俺は知らないけど、鱗滝君は犯人知ってるみたいでね」
と言う言葉に一気に血の気が失せた。

まずい…まずい、まずい!!

まだ義勇の洗脳を解いて、彼らが悪だと証明できない状況では、そのことを言いふらされたら空太の方が悪になってしまう…。

そうしたら、義勇をモノにするどころか、嫌がらせ犯として一気に学年中の軽蔑の対象だ。

「もう、いいっ!!」
と、ほとんど条件反射的に義勇の手を離すと、空太は自分の教室に逃げ帰る。

どうする、どうする、どうすればいい?!!

もういっそのこと冨岡義勇を諦めるか?
それでなんとか不問にならないか?

いや、そんなわけにはいかない。
本来、義勇は自分の女だったのだ。
それをそんな風に騙し取られたまま後に引くなんてできない。
出来るもんかっ!!

何か有用な武器を探すんだ。
こうなったら頭脳を駆使するだけではなく、情報戦だ。

そう決意して帰宅した空太は、色々調べるうちにふとしたきっかけで思いがけないことを知った。

そう…冨岡義勇の父、冨岡義一が経営するTKカンパニーの大手取引先が、自分の伯父が部長を務めている某大手企業であることを…。

使える…これは使えるかもしれない…。
学生の間の惚れたはれたの感情より、生計を支える家庭の事情は遥かに重い。
ましてや彼女は元々は空太の彼女になるはずだったのを横取りされたのである。
それを返せと言うのは正当な主張だ。

そう、善は急げだ。交際を始めるなら一刻も早い方がいい。
明日、明日には彼女に真実を告げて、自分の元に来させよう。

空太はそう決意すると、それまでの不安や苛立ちが嘘のように上機嫌で、おそらくギユウが隣にいない最後の日になるであろう今晩のレジェロを楽しむことにした。


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2 件のコメント :

  1. 自分の父親が社長なのかとおもったら伯父、しかも部長…コンプラ違反だからそんなの脅しに仕えるはずがないというはさておき、なぜそれで行けると思ったのか空太氏そこまで頭良くないのでは…

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    1. まあ…立場が強い側がコンプラ違反犯しても得てしてスルーされる世の中ではありますけどね😀
      ただ、伯父がそんな理由で甥の願いを聞いて取引を停止してくれるはずはないというのはありますが😅
      空太氏、今まで人生上々だったので、挫折することなど考えてない人なので💦💦

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