清く正しいネット恋愛のすすめ_74_とある昼休みの話

「昨日の話…昼休みで良かったら聞くけど……」

翌日の朝、義勇は一人でC組の教室の男子を訪ねた。

正直、放置で済むなら放置するところだが、放置して付きまとわれるのはまっぴらごめんだ。
そう思ってわざわざ出向いているのに

「ああ、それでいいよ。
ランチ一緒にする?今の季節なら特別校舎裏の庭のベンチとかもいいかも」
と、なんだか勘違いされた発言をされて、イラっとする。

「お昼ご飯は美味しく食べたいから知らない人と食べたくない。
だから昼休み始まって30分後。
裏庭の銅像の前ね」
と、一方的に言い捨てて、ぽか~んとする拝島を残して戻ってきた。

こっそりついてきたしのぶがそれを見てガッツポーズをしているのに一瞬不思議そうな視線を向けて、その後、義勇は

「言ってきたっ!昼休みに銅像前」
と、さきほどまでの無表情が嘘のように嬉しそうな笑みを浮かべて錆兎に駆け寄って、錆兎に報告をする。


それを聞いて、銅像にほど近い特別校舎の1階の廊下に茂部太郎と、彼が参戦を申し出させてくれたその友人二人、計3名に護衛として待機してもらうことにした。

本人たち曰く、自分達は何故か他から認識されにくいので、おそらく真後ろに立っていても気づかれないと思うとのこと。
実際、幼稚舎の頃もそれでしのぶへの嫌がらせ現場に居合わせていたから阻止できたという。
ある意味、なまじ腕に覚えがあったりするよりも、よほど頼もしい協力者だ。


こうしてワクテカしている一部を除いて皆で緊張しながら迎える昼休み。


防犯ブザーとボイスレコーダーのことは知られると危険なので、くれぐれも相手に言わないようにと念を押しする錆兎。
楽し気に防犯ブザーの使い方を説明するしのぶ。

何かあれば茂部太郎達が身を呈して止めてくれるらしいが、一応ブザーが聞こえる範囲には居た方が良いだろうという事で、みんなして今日は特別校舎内にある科学部部室で昼を食べ、そのままそこに陣取る手筈になっている。


こうして万全を期した面々に送り出された義勇は、昼休みも25分ほど経ったあたりで、元々用意していた外履きを持って1階へと降りて行った。


産屋敷学園内にはあちこちに創始者の銅像がある。
正面入り口近くとか、校舎前とかならとにかく、こんな普段は人が少ない特別校舎のさらに裏庭に置いてどうするんだろうと思っていたが、案外、こんな待ち合わせのためにわざわざ置いているのかもしれないな、などと思いながら、義勇は校舎の玄関から出て、テチテチと銅像前へと歩を進めた。

拝島はもう銅像前で待っていて、義勇の姿を認めると、わざとらしいほど爽やかな笑みを浮かべて手を振ってくる。
何故だかそれが不快で、義勇は少し鼻に皺を寄せた。


それこそ自分に暴言を吐き暴力をふるっていた不死川を相手にしてさえ、怯えはしても嫌うことはなかったほどには平和主義の義勇だが、何故だか拝島のことは好きにはなれない。

おそらく自分ではなく自分の周りに嫌なことをしたからだと思う。
つまり、錆兎がそうであるように、義勇もまた自分よりも自分の周りに対する態度が悪い相手が特に嫌いだったということだ。

そう言う意味では彼は失敗したと思う。


「…それで?話って?」
と、普通に声が届く範囲に来るなりそっけなく言う義勇に、拝島は少し意外そうな顔をした。

「義勇ちゃんらしくないね。何か嫌なことでもあった?」
との言葉に義勇は
「こうして呼び出されるのが嫌」
とにべもない。

「呼び出したのは義勇ちゃんの方でしょ?」
「昨日の放課後、用があるって強引に連れて行こうとしたから。
知らない人と会うなら、人が少ない放課後より、まだ昼休みの方がマシ。
放置してたら二度と構ってこないでくれるなら、放置してた」

そんなやり取りに、はぁ~と、まるで義勇の方の我儘を許容でもしているかのようにため息をつく拝島に、義勇はさらに苛立った。

錆兎の机に嫌がらせのメモをいれるなんて、もうそれだけで人類史上稀にみる極悪人だと、そういう認識を持っているので、そんな相手が何を言ってきても腹が立つ。

「それから…名前で呼ぶのもやめて。
名前で呼んで良いのは友達と恋人の錆兎だけ。
知らない人には呼ばれたくない」
と、パーソナルスペースが広い義勇としてはそのあたりも不快でそう言うと、拝島が、なんと

「俺だって最終的にそうなると思ってるし?
というか、今、義勇ちゃんの周りにいる奴らといるのは、義勇ちゃんにとって良くないと思ってるよ?
本来義勇ちゃんはそういう言い方する子じゃないでしょう?
周りに影響されてなんだか尖った言い方するようになっちゃったみたいだし、一緒にいる人間は選ばないとね」
などと言いだして、義勇は珍しくカッと頭に血が上りそうになった。

それでも例のメモのことは口にしないように厳命されている以上、周りへの嫌がらせについては何も言えないので、

「私、みんなの悪口言うような、あなたみたいな人、好きじゃない。
で?話って結局みんなを悪く言いたかっただけ?
それならもう二度と話しかけてこないで」

と、不快な発言をする相手にも、それにうまく言い返せない自分にも腹が立って、そう言って睨みつけると、拝島は

「未来の旦那様の僕にそういうこと、言わないほうがいいよ」
と、にやりと嫌な笑みを浮かべる。

その笑みも言葉も不快すぎて、ぞわりと悪寒が義勇の背筋を走った。

「…気持ち悪いこと、言わないで。
私は将来、錆兎のお嫁さんになるの。
両親だって認めてくれてるんだから」

とにかくもう気持ち悪すぎて無理だ…と、義勇は言うだけ言って切り上げるつもりでそう言うと、じゃあ、と、踵を返そうとしたら、いきなり腕を掴まれる。

もう限界すぎて思わず悲鳴をあげようとした義勇を自分の方に引き寄せると、拝島は改めて義勇の両腕を掴んで、少し身をかがめて視線を合わせてきた。

そして、その口から出た言葉は、

──僕の伯父がね、義勇ちゃんのパパの会社T.K.コーポレーションの大口の取引先なんだよ。だから僕とは仲良くしておいた方がいい…

という言葉だった。


Before<<<    >>> Next(10月10日0時公開予定)




0 件のコメント :

コメントを投稿