錆兎ファン…そのせいだろうか、クラスメートの茂部は、男子が苦手な義勇でも全く緊張もしない。
むしろ教室までの帰り道、思いきり錆兎について語れて楽しかった。
さきほどまでの緊張が一気に吹き飛んで、そんな風に楽しく錆兎の話で盛り上がって教室につけば、錆兎と宇髄が楽し気に雑談をしながら待っていた。
「珍しい組み合わせだな、おい」
と、宇髄がまず、義勇の隣の茂部太郎に視線を向けると、
「俺も図書委員なので…」
と、茂部太郎が言って、それに続いて義勇が
「ああ、そうだったんだ。だからあの時あそこにいたんだね」
と、茂部太郎のことをクラスメートだと認識はしていたが、実は同じ委員会の委員だとは認知していなかったらしく、驚いたように頷いた。
その義勇の言葉に、
「…あそこって……図書室から一緒に帰ってきたわけじゃなかったのか…」
と、錆兎はそこが気になったらしく近寄ってくる二人に視線を向ける。
そこで義勇は思い出したように
「そうそう、彼はさっき私を助けてくれたんだ…」
と、さきほどの一連の話を錆兎と宇髄に報告した。
そして全てを語り終わった時には見る見る急降下していた錆兎の機嫌。
「ウサ、ウサ、冨岡が怖がるからキレんなよ？」
と、苦笑する宇髄。
思いのほか激怒している錆兎に困った顔の義勇。
そんななかで、茂部太郎が
「…あ、あの……実は俺…拝島といる冨岡さんがなんか困ってるようだったのをみかけて、もしやばいことになったらって思って…録音しておいたんだけど…」
と、コソコソっと自分のスマホを出して音声を流す。
「…おまっ…なんで録音まで…」
と、その卒のない行動に、宇髄は逆に少し警戒の色を見せるが、それにも気づいたようで、茂部太郎は
「…実は…この前、音楽の前の休み時間に、拝島がすごい目で冨岡さん達をガン見してたんで、何かあったのかなと思ってて……」
と、ぽりぽりと頭を掻く。
「あ”？それってもしかして、先週の？」
「そう。あの鱗滝君が先生の代わりした日の…」
あ～～～、と、宇髄は片手を額に当てて天井を仰いだ。
「…ごめん…それでそのあとの不死川君とか宇髄君とか鱗滝君、それに胡蝶さんのメモの話も耳に入ってきたから、これ、何かあったのかなって気になってて…。
実はさ、目立ちたくないし、これは秘密にして欲しいんだけど、俺、幼稚舎、鱗滝君と一緒で、武藤達の嫌がらせとかも目撃してて、嫌がらせに参加しない胡蝶さんの靴に武藤達がいれてたダンゴムシをこっそり武藤達の靴に移したりしてたんだけど……」
「はあぁ？あいつら、そんなことまでやってたのかっ」
「うん。自分がやったことが自分達に返ってくるから、やめちゃったみたいだったけど。
その時、あいつらのこと、鱗滝君にもちゃんと言ってあげればよかったってずっと後悔してて…
だから今度こそ見て見ぬふりはやめようって思ったんだ」
「ありがとうっ！俺のことは気にしないでくれていい。
でも義勇を助けてくれて、本当にありがとう。感謝する」
他はどうでもいいらしい。
相手が自分達に悪意がなく、さらに義勇のために尽くしてくれるなら、錆兎にとってそれは良い奴認定だ。
そんな風に心の底からの感謝の笑みでそう言われて、茂部太郎は
（…主人公に…カインに感謝されちゃったよ、俺っ！！仁、射人、俺だけごめんなっ！）
と、表では普通ににこやかに、しかし脳内喜びの踊りを踊っている。
しかし話はそこで終わらなかったようだ。
「宇髄…」
と、それから錆兎はスッと笑みを消して旧友を振り返る。
それから改めて浮かべる笑みは、真顔よりも恐ろしい。
「…義勇に直接手を出してきた時点で、様子見も穏便な対応もなしだ。
とりあえず…どんな些細なことでもいいから、拝島の情報を集めろ。
胡蝶とも相談して踏みつぶす」
…あ…竜の逆鱗に触れたな…と、秘かに思う茂部太郎。
でも彼の脳内ではそれは困ったことではなく、ただひたすらに
『激怒したカインかっこいい！！』
というもので、
「あの、とりあえずこれ、送っておく？
また何かあったらこっそり連絡するけど…」
と、ワクテカしながら、憧れのヒーローの連絡先をゲットできたことは、何よりの収穫であった。
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