「…あの、合成のサポートつけるのってどうすればいいのかな?」
とある日のレジェロ内。
その日は合成曜日だった。
なのでギユウも調理のスキル上げに調理アカデミーに来ていた。
もちろんアカデミーにこなくてもスキルあげは出来るが、サポートを受けて少し高めのレシピに挑戦すれば、より高い合成スキルが得られるので、早くスキルがあがる。
ギユウもだいぶスキルがあがったので、今では普段の狩りくらいならナイトがよく使う白身魚のソテーも作れるようになって、最近の狩りではサビトのために作って食べてもらっているが、今日サビトが行っているようなすごいレアアイテムを落とすノートリアスモンスター狩りの時によく食べられる海の幸のシチューを作るには、まだ若干スキルが足りない。
なのでそれが作れる師範になるまで大急ぎでスキルをあげたい。
サビトの食べ物は全部自分が用意したい。
リアルでは料理の腕は錆兎にははるかに及ばないのだが、錆兎が好きだと言う鮭大根だけは夏休み中に会わせてもらった錆兎の祖父にこっそり鱗滝家の味を素材の選び方から教わって猛特訓して、誰より美味しく作れるようになったつもりだ。
そうして我ながらあまりに上手になったため、錆兎の好物だったそれが、義勇の一番の好物にもなった。
…が!!…今の時点で義勇がまともに作れる料理はそれだけである。
それ以外の料理になると、ただの味見係になってしまう。
先日の調理実習でも制服の上から黒いシンプルな厚手のエプロンをまとった世界で一番カッコいい錆兎が、調理人のような見事な手際で作る肉じゃがに舌鼓を打つことしかできなかった。
だから、もちろんリアルでも料理を練習中ではあるが、サビトが全く調理が出来ないレジェロ内でくらい、サビト専属の調理人になりたい。
サビトが口にするのは、どこの誰が作ったかもわからない競売で買った料理ではなく、義勇が作った料理であってほしい。
だが、普段は3人固定で行動しているので、今日のように二人ともいない日はスキルアップのチャンスなのだ。
素材の入った第3倉庫部屋から必要な素材をカバンにいっぱい詰め込んで、ギユウは調理アカデミーまで赴いてNPCにサポートをつけてもらってひたすらスキル上げに励んだ。
自身のスキルよりは高めのレシピなので、サポートをつけてなお、2度に1度はパリン、パリン、と音を立てて失敗して素材が砕け散る。
高いスキルのレシピだと素材も入手がやや難しく高価な物が多いので、普通なら青ざめるところではあるが、幸いにして合成素材は全てサビトが倉庫に大量に放り込んでくれているので、そのあたりは全く気にせずにスキル上げができた。
スキルが上がればそれだけ失敗も減って来て、もうすぐ師範の試験が受けられると、そんなところまでスキルが上がって来て、調子よく合成を繰り返していると、ひょいっと冒険者が1人、アカデミーの建物に入って来て、ギユウに冒頭のように声をかけてきた。
装備を見たところ、高レベルのナイトらしい。
「ああ、ごめんなさい。退くね。ここの人に話かけてゴールドを払えばサポートつけてもらえるから…」
と、それまで誰もいなかったのでサポートをつけるNPCの前に陣取っていたギユウは急いで少し移動する。
すると彼は
「ありがとう」
と、礼を言って、NPCの前まで来て、おそらくサポートをつけてもらったのだろう。
ギユウと並んでスキル上げの合成を始めた。
成果物のログを見たところ、ウサギの干し肉を作っているようなので、始めたばかりなのだろう。
自分も最初はサビトに野兎の肉をもらって、これをたくさん作ったな…と、ギユウは懐かしく思い出した。
そこでふと思う。
ウサギの干し肉は調理の中でも一番低いスキルで作れるものなので、無理めの物を作るための手段であるサポートをつける意味はない。
「あの…」
「うん?」
「余計なお世話かもしれないんですけど…サポートは無理めの物を作るために一定時間スキルをあがった状態にするものだから、一番低いスキルで作れる干し肉を作るならつけても意味はないと思いますよ?」
今までなら自分に関係のないことには一切口出しをすることはなかったが、どうやらサビトの世話好きが移ってしまったらしい。
“合成の先輩”としてそう忠告してやると、相手は
「そうなのか!サポートをつければスキルが早くあがるって聞いたからつけてみたんだけど…」
と、言うので、
「サポートをつけて、自分のスキルよりも高めのレシピを作れば、もらえる合成経験値が高いから早くあがるってこと。
だから全くの間違いではないんですけどね」
と、教えてやった。
「そういうことか。教えてくれてありがとう。
実は自前で食べ物用意したいと思って調理をあげようと思って、出来るだけ早くあげたかったから、サポートつけて一気に…と思ってたんだけど、干し肉じゃ意味ないのか…。
ギユウちゃん、初心者がサポートつけるならおススメのレシピってある?
教えてもらえるとありがたいんだけど…」
そう返って来て、ギユウは自分がこれまでスキル上げで作ってきたレシピを思い出す。
「そうですね…レモネードとかが良いかも。
スキル5~のレシピで、素材も蜂蜜とレモンと蒸留水だけだから安くすむし…」
高レベルのナイトならそれほど節約しないとならない身分ではないのかもしれないが、かかるゴールドは少ない方がいいだろうと思ってそう勧めると、相手は
「そっかっ!じゃあ、競売で大量買いしてくるよ。
本当に助かる。ありがとう!
良ければこれからも調理のおススメとか色々教えてもらえると嬉しいんだけど…
フレ登録させてもらっていいかな?」
と、聞いてくる。
ギユウは今までは自分の周りはレベルが高くて色々教えてもらうばかりだったので、こうして初めて頼られて、少し嬉しかったこともあって、それを快諾。
キャラ名、シエル。カンストナイトらしい。
これがサビトやタンジロウなど、知り合い繋がりでない初めてのフレンドだった。
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