清く正しいネット恋愛のすすめ_79_悪魔の囁き

その日は終礼前に女子が大騒ぎをしていた。

「嘘、嘘、嘘、ウソオォォ!!!鱗滝君いるっ!!!」
「ええっ?!!どこー?!!」
「共学科の玄関前っ!!」
「まじまじっ?!!」
「やあぁぁーー!!相変わらずカッコいいっ!!!」


それが自分に向けられている嬌声なら賑やかだな、と、思うところだが、自分以外の人間に対してのものだと、ひたすら騒々しい。

特にその嬌声を向けられている相手が鱗滝というあたりで、空太の機嫌は急降下した。

鱗滝錆兎…。
男子科の学生だが、空太ですらその名は知っている。

まず中等部の頃の男子科の生徒会長だ。
その時点で目立つ。

さらに…これは飽くまで噂だが、成績順位が学年1位らしい。
もちろん、自分の成績順位以外は発表されるわけではないので確かではないが、中3の時のある授業で教師がポロリともらしたので、他の時期は知らないが、少なくとも中3の2学期の成績に関しては確かなようだ。

まあ、奴が一度くらい1位を取ったと言っても、空太は毎回落ちることなく2位をキープしているので、全体としては自分の方が上だと思っている。

だが、元生徒会長のインパクトはすごい。
賢そうに見えるのだろう。

空太も中等部の頃に生徒会長でもやってみようかと思ったことはあったのだが、共学科は女子にモテると男子に僻まれる。
そして、男子に人気の胡蝶しのぶが立候補した時点で、男子票のほとんどと女子の一部の票が持っていかれたら敵わないと判断して立候補を断念した。
戦ってみて女子に負けたなどというみっともない状況は作りたくはない。

その点男子科はどうやっても男子だけなので、そういうハンデがない分、なりやすかったのだろうと思う。

本当に…自分よりも成績が悪い癖に女だと言うだけで生徒会長の座を奪っていった胡蝶しのぶほど忌々しい女はいない。

もしあの女がいなければ、女子の歓心を鱗滝などに持っていかれはしなかったのに…と空太は苛立ちながらそう思った。

が、その後、もっと苛立つ展開が待っているとは、この時の空太は思いもしない。


終礼後、だいたい同じくらいの時間に終わったらしい隣のクラスの教室のドアがガララッ!!と開いて、冨岡義勇が飛び出していく。
それを追うように走っていく不死川実弥。

まあ、珍しくもない光景だが、それにも空太はやや苛立つ。

あいつさえいなければ、とりあえず冨岡義勇に声をかけてやって、勉強もスポーツも出来る自分にふさわしい見栄えがよく従順な彼女持ちになれるのに…

あいつ、追っていく時に階段で足を滑らせて死なないかな…などと物騒なことを考えながら、空太は興味ない素振りで彼らがまたひと悶着起こすのであろう玄関までたどり着いたわけなのだが、そこで繰り広げられていたのは、空太が思っても見ない展開だった。


鱗滝の後ろに冨岡義勇がかばわれている。

やめろっ!それは俺の女だっ!と言いたいところだが、今の時点では何も接点がないのだから、そんなことも口にすることができない。

鱗滝に食ってかかる不死川。
そうだっ!そこだっ!殴り飛ばせっ!!
と、空太は出会ってから初めて、心の中でではあるが、不死川を応援した。

………が、殴り飛ばそうとした手を取られて、あっさり投げ飛ばされて床に沈む不死川。
そして、そんな鱗滝を頼もしいと思ったのか、やつにキラキラした視線を送る冨岡義勇。

全く悪夢のような展開である。


しかししかし、悪夢はさらに続いたのだ。

翌朝、当たり前に冨岡義勇を共学科の玄関先まで送りに来る鱗滝。
その鱗滝の姿にきゃあきゃあ騒ぐ共学科の女子達。

それだけでも十分不快であるのに、その二人を玄関先で迎え入れたのはあの胡蝶しのぶである。

何故あの女がっ?!!
と、ついつい立ち止まって見ていると、横にスッと誰かが寄ってきた気配がした。

「しのぶはね…昔から男子を利用するのがすごく上手いの。
今回もほら、鱗滝君から何か受け取ってるし、冨岡さんをネタに何か利用してるんじゃないかな…。
冨岡さんも、しのぶみたいなタイプに強く言われると流されちゃう子だし?
だって、冨岡さんて多分、本当は拝島君のこと好きっぽかったじゃない?」

「…え??」
思いもかけなかった言葉に空太は横を振り返った。

そこには同学年の女子。
同じクラスにはなったことはないが、見覚えはある。

確か…武藤まり…だったか。
いつも女子の輪の中にいる印象で、それだけに女子の情報には詳しそうだ。

彼女は自分に視線を向けた空太を見上げて
「あれ?気づかなかった?
私たちの周りでは有名な話だったんだけど…。
彼女、あの通り内気だから言い出せないのかもね~とかいつも噂してたの」
と、ニコリと言った。

「…本当に?」

全く気付かなかった。
それならそうと言ってくれれば、即OKしたのに…と思いつつ聞き返すと

「私は彼女と特別に親しいわけじゃないから本人に聞いたわけじゃないけどね。
私だけじゃなくて私の友達周りもみんな言ってたから、気のせいではないんじゃないかな。
しのぶもひどいよね。
拝島君てモテるし、周りに女子も多いからさ、しのぶの本性とか気づいちゃってて、利用できないじゃない?
だからって、冨岡さんの気持ちに気づいてても利用しやすそうな鱗滝君とくっつけて利用しようとか、なんだか冨岡さんが可哀そう。
…ま、拝島君は本当にモテてよりどりみどりだから、冨岡さんに興味ないかもだけど。
余計な事言ってごめんね?」
と、優しく微笑んで、軽やかに友人の女子の方に走って行った。

なるほど。
気ばかり強くて女子の友人があまりいなさそうな胡蝶しのぶと違って、自分と特別に親しくない女子の事も気にかけてやる優しい子だから、ああやって友人も多いのだろう…女子も本当にピンからキリまでいるんだな…と空太は感心する。


そんな武藤の話を裏付けるように、それから胡蝶しのぶは冨岡義勇を見張るようにずっとついて回って、さらにそのついて回るメンバーに冨岡義勇に暴力をふるっていた不死川実弥まで加わるようになった。

これは…もう、彼女は本当は空太と付き合いたいと思っているのに、胡蝶しのぶに無理矢理脅されて近づけないでいるに違いない。

…これを…助けてやれば、僕は一生、彼女の英雄…いや、神様、かな?

悪夢だと思ったが、よくよく考えてみれば、これはチャンスなのかもしれない。
敵は空太の存在を全く意識してはいない。

だからこそ…そこを突けばまだ勝機はある。


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