清く正しいネット恋愛のすすめ_64_決裂

──あ~…まあ、そう思うならそう思わせておけばいいんじゃないか?

今日、無事目的の物が出て早々にレジェロの家に帰宅したサビトにギユウは今日のことをポコポコと怒りながら報告したが、当のサビトはそう言って笑う。

何故こんなことを言われて怒らないのだと義勇が憤慨しても、

「別に俺が付き合うことはない相手だしな。
ギユウだって、防御装備しか揃えていないタンクだと困るレベルの場所には俺としかいかないだろう?
なら、実害もないことだし、わざわざ思考力のない人間に喧嘩を売る暇がもったいない」
と、物知らずな子どもに大人が本気で怒るようなものだとばかりな反応だ。

「でも、言われっぱなしなのは腹が立つ!」
と、それでもギユウが食い下がれば、ふむ…とサビトは考え込んだ。

「ギユウが不快だというなら、それはまあ問題だな。
じゃあ、次何か言われたら、こう返せばいい。
もちろんある程度防御は必要だが、ガチガチに防御だけ固めるのとタゲを維持できるのは別だ。
敵が複数いる時などは数が限られたアビリティだけではタゲが甘くなることもあるし、そう言う場合は殴りヘイトや自己回復でのヘイトもタゲ取りに必要になることがある。
むしろエンドコンテンツなどのシビアな戦いになれば、攻撃力もないとタゲを維持できないし、エセタンクじゃないから、どんな不測の事態にも対応できるように色々装備を揃えるんだ。
…と、今のこの説明をスクショして印刷しておけ。
覚えられないだろう?」

…と、ギユウがその時にきちんと言えるようにスクショを取っておくことまで勧めておいてくれる親切設計がサビトのサビトたる所以だ。

こんなに色々知っていてなんでもできる神ナイトのサビトに対してエセタンクなんて許されざる暴言だとギユウは思う。

本当なら即ブラックリスト入りするところだが、きちんと間違いを正してやらないと気がすまない。

翌日からはマコモの用事が終わったので、またサビトとタンジロウとの固定での狩りに戻るが、その前日までおよそ3日ほど合成日和で一緒にいたため、急に来なくなったように感じたのだろう。
シエルからtellがあった。

──ギユウちゃん、もしかして昨日のこと怒ってて今日来ないの?
と言う言葉に、

──昨日のことは怒ってる。けど、今日行かないのは、単にサビトとタンジロウの用事が終わって固定の狩りに戻ったから。
と、答える。

事実だ。
だから、昨日は腹が立ちすぎていてきちんと説明ができなかったけど…と前置きをして、あれからサビトに聞いた通り、厳しい戦いになるとアビリティだけではタゲ取りが甘くなるから、ある程度HPを減らして自己ヒールをすることでヘイトを稼いだり、その時々で、早く片を付けた方が安全な場合に防御を少し落としても火力をあげた方がいいなど、ケースバイケースで防御と攻撃のバランスを考えた装備が必要になるのだ、と、説明する。

一時はブラックリスト入りしようとも思ったのだが、義勇は元々平和主義者なこともあって、これで誤解が解ければまあいいか、と、思っていたのだが、そううまくはいかない。

タンクではなくヒーラーなギユウに自ジョブのナイトについて指摘を受けたことが受け入れられないのか、もともと自身と違う意見を受け入れられないのかはわからないが、

「それは机上の空論だよね?
俺はリリース当初からやってるけど、アビのリキャが間に合わないようなことはなかったよ」
と、飽くまで主張するので、

「それは…そこまでのコンテンツをやっていないからだよね?」
と、思わず返したら、

「リアルを犠牲にするほどにはゲームに時間を割けないからね」
と、言われたので、ギユウの中で何かがプチっと切れる。

「私のナイトはたいてい1日に1,2時間、長い時でも3時間以上は絶対にやらないけど、普通にドラゴン倒したりしてるよ?
この前もちょっとしたイベントでファイアーマウンテンをナ忍白の3人だけで登り切ったし」
と、売り言葉に買い言葉でついつい返すと、

「ギユウちゃんにそんな危ない事させるなんて、ナイトの風上にも置けないと思うけど…」
と、何故かギユウからすると斜め上な言葉が返って来て、余計にイラっとした。

「あのね、それは私の都合で私のナイトにつきあってもらったのっ!
そういう無茶な要望にも応えられるくらい、私のナイトは優秀で色々な事態に備えてくれる人なのっ!」

「本当にギユウちゃんのこと考えるなら、そんな危ないことをしたいって言われたら止めるべきだと思うけど…」

「現実ならとにかく、ゲームくらい好きに遊びたいし、誰かに迷惑をかけることでもないんだから遊び方強要されたくない」

「…ギユウちゃん、そんなタイプの子じゃないよね、本当は。
今一緒にいるあたりといると、あまり良い影響ないと思うんだけど…」

「あなたに迷惑をかけているわけでもないのに、私の周りの悪口言う人の方が嫌。
ブラックリスト入れるね」

いくら理由を述べて反論しても聞く気もなさそうだし、もうシエルとは話しても無駄だ…というか、ギユウのサビトを意味なく悪く言うのを聞いていると、それだけでストレスがたまる。

とうとうギユウは限界を感じて、彼をサクっとブラックリストに入れた。
これでもう問題ない。

完全にすっきりはしないものの、それでも関わらなければ忘れるだろう。
そう自分に言い聞かせて終わらせたつもりだったのだが、その行動はさらに危険な事態を引き起こすことになる。

そのことを義勇は当然想像もしなかった。


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