清く正しいネット恋愛のすすめ_43_初心者ヒメ

それは突然のことだった。

その日はいつものレジェロ勉強会を終えたあと、サビトとギユウ、それに夏休みの諸々ですっかり和解したタンジロウとサネミの4人でタンジロウのために剣士が装備できる攻撃力の高い手装備、”忠勝の小手”を落とすモンスターを狩りに行くことになっていた。

同じ敵が剣士と暗黒剣士が装備できる攻撃力UPの効果のある髑髏の腕輪も落とすので、これが出たらサネミが優先で。

サビトは付き合いで、ギユウはレベル上げといったところだ。


狩場は少々レベルが高い敵がはびこる場所なので、カンストのキャラでもアクティブな敵に絡まれる。

それをいちいち倒しながら行くとリンクもするので危険だし、何よりも時間がかかりすぎてしまうので、全員姿隠しの薬を用意する。

白魔法が使えるギユウだけは姿を見えなくするハイドの魔法が使えるが、魔法を詠唱すると自分の姿隠しの状態が消えてしまうし、リキャストもあるので、そこは薬学のスキルのあるサビトとタンジロウが素材倉庫の素材を使ってせっせと薬を作って、ギユウとサネミにも配った。

かなり本気の狩りになるということで、パラメータをあげる食べ物も必須なのだが、ギユウはまだそこまで高いスキルが必要な食べ物を作れないので、それはみんなそれぞれに競売で買うことにして、揃って街に出た。


「ギユウはこのメンツで狩り始めた時に詠唱速度を重視するか回復量を重視するかを変えてもらわないとならんし俺が何種類かそれに見合った料理を買ってその時々で渡すから買わないで良いぞ」
とサビトが言うので、

「うん、わかった」
と返事をしておいて、ギユウは暇つぶしに外観装備を眺めている。

タンジロウとサネミは今回はアイテム目当てということもあって殲滅速度を上げるのに攻撃UPの料理だし、サビトはみんなの盾なので防御をあげる料理を買いこんでいた。


そんな風に皆それぞれに競売を覗いていた時の事である。

──あの…一緒のパーティー組んでくれませんか?
と、いきなり声をかけてきた少女キャラ。

ふわふわの金色の髪にグリーンアイ。
色白華奢で、いかにもお姫様と言った感じのキャラだなぁと思ってキャラの頭の上に表示されているキャラ名を見ると、【ヒメ】の文字。

なるほど、お姫様をイメージして作ったキャラのようだ。


とりあえずその場にいる全員に見えるsayで話しかけて来ているため、誰に向かって話しているのかわからない。

ただ、近くにはギユウ達のパーティーメンバー4人が揃っていたので、
『誰かの知り合いかァ?』
と、まずサネミがパーティー会話で聞いてきた。

『俺は知らん。今ちょっと食べ物物色してるから、俺たちに言われているようなら誰かフルパーティーだと伝えてくれ』
と、即答する錆兎。
おそらく自分の分だけでなく、義勇のための食べ物も物色しているためだと思われる。

そこで言い出しっぺのサネミが
「あ~悪いんだが、俺らに言ってんならフルパーティなんだわ。他当たってくれェ」
と、sayで言った。

『まあ今日の目的を考えると、フルじゃなかったとしても無理でしたけどね。
彼女、キャラ作りたての新人さんみたいですし。
同じ低レベルの人と遊ぶ方が楽しいでしょうから、そう教えてあげた方が…』
と、なんのかんので面倒見の良い長子のタンジロウがパーティー会話でサネミにそう促す。

…が、そのキャラ、ヒメから返ってきた言葉は

──あなたに言ってないんですけどぉ~。あたし、そっちのナイトさんに声かけたの!
と、なんともトゲトゲしい言葉。

以前ならこれ一発でキレたところだったが、最近とてもとても丸くなったサネミが少し間を置いたところで、

──例えそうだとしても、親切に答えてくれた相手に失礼な物言いじゃないか?
と、なんといきなりサビトの方が静かにキレた。


『…サビトが……』
『…おいおい……』
『…サビトがキレたっ?!』
パーティー会話で漏れる驚きの声。

『…お前達は…一体俺をなんだと思っているんだ…』
と、呆れ混じりにつぶやくサビトに
『いや…お前、俺の暴言でもキレずに流してただろォ』
と言うサネミ。

しかしそれに対して
『いや?お前のことは初対面の時に投げ飛ばしていたが?』
『あ…っ!』
とのやりとりに、ギユウがなるほど!と頷いた。

『サビトは…自分に対する暴言には全く怒らないが、自分が親しい人間のそれにはキレるんだね』
『確かに!』

そんな風に裏でパーティー会話が続く中、ヒメという少女キャラはサビトに叱責されてもこたえる様子もなく…というか、なかったフリで、

「サビト様。ヒメ…今日始めたばかりで右も左もわからないんです。
パーティー組んで一緒に遊んでくれませんか?」
と、今度はしっかりとサビトを名指しで指名した上で言ってくる。


ジョブは見かけからすると白魔導士。レベルは1。
初期装備なところを見ると、ここまでアクティブなモンスターが出ないのを幸い、初心者の村でジョブを決定してすぐこの国の首都であるこの街まで歩いてきたのだろう。


「…まず□ボタンを押せ」
と、唐突に言うサビト。

「…はい??押しましたけど…?」
と、戸惑いながらも従うヒメ。

「メニューが出ただろう。
その一番下にパーティー募集という項目がある。
そこを押せばパーティーを募集できる。
単にこのあたりをふらふらしたいだけなら、案内人募集でパーティー募集をかければいいし、狩りに行きたいなら募集しているパーティーに応募しろ。
ただし、応募する場合は自分のレベルと募集しているパーティーのレベル差に気をつけてな」
と、そこまで言ったところで、その場にいる全員がサビトの言葉の意図を察した。

『さすがサビト!断るにしてもその後の対応を初心者にもわかるように教えてあげるところが親切ですねっ!』
と、いつものように尊敬のまなざしを送るタンジロウ。

『あれだな、わけわかんねえクラスメートとかの尻拭いし慣れてる奴の対応だな』
と、サネミは苦笑。

自分達が関わり合いになるのは言外に拒否しつつも、相手が困らないようにケースバイケースの対応を教えてやるあたりが、さすが錆兎だ!と義勇も感心する。


皆がこれで狩りに行けると安堵した。
…が、話はそこで終わってくれなかった。

「違うんです!私はサビト様とパーティーが組みたいんですけど…」
となんとそこで食い下がるヒメ。

パーティーメンバー全員がそこで、え?と思うが、当のサビトは動じない。


「無理だな。
俺は常に固定パーティーを組んで行動している。
そこに空きはない。
それ以前の問題としてレベルも違うしな。
ナイトが欲しければ自分とレベルの近いナイトをパーティー募集で探せばいいと思うぞ。
その方が一緒に必要なことが出来るし、長く付き合える」

そう言って切り上げようとするサビトに、皆いい加減諦めるかと思ったが、ヒメはさらに食い下がった。

「でもっ!レベル差あってもヒーラーなら回復魔法を味方にレジストされることはないから大丈夫って……」

「…俺のレベルになるとHPも多いし、レベル1のヒーラーのヒールなら、薬で回復したほうが早い。
それ以前にきちんとした回復量のヒールをかけられるヒーラーがすでに固定にいるから、他のヒーラーは必要ない」

「でも…そういうレベルのヒーラーさんは他のパーティーを見つけることだってできるんじゃないかな…。
ヒメは守ってくれる人がいないと……」

「確かにうちのヒーラーはその気になれば引く手あまただと思うが、俺が手放したくない。
そういうプレイをしたいならパーティー募集で”守ってくれる高レベルのナイトさん募集です”とでもコメントを入れておけば、そういうプレイが好きな人間が来ると思うから、そうしろ。
俺は今の固定を抜ける気も、今の固定のヒーラーを手放す気もないから。
もういいか?今日は俺たちには予定があって、これ以上、問答する時間はない」

何故か飽くまで諦めないヒメという少女キャラを振り払おうということで、

『いったんホームポイントに飛ぶぞ。そこからダッシュで街を出て狩りに向かう』
と、サビトは即、街の入口に設定したホームポイントにワープした。

そこで全員同じくホームポイントへ。


移動としたら街の中央から入口に行くだけなのでなんの意味もないが、相手はこちらが街の入口にホームポイントを設定していることを知らないだろうから、あるいは遠くへ移動したのだと思ってもらえるかもしれないし、なんなら初日ならホームポイントのことすら知らないかもしれない。

なので、彼女から逃げるだけならそれで十分だ。



『さすが、サビト!賢いですね!』
と、また素直に感心するタンジロウ。

『もう会わねえといいなァ。なんかやばい奴っぽくね?』
と、心配するサネミ。

『当分はログイン、ログアウトは自宅でして、外に行く時は街中を通らず直接街の入口のホームポイントだな』
と、ややうんざりした様子で言うサビト。

街のすぐ外にある馬屋で馬を借りて走らせながらの移動中。
皆何故移動させながらそんなに文字を打てるのかわからないギユウだったが、それに気づいたのだろう。

『ギユウ、俺にターゲット合わせて右スティックボタンを押せば、自分で動かさなくても俺のあとを追尾するようになるから』
と、サビトの言葉に従ってやってみると、なんと、本当にコントローラから手を放しても錆兎の跡を勝手に追ってくれるようになった。


『というわけで…まあ一過性だったらいいんだけどな。
もしかしたら本当に初心者でとりあえず装備良さそうな人間ならなんとかしてくれると思って声かけただけで、慣れて事情が色々わかってくれば仲間も出来てわすれてくれるかもしれないし…』

『そうなるといいなぁ…』
と、全員声を揃えながら、なんだかそうならないような恐ろしい予感を感じ、こっそりギルド会話で真菰に報告をしておいたのだった。


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