清く正しいネット恋愛のすすめ_52_花火よりも見たいものは…

「伊黒さんと二人きりも楽しいけど、伊黒さんとも仲良く出来る友達の彼氏と友達とのWデートもとっても楽しいわ。
だって、義勇ちゃんとなら伊黒さんの素敵なところとかいっぱい話せるもの!」

ふふふっと笑って楽し気にそう言う甘露寺に目を細める伊黒。
ああ、彼女のことが本当に好きなんだなと思うと、なんだか微笑ましい。


「私も…錆兎のすごいところは、普段は炭治郎と話すんだけど、甘露寺さんとだと同じ立場で話せるから……楽しい」
と、答える義勇に、今度は甘露寺の方がぎゅっと胸元で両のこぶしを握り締めて力説した。

「嬉しいわ。だって、他のお友達だとただのバカップルとか言われちゃうんですもん。
好きな人がいる女子同士、思いきり語り合いたいわよねっ。
そう言えば、義勇ちゃん、呼び方なんだけど、私も”蜜璃ちゃん”じゃダメかしら?」

「あ、うん。蜜璃…ちゃん。これからそう呼ぶ」
甘露寺の申し出に少し戸惑った様子を見せながらも、どこか嬉しそうな義勇。

もちろん錆兎もそれに気づかないわけもなく
「義勇をよろしく頼むな」
と、甘露寺に笑いかける。

その様子を宇髄や不死川が見ていたら、一瞬青ざめ、次の瞬間に驚きに目を向いていたに違いない。

なにしろ甘露寺に笑みを浮かべながら話しかけた男を伊黒が敵視しないなどと言うことはこれまでになかったし、それどころか笑みまで浮かべているのだ。

それを指摘したならば、伊黒はきっと
「甘露寺に下心がある奴以外の男どもと、己の恋人のために甘露寺のような世界でもトップクラスの良質な友人にそばにいて欲しいと懇願する見る目と良識のある錆兎とを同列にすること自体が間違いだろう」
と、断言するに違いない。

甘露寺が世界で一番美しく優しく素晴らしい女性だと心の底から信じている伊黒ですら、錆兎の恋情のすべては義勇に向かっていると納得できてしまうほどには、義勇を見る錆兎の目は優しいのだ。

いや、自分が同じ目で甘露寺を見ている伊黒だからこそ、それを感じるのかもしれない。

互いに楽し気に彼氏自慢をする彼女たちの横で、伊黒と錆兎は実に友好的に彼女を喜ばせるための情報交換などをしながら、そのうえで、さらに互いの恋人達との時間を存分に楽しんだ。


「甘露寺…もっと何か食べるか?」
「ううん、まだいっぱいあるから大丈夫よ。伊黒さんも少し食べない?」

「ほら、義勇、口についてる。ちょっと動くな。拭いてやるから」
「ありがとう、錆兎…」

各々彼女を内側に、男二人がガードするように外側を歩く。
そして彼女二人は楽し気に互いの食べ物を味見させたりしながら、楽し気に歩いているうち、徐々に空が暗くなってきた。

「「そろそろ移動したほうがいいか…」」
と、男二人が彼女たちを連れて少し高台に誘導。
花火の絶景スポットではあるが、それだけにすでに人がいっぱいだ。

ここでも彼女たちが人ごみで潰されないように男二人が外側でガードして、パン!パン!と景気の良い音とともに夜空を染める色とりどりの光に目を向ける。

それはとても綺麗だった。
錆兎が見た中で一番…綺麗な光景。



──ねえ、錆兎…

花火が終わって互いに遅くなる前に女性陣を家まで送るため、駅まで歩く道々、義勇が不思議そうに錆兎を見上げた。

──うん?なんだ?

前を見ないと転ぶぞ?と、笑いながら言う錆兎に義勇が言う。

実際履き慣れない草履ということもあり、コテンと言った端から転びかけるが、しっかりとしがみついた錆兎の片腕に身を支えられている間に、もう片方の錆兎の手が前から回って体制を直してくれた。

そうして少し落ち着いたところで、義勇は続ける。

──錆兎、あまり花火見てなかったよね?あまり興味なかった?
──いや?綺麗だった。ただし、俺が見たかったのはそれじゃないから。
──…???

夜、くるんと澄んだ青い目がまるでビー玉のようにキラキラしていて美しい。

ああ、可愛いなぁと思いながら、錆兎が補足した、

──俺が見たかったのは花火を楽しむ義勇の姿で、それを思いきり堪能させてもらった。

と言う、その言葉に、義勇の顔からボン!!と火が吹く。


──きゃああぁぁ!!ラブラブねっ!!
と、そんな二人にはしゃぐ甘露寺だが、それにも錆兎は当たり前に付け足す。

──いや、俺だけじゃなく、小芭内もたぶんそうだぞ?ずっと蜜璃を眺めてたし。
──…えっ?!!!
──…当然だな。花火ごときが美しさで甘露寺に敵うわけがない。

と、真っ赤になって照れる甘露寺と、何を当たり前のことをと言わんばかりに淡々と頷く伊黒。


「「も~~!なんでそういうことを恥ずかしげもなく…」」
という彼女達とにこにことそんな彼女達を見る彼氏2人。

それでも、その後、彼女二人が
「「うちの彼氏が素敵すぎて辛い…」」
というところまでが、ばかっぷるのお約束である。



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