放課後…その日は義勇は図書委員での集まりがあり、
「じゃ、教室で待ってるな?」
と、錆兎は送って行った図書室の前でヒラヒラと手を振って教室へ戻った。
二学期になってからいつも誰かしらに囲まれていたので、親しい人間が傍にいないのは久々でなんとなく落ち着かないが、まあ仕方ないだろう。
本の整理をして、図書室内の掲示物の張替えをしたりと1時間ほど。
委員は大勢いるが各々分担しているので、それほど他が気になったりすることもなく、淡々と作業をする。
義勇は図書室の雰囲気が好きだし、始まってしまえばなんとなく楽しいと思わないでもないし、1時間などあっという間だ。
1時間後に全員に作業終了が言い渡されて、その後は委員長や副委員長、書記などの上級生たちが残って今後の諸々を話し合うということで、ぎゆう達下級生は、お先に失礼しますと挨拶をして、それぞれ図書室を後にする。
義勇はなんのかんので楽しく過ごしたが、錆兎には1時間も待たせてしまって申し訳ないことをした、と、手にしたノートと筆箱を胸元にしっかりと抱えて小走りに教室へ戻ろうとした時、後ろから
「義勇ちゃん」
と、声がかかった。
知らない声。
少なくとも義勇の記憶にはあまりない声だが、くるりと振り向くと、男子生徒が立っている。
見たことはあるなぁ…と記憶をさぐるも、おそらく同じクラスになったことはないと思われる彼の顔から名前が出てこない。
正直、下の名前で呼ばれるほど親しくもないのに、何故?と、少し眉間に皺を寄せてしまうが、相手はニコニコと親しい相手に向けるような笑みをむけていた。
「…なに?」
と、少し怪しみながら義勇が聞くと、相手はやはり笑みを浮かべたまま
「少し話があるんだけど、ちょっといい?」
と言ってくる。
「…良くない。放課後だし人を待たせてるから、どうしてもだったら明日の休み時間にでも…」
と、そのまま教室に戻ろうと足を踏み出しかけるが、
「ちょっと待った!教室だといつもあいつらに囲まれてるだろっ」
と、手首を取られた。
相手は見た目は背がそこそこ高くてスタイルも悪くはなくて清潔感に溢れた好青年と言っても差し支えない男子だが、その時点で義勇は相手に不快感を覚える。
錆兎は義勇のために来てくれた時ですら、そんな風に一方的に義勇を拘束したりはしなかった。
義勇の意志を尊重して、義勇の方から触れられるようにと腕を貸してくれたのだ。
どれだけ爽やかな好青年を装っていても、この男子の中身はダメだ…
「離してっ!」
と、その手を振りほどこうとしたが、振りほどけるどころか余計に強く握られて痛いくらいだ。
どうしよう…
放課後なので、この図書室や専門の教室のある特別校舎には人も少ないが、大声を出したら響くだろうから、図書室あたりから誰か来てくれないだろうか…
でも悲鳴をあげてもふざけているだけと思われて、誰も来てくれなかったとしたら、危険じゃないだろうか…
いや、でもこの男子の行動性からすると、このまま連れて行かれても危険かもしれない……
…怖い……
どうしよう…と、青ざめる義勇。
「話をしたいだけだ。少しついてきて…」
と、腕を引っ張られて、たたらを踏んだ、その時、
──あ~!冨岡さんっ!俺、鱗滝君から図書委員終わったら一緒に帰って来てって頼まれててっ!!
と、いきなり後ろから声がした。
「…あ、茂部君。そうだったんだ」
こちらは知っているクラスメートだったので、思わず安堵のため息が漏れた。
義勇はホッとしてそちらに逃げ込もうとしたが、見知らぬ男子は腕を離してくれない。
「冨岡さんは僕と話があるから…」
と、男子にしては少し背が低めの茂部を見下ろして威圧するように言うが、茂部はヘラっと笑みを浮かべて言う。
「ごめん。俺が鱗滝君に怒られちゃうし…。
なんだか最近、冨岡さんの周りのクラスメートに嫌がらせのメモが配られてたらしくてさ。
…俺は知らないけど、鱗滝君は犯人知ってるみたいでね。
本人に何かあったらって心配して頼んできたんだよ。
あのさ、だから、どうしてもなら、一旦教室まで戻って、拝島君から冨岡さんと話があるからって鱗滝君に言ってくれない?」
その言葉に相手は一気に青ざめ、
「もう、いいっ!!」
と、パッと義勇の腕を離して立ち去った。
それを見送ったあと、同時にほぉ~~っと大きくため息をつく義勇と茂部太郎。
「茂部君、ありがとう…。
錆兎、そんなこと頼んでくれてたんだ…。本当に助かった…」
胸をなでおろしながら礼を言う義勇に、茂部太郎は
「え?冨岡さん、俺のこと覚えてくれてたんだっ!!」
と、目を丸くした。
「いやいや、さすがの私でもクラスメートの名前と顔は一致するよ?
同じクラスになったことない人はわかんないけど…」
確かに他人にあまり興味がないので、名前と顔が一致しない人間だが、そこまでと思われていたのかぁ~と苦笑すると、茂部太郎はぶんぶんと首を横に振る。
「違ってっ!冨岡さんが記憶力ないとかじゃなくて、俺、本当に目立たないから、クラスでも結構認知されてないことが多いからっ!」
そう言うと、また義勇の青い目がまん丸くなって、
「そう、なんだ?
私が覚えてないかもと思ってても、こんな風に面倒なこと引き受けてくれるなんて、茂部君、優しいね」
と、次にほわっと笑みが浮かぶ。
(…うあ~うあ~うあ~~!!!アリアの天使の笑み頂きましたあぁあ~!!!)
と、内心絶叫する茂部太郎。
脳内がそんな状況でも表情は大して変わらない茂部太郎に
「じゃ、戻って錆兎に安心してもらおうか」
と、義勇が笑みを向けると、そこで彼はハッと思いだした。
「あ、ごめんなさい。あれ、嘘だから」
「あれ?」
「そう。鱗滝君に頼まれたっていうの。
ああ言えば引き下がってもらえるかなって思って」
「え…?そうだったんだ…」
「冨岡さん、困ってそうだったし…。
俺、幼稚舎の頃からずっと鱗滝君に憧れてて、何か役に立つことできたらなって思ってたから…」
「仲間だっ!!」
と、その茂部太郎の言葉に、義勇が目を輝かせてぴょんぴょん飛び跳ねる。
それに、てっきり怪しまれるかと思って戦々恐々としていた茂部太郎は、驚いて目をぱちくりさせた。
「私もなんだっ!錆兎、カッコいいよねっ?!!
そうか~、茂部君も錆兎ファンだったのか~!!」
どうやら彼女は鱗滝錆兎強火担で同担大歓迎らしい…と、瞬時に悟った茂部太郎。
とりあえず茂部太郎は彼女と同担であると同時に、実は彼女、冨岡義勇担でもあるのだが、それは言わないほうが平和だろう。
とりあえず教室に戻るまでの間、カインについて熱く語るアリアシチュを思いきり楽しめただけで、茂部太郎は幸せだった。
もちろん、教室に着いたなら、感謝はされつつも錆兎から尋問を受けることになるのだが、それもまた茂部太郎の業界ではご褒美なのである。
義勇,かわいい(*≧з≦)
返信削除錆兔強火坦&同坦熱烈歓迎なんて❤️
茂部くんもナイスフォロー👌サラサラヘアの次席を目指せそうですね
サラサラ配下のモブ三銃士といったところですかね😁
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