「…さて…初めまして、だな。
俺は鱗滝錆兎。
幼稚舎からこの学園で、幼稚舎は共学科、小、中と男子科で、高校は1学期までは男子科、二学期から共学科に移籍してきた。
“短い間になるとは思うが”、よろしく頼む」
「…拝島空太だ…」
と、おそるおそる右手を差し出した。
苦笑する宇髄と真菰。
それに
「宇髄、どうしたァ?」
と、意味が分からずきょとんとする不死川に、胡蝶しのぶがクスリと笑って
「彼との付き合いは“短い間”になるらしいですよ?不死川さん」
と、機嫌が良いのだろう。わざわざ宇髄の代わりに伝えてやる。
そんな面々の後ろでわけもわからずざわつく野次馬。
ここまでの騒ぎになったのでさすがに放置もできないとなったのだろう。
その生徒達をかき分けて、教師陣が出てくると、野次馬たちにそろそろ昼休みが終わるので教室に戻るようにと、誘導を始めた。
「…どういう事になってるんだ?
拝島が女子に乱暴をしようとして防犯ブザーを鳴らされたと報告があったんだが…」
と、まず生活指導の担当でもある体育教師が竹刀を片手に近づいてくる。
その言葉に青ざめる拝島。
「違いますっ!僕はそんなことしてませんっ!僕を陥れようとしている奴らが……」
と、必死の形相で言うのを放置で、錆兎が穏やかな口調で切り出した。
「学校側への報告はきちんとするつもりではありますが、関係者全員それぞれに言い分はあるでしょうし、俺が責任をもって全員に事情を聞いて、それをまとめたものを本人たちに確認をした上で学校側に提出という形で処理して頂けないでしょうか?
加害者として生徒指導室に呼ばれたりすれば、実際にどうであれ、今後の人間関係に響くでしょうし、被害者とされている側にも俺個人としては嫌な思いをさせたくはないので。
この件の性質上、おおごとになれば、状況によっては下手をすれば警察案件ですから、それは学校側も、その学校に通う生徒も皆避けたいところではあると思います。
双方、誤解があれば解き、謝罪する部分は謝罪をして、無駄に傷つく人間を出さぬようということで、教師よりは元ではありますが生徒会長の方がまだ話しやすいと思うので、いかがでしょう?」
「あ~、鱗滝がそう言うなら、それが良いんじゃないか?
教師が先導する形だと、学校側もきちんと処罰をせねばならなくなるしな。
生徒間の喧嘩じゃすまなくなるし」
と、まず男子科の1年の主任教諭がそう声をあげ、
「女子科としては何かあったのなら、きちんとした形での処罰を望みますが…それで被害者に嫌な思いをさせることもありますので、当事者の女生徒の判断に任せます」
と、女子科の1年の主任教諭は少し不本意そうに…しかし、それをそう流す。
「私は…さびと…鱗滝君の判断に従います」
と、そこで義勇がそう言うと、最終的に共学科の生活指導の体育教師に
「拝島は?それでいいか?それとも生徒指導室で俺が聞いた方が良いか?」
と聞かれて、拝島は
「いえ、鱗滝君の方で…」
と、プルプルと首を横に振った。
加害者とされる男子生徒、被害者とされる女子生徒、双方の合意が取れたところで、最後に共学科の1年の主任教諭が
「あ~、じゃあご苦労だけど、頼むわ、会長」
と、錆兎の肩にぽん!と手を置いて、方針が決定した。
「とりあえず、もうすぐ昼休み終わるから、2,3日中には結果報告よろしくな」
と、戻っていく教師陣。
それを見送った後、錆兎はもう一度、拝島を振り返った。
ビクッと身をすくめる拝島に、ニコリと微笑みかけながら
「とりあえず俺が知っていること、それから胡蝶を始めとする周り、そして義勇から見た今回の諸々を今日中にまとめておくから、明日の放課後にでもそれを見せた上で、拝島の側の言い分を聞くということで良いだろうか?」
と提案する錆兎に、拝島はホッとしたようにコクコクと頷く。
「じゃあ、そういうことで、教室に戻って授業だ」
と、錆兎は胡蝶や宇髄など、その場に残っている面々に声をかけて、義勇を連れて共学科の校舎へと足を向ける。
「…あいつは…放っておいていいのかァ?」
と、ちらりと不死川が後ろに視線を向けるが、宇髄が
「放っておけ。自分も“短い間”になりたくなきゃ関わるな」
と、その腕を掴んで前を行く錆兎達を追う。
「どういう意味だかわかんねえんだがァ?」
と、釈然としない様子の不死川に、宇髄はため息一つ。
「激怒するところで笑顔のままのウサはやべえってことだよ。
巻き込まれて一緒に踏みつぶされねえように、拝島には関わんな」
と、そう言って身震いした。
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