そうしていよいよ運命の新学期初日です!
何が”運命の”なのかと言えば、それはもう、アリアの元にカインが来るのか…要は、冨岡さんがいる我がクラスに鱗滝君が来るのか、ということです。
だからその日はいつもにもまして、クラス中がソワソワとしていました。
もちろん俺達もどこか落ち着かず、朝礼が始まる時間を今か今かと待っています。
そうしてガラガラっと担任がドアを開ける音に、一斉に視線が前方のドアへ。
そして担任のあとに続く二人の男子生徒を見た瞬間、
きゃあああああぁあーーー!!!!
女子の嬌声が教室に響き渡りました。
まるでアイドルのコンサート会場のようです。
「やったっ!!勝ったよ、うちの組っ!!!」
「鱗滝君、げっとだぁああーー!!!」
と、はしゃぐ女子達の陰で、俺達もこっそり手を取り合って頷きました。
ええ、ええ、彼女たちの言うように、俺達は勝ち組です!!
そんな大騒ぎの面々に鱗滝君は少し驚いたように目を丸くしていましたが、冨岡さんに視線を向けて、次の瞬間、小さく噴き出しました。
へ?…と俺達を含むクラスメートたちがその視線の先を追うと、ノートを掲げた冨岡さん。
そこに書かれた文字は、
『大丈夫っ!錆兎は私がちゃんと守るからねっ!』
こ、これは…可愛いっ!可愛すぎますっ!!
どやあっとした顔を鱗滝君に向けている冨岡さんに、武藤を含む女子の殺気だった視線が突き刺さりますが、普段は内気で大人しい冨岡さんが、今日に限ってはキリリっとそれを跳ね飛ばす勢いで睨み返しているのが、普段はたおやかなのに、こと、カインのことになると芯の強さを見せるアリアのようで、全俺が感動のあまり涙します。
ああ、生きていて良かったっ!!…と、今日ほど思ったことはありません!!
特に武藤に向ける視線がきついのは、担任が来る直前に胡蝶さんが幼稚舎時代の武藤の鱗滝君に対する狼藉を暴露したからでしょう。
武藤から鱗滝君を守って見せる!!という冨岡さんの固い決意が見てとれます。
フンスフンスしている冨岡さんに、ギリィィっと音がしそうなほど歯噛みをしている女子達。
冨岡さんは本当に可愛いんですけど、今まで物理で嫌がらせとかされているので大丈夫かと俺達は心配になりました。
だって、相手の中にはあの武藤もいるわけなので……
しかし心配は無用でした。
だって考えてみればそれを阻むために鱗滝君が共学科にきたわけですから。
自己紹介で鱗滝君がまず言ったこと、それは自分が共学科に移籍した理由は、自分の婚約者の護衛と勉学の補佐のためだということでした。
もう大騒ぎです。
普通だって高校生で婚約者と言われれば大騒ぎですが、言っている相手があの鱗滝君なわけですから。
生徒と同じく驚く先生に、すでに冨岡さんのご両親の元へ挨拶済みで、法的に問題のない歳になれば結婚をするということで意思確認が出来ていて、許可も下りているという事。
そして今現在、冨岡さんが嫌がらせを受けたことがあるということも、その犯人も把握していて、ここでやめればおおごとにしないが、今後続けるようなら学校の問題として男女各生徒会、社会的問題として弁護士を立てて、学校に訴えるとはっきり言い切ったのです。
さすが鱗滝君。
対処法がすでに違います。
恋人がいても結婚しているわけじゃないんだから…と鱗滝君の略奪を狙っていた面々も、婚約者となれば話は別。
下手をすれば慰謝料が発生します。
さらに嫌がらせについても、隠れてやったことに関してはすでに把握しているということは、今後も何かやらかせばおそらく把握されるでしょうし、それを個人ではなく学生の代表である生徒会から報告となれば、学校もそれなりに被害者が納得する形での対処をせざるを得ません。
軽くて停学、悪ければ退学でしょう。
もちろん、そちらも弁護士を立てて証拠や証言を確保した形で立証されれば、慰謝料必至です。
これだけ色々固められていれば、人生を棒にふる覚悟がなければ、手を出せないでしょう。
シン…と静まり返る教室内。
なまじクラスメート達は鱗滝君達が来る前に胡蝶さんの暴露を聞いているだけに、視線は武藤へ。
誰も声を発することのできない中、
「お前…それ自己紹介じゃないって。いきなり重いよ、びびるよ」
と、1人柔らかい声音で場の雰囲気を戻そうとする勇者が1人。
あれ…たぶん、レジェロでサビトさん達とよく一緒に居た、目立たなくてモブっぽいのにいつも重要な役割を持っていく、モブの頂点、モブキングのムラタさんです。
武藤が青ざめて泣き出すと、そちらから注意を引きはがすように
「じゃ、錆兎の自己紹介はこれまでねっ!
村田、自己紹介始めますっ!!」
と、自己紹介を始めました。
さすがモブキング。
村田大志という人間について強烈な印象を与えるわけではないのに、自己紹介でなんとなくみんなを笑わせて、クラス内の空気を変えていきます。
今回は鱗滝君に引っ張られての移籍らしいんですが、鱗滝君ほどの人物が何故いつも彼に居て欲しいと連れ歩くのか、なんとなく分かる気がしました。
白モブの最終形態モブキング村田…実は主役並みにすごい人物だと思います。
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