「…さて、そろそろ本題に入りましょうか…」
小さな塗りの弁当箱の蓋を閉め、ご馳走様でした…と手を合わせたあと、しのぶはまだ食べている義勇以外の、とっくに食べ終わって雑談にはいっていた錆兎、不死川、宇髄の顔をぐるりと見渡して、そう言った。
「お~、それなァ。
で?結局、あれはなんなんだよ」
と、その4人の中で唯一わかっていないらしい不死川が即それに反応する。
それにしのぶは黙って苦笑して、宇髄が代わりに口を開いた。
「ここに集まってる中で唯一メモ渡されてねえお姫さんがいんだろうが…」
「はぁぁ?義勇はンな真似しねえだろうォ」
と、宇髄の説明が微妙に通じず眉をひそめている不死川に、今度は錆兎が言葉を引き継ぐ。
「そういう意味ではなく、最近ともにいることの多い中で、義勇にだけ来ていないということは、義勇に好意を持っている誰かしらが、周りを囲む俺達が邪魔でこういうものを寄越しているのだろうということだ」
「あ~、そういうことかァ」
と、それでようやく合点がいった不死川に、
「他にどういうことだと思うんですか…」
と、しのぶがことさら呆れた様子を前面に出したようなため息をついた。
それに、
「そんなん、言われなきゃわかんねえだろうがァ!」
と、さすがに手が出たり声を荒げたりはしなくなったが、少しムッとした不死川が口を尖らせて言うと、
「まあまあ。
今は仲間割れてる場合じゃねえだろ。
とりあえず犯人についてなんか心当たりとかあるなら話そうぜってことで…」
と、宇髄が割って入った。
「まずは情報を整理しよう」
と、錆兎がそこでノートを開いてペンを取る。
「まずは、俺と宇髄、胡蝶に不死川の机に誰かがメモ書きを入れておいた。
内容は、”恥を知れ”で、時間は3時間目前の休み時間から3時間目後の休み時間の間。
犯人はおそらくB組以外。犯人がメモをいれたのは3時間目後の休み時間だな」
「なぁ、錆兎…」
と、そこで行儀悪く机に頬杖をついて聞いていた不死川が、手をあげた。
「なんだ?」
「なんでそうなんのか、ぜんっぜんわかんねえ。
またわかってねえの俺だけかァ?」
他に聞くとまたいや~な返答が返ってくると思ったのだろう。
不死川は錆兎に直接そう主張する。
しかし今度はそれに宇髄がにこにこと
「安心しな。今回は俺もわかんねえ。
ウサ、説明」
と、わからなくて当たり前とばかりに錆兎に説明を要求した。
そこで錆兎はチラリとしのぶにも視線を向けるが、ニコリとどういう意味なのかわからない笑みを浮かべられて、諦めたらしい。
小さく息を吐き出して、説明を始める。
「入れたメモは計4枚。
1人分ならとにかく教室に人がいる状況であちこちに入れて回れば嫌でも人目につく可能性が高い。
本人がバレても構わない、むしろ主張したいというなら、無記名じゃなく記名するだろうしな。
ということで、ぎりぎりまでしゃべっていて移動する者がいる3時間目の前の休み時間より、終わりのチャイムが鳴るまでは全員確実に音楽室にいて、チャイムがなってから戻ってくるまで絶対に教室内に人がいない3時間目のあとの休み時間の方が人目につきにくい。
で、B組の人間は音楽室だから、当然、犯人は他のクラスの人間だ」
「うあ~、一瞬でそれ悟るのかぁ…」
と宇髄が苦笑。
しのぶは
「そういうことなら、犯人はC組ですね。
A組は3時間目体育でしたし」
と、そこにそう補足する。
「…恥を知れと言うのはあれですか。
相手が冨岡さんに好意を持ってる人間なんだとすると、冨岡さんと不死川さんの長年の諸々を知っていて、近頃不死川を含めて私達が義勇を囲んでいるから、和解していると知らずに集団で脅して一緒に居させている…とでも思っているとか、ですか…」
「あ~…学校ではあまり一緒に居ない伊黒と甘露寺のところには来なかったとこみると、そんな感じかもなぁ…」
と、しのぶの言葉に宇髄が片手をあごにやって考え込む。
「…すまねぇ。俺のせいかァ…」
不死川がそう言って珍しく肩を落とすのに、珍しくしのぶが
「不死川さんのことがなかったとしても、無理矢理にでも何かしら理由をこじつけて文句を言っていると思いますよ、こういう人は。
本当に暴力や暴言を正そうとすることを目的とする人なら、匿名でこんなこと書いては来ません」
と、不死川の責任を否定した。
「あ~…まあ、そうだよなぁ。
どっちかってぇと、自分が冨岡と親しくしてえのにできないから、親しそうな奴らがムカつくって感じか。
C組でそんな感じの男、心当たりねえのかよ?」
と、宇髄にふられて、義勇は
「私は男子苦手歴10年で、錆兎以外と親しく話したことはほぼないよ?
せいぜい…炭治郎が一方的に話してくるくらい。
自分で言うのもなんだけど、男子に笑顔を向けたのは、少なくともこの学校に入学してから錆兎が初めてくらいの愛想のなさだから」
と、どぎっぱり言い切った。
「あ~…たしかになぁ……」
と、苦笑する宇髄。
しかしそこで、
「でもほら…あれだァ…。冨岡、別嬪だからよォ…」
と、逃げられても逃げられても追いかけ続けた不死川がボソボソっとそう言うと、
「確かに。不死川さんみたいに嫌っている態度を前面に出されていても、好きで追いかけまわす人もいますから。
冨岡さん、美人ですし」
と、しのぶがまた容赦なく言う。
ふむ…と、皆のいう事を黙って聞いていた錆兎がまた考え込む。
「まあ…このメモで終われば放置でかまわんし、何か物理でやってこられても、胡蝶以外は撃退できるからな。
義勇に実害があるわけじゃないし、とりあえずは天元は顔が広いからC組の知り合いで口の堅そうなあたりに、さりげなく聞き込みをするってことで、あとは様子見か…?」
「まあ、これだけでは学校側に訴えてもいたずらで済まされて終わりますしね。
冨岡さん目当ての男子ということなら、私は最終的にライバルにはなりえませんから、一番の標的にはならないでしょうから」
ニコリとそう言うしのぶ。
「ああ、そうだと安心でいいな。
とりあえずみんな、メモは回収な。それぞれ付箋に名が書いてあるフォルダに入れろ。自分以外は触るなよ?」
と、いきなりクリアファイルを回す錆兎に、大人しく従いつつも
「…何故、クリアファイル保管を?」
と、目を丸くするしのぶ。
それに錆兎はにこりと目が笑ってない笑みというものを浮かべて宣言した。
「指紋検出を生業にしている知り合いがいる。
とりあえずこのメモはそれぞれ犯人と自分以外触れていないはずだから、全部のメモから検出された指紋は犯人の指紋という事になるだろう。
それで何もなければいいが、エスカレートするようなら、怪しい奴の指紋をなんとか入手して照合することも検討している。
まさか手袋つけてメモを書いて放り込むなんてことまではしていないだろうしな」
「うあぁ~…俺、ウサを敵に回すのマジ嫌だわ。
こんなえげつない高校生まじ嫌だ」
と、宇髄が苦笑。
「それなら、いっそ大事になる前にこっそり指紋収集しちゃいます?」
と、どこか楽し気に微笑むしのぶに、
「どうやって?いきなり全員の指紋なんて無理だろうがァ」
と、眉を寄せる不死川だが、胡蝶はピン!と人差し指をたてて
「余裕ですよ。合法的に無理なく集められます。
錆兎さんのGoが出るなら、即、準備しますが?」
と、悪い笑みを浮かべた。
「…胡蝶に…危険が及んだりとかはしないな?」
「ええ、もちろん!誰かに直接接触しなくても余裕でできます」
自信満々に言い切るしのぶに、やっぱり少し考えこんで、
「そうだな…。転ばぬ先の杖と言うしな。
胡蝶、頼めるか?」
と、錆兎が言うと、胡蝶は
「どうぞお任せくださいな」
と、片手を胸に当てて恭しく礼をした。
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