それは錆兎にとって初めて女子と出かける夏祭りの日。
一緒に行かないか…と声がかかったのは、なんと伊黒からだった。
もう、それだけで義勇も宇髄も不死川も…とにかく、共学科1年生組はびっくりだ。
自分の人生の時間は一分一秒まですべて甘露寺のために存在していると豪語する甘露寺厨で、同時に彼女との時間を他に邪魔されることを何より嫌う事もまた、知れ渡っている。
そんな伊黒が甘露寺と出かける日に他の人間も…などと誘うことなどありえない。
すわ、天変地異の前触れかっ?!と、リアルの彼を知らない男子科の錆兎以外は大騒ぎだったのだが、なんのことはない、
甘露寺がたまたま
「私ね、いつか一度、ダブルデートをしてみたいの。
女の子の友達と恋人のことを思いきり語らってみたいわ」
と、話の流れでぽろりと零したことが原因らしい。
彼女との時間は邪魔されたくないが、それ以上に彼女の願いは全て叶えてやりたい系の伊黒が、絶対に甘露寺との時間を邪魔せずに甘露寺に手を出さず、距離感を考えて一緒に出掛けてくれそうな相手として吟味に吟味を重ねた結果、選ばれたのが錆兎で、当然、Wデートということでその彼女の義勇も一緒に…となったようだ。
ついでに…恋人に対する姿勢が似ているように思われる錆兎と、彼女に対する尽くし方について語れれば一石二鳥だ…と思ったようである。
なので、当然ながら他の同級生達の同行は断固として却下された。
Wデートだから二組のカップル以外が存在するのは絶対に何があっても許されることではない!というのが伊黒の主張である。
彼女ファーストというスタンスの彼氏としては、当然どう言えば相手が動くかなど、わかりきっている。
「…今度の夏祭り…甘露寺が良ければたまには冨岡達も誘ってWデートとかではどうだ?」
と、まず甘露寺にお伺いを立てた上で狂喜乱舞する可愛い彼女の姿を満喫。
その後に先に義勇の方に誘いをかける。
義勇が行きたいと言えば錆兎は絶対に断らない。
自分が甘露寺に誘われれば断らないのと同じだ。
こうして夏祭り当日。
夕方4時に集合して出店をまわり、夜には花火を見ようということになった。
浴衣に草履という着慣れない履き慣れない服装ということもあり、錆兎は当然冨岡家まで義勇を迎えに行く。
正直自分の人生の中で、浴衣姿の彼女と一緒に夏祭りに出かけるなどと言う、まるで青春の一ページの定番のような経験をする日がくるとは思っても見なかった。
高校生になってからなんだか人生が目まぐるしく変わっている気はするが、幸せな変化だと思う。
元々日本人形のように愛らしい義勇が浴衣姿なんかを晒したら危険なんじゃないだろうか…と、かなり重症なことを思いながら冨岡家の玄関の呼び鈴を鳴らすと、
──はぁ~い!!
と、飛び出てきたのは笑顔の蔦子だ。
この冨岡家の長女はとても手先が器用な人で、義勇はオシャレをしたい時には彼女の所に駆け込んでいるので、今日の着付けや髪型も、きっと彼女の力作なのだろう。
そう思って視線を向けた先には、なんだかやり切った感あふれる笑顔がある。
「こんにちは。今日も蔦子さんが?」
と聞くと、うんうんと満面の笑顔で
「義勇~!錆兎君よ~~!!!」
と奥にむかって妹に声をかけた。
そうしてほんの少し待っていると、いつもならパタパタと軽い足音が聞こえてくるのだが、今日は母親に手を取られてちょこちょこと小股で歩いてくる義勇。
ほおぉぉ~と錆兎は思わずため息をついた。
可愛い。とても可愛い。
淡い青地に青や青紫の花が咲き乱れる浴衣に藤色の帯。
普段は降ろしている髪はふんわりと編み込まれて低い位置でまとめられていて、そのまとめ髪の上には紺と藤色の花の髪留め。
そして小さい藤色と紺の花のピンが数か所ちりばめられていた。
「ああ…つけてくれたんだな」
と錆兎が言うと、蔦子がふふっと笑みを浮かべて
「すごいわ。錆兎君の手作りなんですって?
お店で売ってるものみたいでびっくりしちゃった」
と言う横で、義勇が
「これね、父さんに見せたら、それなら今年はその髪留めに合う浴衣を買おうって買ってくれて、姉さんが髪を結ってくれたんだ」
と、嬉しそうに笑う。
「今日の義勇は、冨岡家&錆兎君プロデュースの義勇ね」
と笑顔の母と姉蔦子から離れて、義勇の手が錆兎に手渡された。
それでなくとも可愛い義勇が完璧に可愛らしく飾りつけられている上、錆兎自身も浴衣姿で、宍色という日本人離れした髪色なのに、綺麗な形の太い眉とどこか鋭い眼光…そして凛とした佇まいのためか日本男児と言った言葉がよく似合う空気をまとっている。
「錆兎、カッコいい。似合ってる!浴衣すごくいいっ!!」
と、キラキラした目で見上げてくる義勇に
「義勇の方が100倍似合ってる」
と、そんなバカっぷるそのままの言葉を投げ合いながら、双方一般人離れしたオーラを放つ美男子と美少女が連れ立って歩いて、周囲の注目を浴びていた。
「…歩くの辛かったら俺の腕に体重かけて大丈夫だからな?」
と、慣れぬ草履におぼつかない足取りの義勇を気遣いながらも、人ごみでぶつからないように誘導する錆兎。
それに義勇が礼を言うと、
「俺のために時間をかけて着飾ってくれたんだろう?
いつも義勇は愛らしいが、それだけ込めてくれた気持ちが愛らしくも愛おしい。
そんな義勇を連れて歩けるのだから、腕を貸すくらい大したことではない」
と、普通にしているとキリリと凛々しい顔立ちが、甘く優しい表情を浮かべる。
ふわあぁぁ~と、義勇は言葉を失ってしまうが、錆兎は
「…顔、真っ赤だな」
と、そんな義勇の鼻の頭をツンと軽く突いて笑った。
ずるり…と後ろに倒れかける義勇の背に、
「義勇っ!大丈夫かっ?!」
と、錆兎が慌てて手を回して引き寄せて支える。
「……り……」
「…?」
「…錆兎がカッコ良すぎて無理っ!」
思わず勢いで真っ赤な顔のまま叫ぶと、後方からはぁ~と言うため息とともに
「本当に……何を恥ずかしいことを叫んでいるんだ、冨岡は…」
と、呆れたような声がした。
「そうかしらっ!すごくきゅん!としちゃう展開よねっ!」
と、その隣から聞こえる声に視線を向ければ、毛先だけ淡いグリーンの桃色の髪の愛らしい少女が立っている。
そしてその言葉に即
「そうだなっ!甘露寺の言う通りだ。微笑ましい若者の恋愛図だな」
と返ってきたことで、錆兎は確信した。
この容姿とこの会話展開は間違いないだろう。
そこで
「オバナイにミツリだな?
リアルでは初めまして。サビトだ」
と、笑顔で握手の手を差し出した。
浴衣デートは夏のイベントの華ですね(*´ω`*)因みに足元が草履になってますが下駄じゃないのはもしかして義勇ちゃんの柔肌の保護の為に足袋だったりするのでしょうか?
返信削除一応調べてみたんですが、基本は下駄だけど、カジュアルな草履とかでもOKだということで…なんとなく義勇は柔肌っぽいので草履でいいかなと😄
削除さすさび案件なのか、ご家族の愛かでも下駄で擦り傷作ったりしたら錆兎がどうするのか却って心配ですよね(;^ω^)
返信削除