それからはカイアリ…もとい、サビトさんとギユウさんはレジェロ内でも毎日仲睦まじく連れ立って狩りにでかけていました。
もう一人、タンジロウという剣士が一緒なんですが、これがまた、【エルサイア・オデッセイ】で、アリアの弟のクルトという、自称カインの弟子で彼を兄と慕う少年ポジで、さらに俺達は盛り上がります。
しかしそこはさすがファンタジー。
その幸せな日常は、やはり悪の魔王によって壊されるのです。
ええ、あの、リアルでも冨岡さんを害していた不死川実弥によって!!
魔王は実はヒロインを狙っていたらしいです。
しかし彼女の傍には今はもうカインがいるのですっ!
魔王の野望はヒーローによって粉々に打ち砕かれて、なんとサビトさんはあの極悪非道の魔王を改心までさせたようです。
まあ…それでも、加害者には変わりありませんけどね。
よく浅はかな少女漫画で、乱暴者のクズが改心してヒロインと結ばれるようなものがありますが、ああいうの、描く奴の気が知れませんね。
ヒロインは絶対!
ヒロインは至高!!
そのヒロインに危害を加える奴は地獄の業火に焼かれてしまえ!!!
…と、俺達は思っています。
普通の人間相手のいじめの加害者は一生加害者ですよ。
ましてや自分の都合で理由もなくいきなり何も悪くないヒロインに手をあげ続けたら、その後いくら改心しようとクズはクズです。
過ぎたことだから…なんてクソ甘えたこと言ってるから、いじめがなくならないんですよ。
加害者は一生加害者でそこから抜け出すことなど許されませんけど、唯一クズから脱却することができるとしたら、自分が加害者であるということを誰が忘れても自分だけは忘れずに被害者の望む形で贖罪を続ける、これだけです。
というわけで、俺達にとっては俺達のヒロイン冨岡さんを意味なく殴って暴言を吐いた加害者野郎という認識ではありますが、一応やつもリアルの教室内でみんなのみている前で謝罪はしていて、その後、胡蝶さんの指揮のもとではありますが、冨岡さんに害をなす不届き者達からヒロインをお守りする活動に協力しているようなので、まあ目の端に移ってしまうのは仕方ないとしましょう。
冨岡さんを守るために代わりに奴に殴られたこともある竈門炭治郎君ですら許してやっているようなので、俺達のようなモブがとやかく言う事でもないと思いますし…今現在進行形の敵は別にいるので。
そう…幼稚舎の頃に鱗滝君を男子科に移籍させたあの女…武藤まり。
それが我らがヒロインを狙っているのです。
あの幼稚舎の日々からすでに9年の月日が過ぎていて、鱗滝君は男子科に移籍。
俺達の前から姿を消してしまったわけなのですが、それでも同じ学校ではあるので噂は流れてくるわけです。
ずっと学年トップの成績で剣道では全国大会優勝。
そして高学年になれば児童会長や生徒会長に選ばれるという、文武両道の好青年。
そんな話を聞けば、どんな汚い手を使っても彼を手に入れようとしていたあの女が諦めるはずがありません。
そして、幼稚舎の時の胡蝶さんのように、今度は彼女である冨岡さんに魔の手を伸ばすでしょう。
そこで、我らモブ三銃士の出動です。
存在感のなさを最大限に駆使して、俺達は武藤を探ることにしました。
昼休み。
相変わらず冨岡さんは可愛いです。
こっそりと立ち聞きしたところによると、あの日以来、鱗滝君は自身のノートのコピーと引き換えに、胡蝶さんに冨岡さんの護衛を頼んだらしく、2人いつも一緒にいると、学校のなんてことはない教室が別世界に見えます。
なにしろ二人ともそんじょそこらのアイドルなんて足元にも及ばないほどの美少女ですから。
そこに最近はよく甘露寺さんも一緒にいて、本当に眼福以外のなにものでもありません。
クラスの男子達も同じく目の保養をしていますが、一部の女子の目は険しいです。
その中には当然武藤もいて…こそりと教室の片隅で相変わらず仲の良い伊藤と話しています。
いわく…冨岡さんが鱗滝君とレジェロ内でも仲が良いのなら、自分も夏休みに近づいてゲーム内から近づいて奪い取ってやる…ということで…
──亜紀はもうやってんだよね?レジェロ。とりあえずキャラ作ったら少しゴールド分けて。
──良いけど…装備はいいの?
──作りたてで頼れる人いない方向で近づくつもりだから。鱗滝君そういうの弱そうだし。
──あ~、ゴールドだったら持っててもバレないもんね。
──そうそう。亜紀のID教えといて。キャラ名はヒメにするから、その名前のキャラから連絡きたらフレ登録ね。
──わかった。
そんなやり取りを聞いて、俺達は夏休みに入ったら彼女のキャラをこっそりマークすることにしました。
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