そうして夏休みも半ばを過ぎた頃、今ではなんとアリア…もといギユウさんのために購入したらしいキャッスルエリアの豪邸でログインをしているサビトさんとギユウさんを、俺達はこっそり追っかけしていました。
細身の銀の鎧を着てマントを翻すサビトさんと流れる水のように綺麗なドレープを描くブルーのドレスのギユウさんが並んで歩いていると、まんま【エルサイア・オデッセイ】のカインとアリアで、それを遠目で拝見しているだけで幸せな気分になる俺達。
今日はそのまま街の競売前でクルト似のタンジロウ君と暴力野郎の不死川実弥と待ち合わせをしているようでした。
カインとアリアとクルト…まではとにかくとして、そこに悪の大魔王が同席と言うのがなかなか不思議な図ではありましたが、まあいい、まあいい。
カインとアリアが見られるなら満足です。
…が、そんな一部不気味ではありますが平和な図は、走り寄ってきた乱入者によって突き崩されたのでした。
4人が何やら競売で今日の狩りのための支度を整えている時、“ヒメ”という名のキャラが近づいて行きました。
そこで俺達の間で緊張が走ります。
──武藤のキャラだ……
という共通認識の元、俺達はそのヒメがサビトさんとPTを組みたいと言い出したことで、武藤だという事を確信。
その後、サビトさんがそれを断ってワープしたあとも、彼女の動きを追いかけることにしました。
その日はそのあとに”アキ”という、おそらく伊藤亜紀のキャラと合流。
しばらく一緒にいたので、おそらく何かtellででも話していたのでしょう。
その後、ログアウトしたようでした。
その後…俺達は毎日ログインするとサビトさんのおっかけをする一方で、”ヒメ”の動向を監視を日課に加えるようになり、その甲斐あって数日後…
『固定を追い出されて途方に暮れている新人白です。誰か助けて』
というPT募集が。
もちろん募集主は”ヒメ”です。
これは…何かの企みに違いない!!
と、俺達はここで”ヒメ”の懐に入って相手を探る役と、関わらずにいざと言う時に探り役の無実を証明する役と、二手に分かれることにしました。
武藤のことなので、『誰か助けて』の”誰か”はおそらく道具と言えども誰でもいいわけではなく、そこそこお役立ちな人間なのだろうと思います。
そこで俺達3人、狩人、シーフ、赤魔導士の中で一番その”誰か”に近いジョブは…と相談し、おそらく相手は白なので求められるのはアタッカーだろうということに。
ということで、狩人の俺だけヒメのPT募集に乗ることにしました。
案の定、ヒメは自身の手を汚さずに画策するための味方…もとい従者を作るため、自分が元はサビトのパートナーで固定だったが、ギユウという白に騙されてパートナーを解消され、固定を追い出されたのだと言いふらして同情を誘います。
もちろんそんなデマを黙って聞いているのも苦痛なわけですが、いま、俺がそれを否定しても誰も信じないだけではなく、裏切者としてヒメに距離を取られるだけでしょう。
そうなったら、なんのためにこうして懐に潜り込んだのかわかりません。
俺はヒメがギユウさんを陥れるのを断腸の思いで見守ると同時に、とある人物に連絡をいれます。
ええ、ギユウさんが所属するギルドのギルドマスターである廃黒マコモ様に……
──ふ~ん…話はわかったけど…
時間を取ってもらって、tellでヒメの諸々の目論見を話すと、柔らかに相槌を打ちながら話をきいたあと、
──…で?…君は信用できる子なのかな?
と、それもなんだか柔らかい相槌の延長線のような感じで聞いてきました。
もちろん俺達はヒロインのためなら保身に走るつもりもないので、仁と射人にも了承を取って、自分達がアニメ好きなオタクのモブ3人組で、産屋敷学園の学生であること、幼稚舎の頃から好きなアニメのヒーローに似た鱗滝君に憧れていた事、そして幼稚園の頃の武藤の諸々と、現在に至るまで、すべて話し、最後に、表舞台に立ちたくはないが、モブとしてヒーローとヒロインの役に立ちつつ、幸せな彼らを見守りたいのだと言う意思表明をしました。
もちろん真菰さんにしても、そうよくあるわけではないマコモという名をそのままキャラ名にしているということは、隠すつもりはないのでしょう。
──うん、わかった。じゃあね、真菰ちゃんの影の手足にしてあげよう。
と、ありがたい言葉を頂いて、その指示に従って動くことになりました。
俺が話した諸々の中に、俺達は元々はレジェロの掲示板の姫スレの住人で、最近、これはサビトさんとギユウさん、そして悪の魔王の不死川のキャラのことを宇髄さんのキャラが語っているのだろうと思われる書き込みについてもあったんですが、真菰さんはそれを利用しようと思いついたようです。
まず俺が”正義の従者”というコテハンで、ヒメの言い分を元にこんな可哀そうな姫ちゃんがいて、なんとかしてやりたいのだ、と、スレに流します。
それから時間差でマコモさんが依頼して、以前、宇髄さんに例の一連の出来事を語っていた時のコテハンの”神”であのウサと姫が白♀からの嫌がらせで困っているということを流させます。
そのあとにさらに、全く無関係の第三者を装った仁に、”神”が言う白♀と”正義の従者”の言う姫ちゃんが同一人物なんじゃないか?と言わせることで、それが同一人物かどうか、同一人物ならどちらが嫌がらせをしているのか立証しようという流れを作らせるというものでした。
誰の事かをわからせるために、姫スレでは事実は姫のキャラ名を晒すのは禁止なので、同一人物かを調べるためということで、サビトさんと宇髄さんのキャラのテンゲンの名を出して、間接的に嫌がらせをされているのはギユウさんであることを知らしめ、トドメに俺が実名晒しがOKな鯖スレの方にヒメのキャラ名付きで嫌がらせについて語って立証については姫スレに誘導するという念の入れようです。
もちろん、俺がヒメに騙されていて義憤にかられている風を装ってゲーム内で姫の周りにも暴露、姫スレへ誘導もセット。
これでほぼ完全にギユウさんに嫌がらせをしている”ヒメ”の悪行を暴いた形になって、炎上。
「ふ…ざけんなっ!!俺らまで加害者として晒されて鯖じゅうに悪名が知れ渡っちまうじゃねえかっ!!このクソアマっ!!!」
「俺は知らねえっ!!みんなで一緒にこいつに騙されただけだって釈明して回ろうぜっ!!
1人よりは大勢でやった方が効果がねえ??」
動揺する元従者達は、自身が悪行に加担した加害者として晒されないように必死で殺気立っています。
俺はすでに鯖スレに降臨してくださった真菰さんにヒメに騙されていた被害者で結果的に協力してくれた良い人として広めて頂いているので、こそこそっとヒメの作ったギルドのギルド会話で交わされるそんな喧騒を念のためチェックをするのがマコモさんから命じられた最後の仕事とされていました。
そうして数日後…ログインするとギルドがなくなっていて、それでギルドマスターだったヒメのキャラが消えていることを知り、マコモさんに報告。
一応、今後もこんなことがあって他のギルドを探らないとならないことも出てくるかもしれない…
そういう理由で、俺達は3人揃ってギルドには入らず、また何か起きてマコモさんの指示がある日まで、普通のどこにでもいる白モブとして、ひっそりとゲームを楽しむ日々に戻ったのでした。
0 件のコメント :
コメントを投稿