こうして大騒ぎのうちに音楽の授業時間が終わると、休み時間の間に速やかに教室へと戻る。
その後、午前中最後の授業の支度をすべく机から教科書を出した不死川は、なんだか不可解な顔をした。
と、目ざとく気づいた宇髄がそう声をかけると、不死川は教科書の上に乗っていた一枚の紙をかざして、
「なあ…。錆兎じゃぁねえよなァ？」
と二学期早々の席替えで前の席になった錆兎に声をかける。
「俺？俺がどうした？」
と、その声に振り向いた錆兎は、不死川がかざす紙を見て、不思議そうに瞬き１回。
「…何故、俺だと思う？」
と、聞くと、不死川もやっぱり不可解な顔のまま、
「…いや…初対面の時に言われた言葉だなァと思って」
と、頭を掻いた。
そう、白い紙には一言、恥を知れ！と書いてある。
しかしだ…当然錆兎には覚えがない。
「…俺ではない。
そもそも、俺の方が先に音楽室に行って、一緒に教室に戻ってきたのだから、不死川に知られないように机に放り込むなんて無理だろう？」
「…だよなァ…」
「だいたい、俺はそう言いたい場合は直接本人に言う主義だ。
わざわざ紙に書いて伝えるようなことでもなし。
せめて自分が誰で、不死川の何についてそう言いたいのかは明記すべきだな」
と、錆兎が腕組みをして難しい顔でそう言うと、
そこに斜め前の席の胡蝶しのぶが
「ええ、確かに。それは特に不死川さん相手なら、絶対に必要ですよね。
心当たりが多すぎるでしょうし」
と、容赦なく突っ込んだ。
「…ふむ……」
と、錆兎は考え込みながらも、自分も机の引き出しから教科書を出そうとして、ぴたりと手を止める。
「錆兎さん？」
と、コテンと小首をかしげるしのぶに、
「…俺も、らしいな」
と、錆兎はやはり教科書の上に乗っていた紙をひらつかせた。
それを見た義勇が、隣の席でガタっと立ち上がって
「これ入れた奴が恥を知れっ！！」
と、叫んだので、周りが何事かと視線を向けてくる。
「馬鹿じゃないっ？！
不死川ならとにかく、錆兎が恥を知らないというなら、日本人は全員恥知らずだよっ！！」
とポコポコ怒る義勇。
錆兎、というワードに反応するクラス女子達。
そこでわらわら集まって来て、
「ひっど～～いっ！！！」
「これ入れた奴死ねっ！！！」
「誰よっ！絶対に許さないっ！！社会的に抹殺してやるっ！！」
と、一気に殺気立つ。
「…こわ……本当に、それ入れた奴、バレたら学校いられないんじゃないか？」
と、錆兎の前の席の村田が女子達の怒りのすさまじさに青ざめながら振り返ると、その村田の隣の席のしのぶが、
「…誰の仕業かはわかりませんが…何が原因かは分かった気がします……」
と、ひらりと自分の机の中から出てきた紙をこっそりと錆兎に差し出した。
「…なるほど……」
と、それを見て頷く錆兎。
「もしかして…天元の所にもはいってたりしないか？」
と、その後、宇髄にそう声をかけると、宇髄は自分の机の中を探って
「ビンゴ。大当たりだな」
と、やはり紙をちらつかせて苦笑する。
「どういうことだァ？」
と、わけがわからないと言った顔で聞いてくる不死川には、宇髄が
「…あとで。
昼休みにでも説明してやる」
と、小声で言った。
まあ、賢明な判断だ。
ここでそれについて追求し始めたら大騒ぎになる。
「まあ、ただのいたずらだ。
何か実害が出るようなら学校側に報告するから、とりあえず今は次の授業の準備をするぞ」
と、錆兎も周りをなだめつつ、速やかに授業に臨むようにと促した。
女性陣は怒り冷めやらぬと言った感じではあるが、錆兎に言われては仕方ないとばかりに、みな、渋々授業の支度にとりかかる。
錆兎はそれを視認して小さくため息。
（…今日の昼は全員集合で…。胡蝶、化学部部室、いいか？）
（…大丈夫です）
と、小声で根回しをして、いったんはその問題についての話は先送りにして、ノートと教科書を机上に、担当の教師が来るのを待った。
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