その日の音楽はとても目と耳に嬉しいものだった…と感じたのは絶対に義勇だけではないはずだ。
──じゃ、鱗滝会長、任せたぞ!あとはよろしくなっ!
と、いきなり錆兎の肩をポン!と叩くと、唖然とする生徒たちを残して出て行った。
「…あ~…もう今は会長じゃないどころか、共学科では新参者なんだが…」
とかける錆兎の声は、逃げるように出て行った教師には届かない。
そして
「仕方ねえから、ウサ、仕切れや」
と、そんな錆兎に追い打ちをかける宇髄の言葉に、錆兎は早々に諦めたようだ。
ため息をついて、
「共学科だから4部か。
よし!それじゃあ、パートごとに分かれてくれ。
順にメロディを弾いていくから…」
と、それぞれのパートが集まる場所を指定し始めると、女子の1人が、はいっ!!と手をあげて言う。
「あのっ!メロディだけだとどういう風に歌えばいいかわからないから、鱗滝君が歌ってもらえませんかっ!!」
その提案に音楽室は女子達によってライブ会場並みの熱気に包まれた。
えっ?!と、さすがに引く錆兎。
しかし、ここは止めなければ…という思いと、錆兎の歌を聴きたいと言う思いに揺れた結果もれた
──私も聞きたいけど……錆兎が…どうしても、いや、と言うなら無理には……
と、消え入りそうな義勇のつぶやきが、決定打になったようである。
はああぁぁ~~~と、さすがにため息をつきながらも、
「…ソプラノから。
ただしさすがに本来の高さは出ない。オク下で歌うからそのつもりで…」
と、伴奏をやや控えめにして、歌い始めた。
──母なーる、大地―の、ふとーこーろーにーー
と、音楽室に響く美声。
きっちりと腹式呼吸で、ビブラートまでかかっていて、もう耳が幸せ過ぎる。
歌うまでは大騒ぎしていた女子達も一斉にシン…として聴き惚れた。
最後、
──讃えよー大地を ああー
で終わった瞬間、女子が再度大絶叫。
男子も、おおーーーと感嘆の声をあげた。
「なに?鱗滝、声楽もやってんの?」
「いや?俺が知ってる限りはピアノはやってたけど…。
ウサはほら、腹筋鍛えてっから、発声もすげえんじゃね?」
などと男子に聞かれて宇髄が答えている。
「鱗滝君、鱗滝君、鱗滝君!!!素敵っ!!素敵すぎっ!!!」
もう本当にライブ会場のように絶叫しつつ、興奮のあまり泣き出す女子も出る始末だったが、当の錆兎は淡々と、
「次、アルト行くから、アルトの奴はちゃんと聴いて覚えろよ…」
と、そのまま、アルトのパートに突入した。
そうしてきっちりバスパートまで歌い終わって、
「これから各パートに分かれて練習な。
ソプラノから順にピアノに集合。
1度ある程度練習したら、アルト、テノール、バスの順で同様にってことでいいな」
と、もうあたりの喧騒はスルーすることにしたらしく、飽くまで練習を進めさせる。
そうして残り5分を切った頃、
「最後に四部合唱になると、どうなるかというのを聞かせておくか。
というわけで、ソプラノ胡蝶、アルト義勇、天元、テノールとバスどっちがいい?
あ、ちなみに拒否権は与えないからな」
と、言う錆兎の言葉に
「んじゃ、バスいっとくわ」
と、呼ばれた胡蝶と義勇に続いて前に出た宇髄がそう申告。
そこで錆兎がテノールと伴奏を引き受けて四部合唱を聴かせて締めた。
「…もう、この4人で四部合唱でいいんじゃね?」
と上がる男子の声。
「練習するから鱗滝君の声データちょうだいっ!」
と騒ぐ女子達は
「YouTubeでパート別動画を聴け」
と却下される。
さらに
「もう、音楽は先生要らない!鱗滝君の美声で習いたい!」
と、叫ぶ女子達。
そんな大騒ぎの中、その日の音楽の時間は終了した。
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