清く正しいネット恋愛のすすめ_40_少年の決意と少女の下心

少年は思った…
義勇の気が変わらぬように精進しなければ……!!
…と。

そして…少女の方は思っていた。
錆兎の気が変わらないうちに後戻りできないように周りから固めて行かないとっ!!!




──あのね、父さん、会って欲しい人がいるのっ…
と、次女の義勇が言ってきた時、その相手と理由を聞いて、義一は頭を抱えてしまった。

なにしろ相手は同じ高校の男子高生…までは良いとして、義勇曰く、彼と結婚したいから、会っておいて欲しいと言うのである。

ああ、これは絶対に騙されているな、娘…と、彼はため息をついた。
なにしろ子どもの頃から男子にいじめられて男の子が怖かった娘が、出会ってまだ1ヶ月の相手といきなり将来は結婚するのだと言うのだから、どう考えても怪しい。



冨岡家の父、義一はなかなかに忙しい人物である。
小さいながらも会社を経営。仕事で日本各地を飛び回っている。
それでも極力、毎日自宅に戻るようには努力する日々。
なにしろ彼の妻子は少々おっとりふんわりしすぎているので…。

妻の葉子はお嬢様で、幼稚舎からエスカレータで短大まで上がれるミッション系女子校で、それはそれは清く正しく美しく育った人で、娘二人には何故か義一の遺伝子はどこに?と思われるほど、母である葉子の遺伝子が受け継がれていた。

長女の蔦子は妻と同じ学校に幼稚舎から入れた。
結果、やはり少しおっとりふんわりやんごとなさ溢れる乙女に育ちはしたが、母よりはしっかりしている。
かろうじてお育ちの良いお嬢さんにとどまっている感じである。

次女の義勇は…色々な面でやや可哀そうなことをしたと義一も思っていて、つい甘やかしてしまったのがよろしくなかったのかもしれない。

まず義勇がまだ母親のおなかの中にいる時…妻の葉子は
「一姫二太郎って言うから、次は男の子ね」
と、腹の子が男だと言うことに微塵も疑いを持たなかった。

男の子が欲しいとかいうことではなく、最初が女だから次に子が生まれて来るのは男の子のはず…と、信じ込んでいたのである。

さらにまずかったことには、子どもの名は自分につけさせて欲しい…と、彼女には結婚当初から言われていて、義一はそれを了承していたので、蔦子の名も葉子が実家にいる時から付き合いがあった占い師につけてもらっていた。

義勇の時は、義一の名前から一文字を取って何か良い男の子の名をと依頼して、義勇という名を決めていた。

結果、生まれた子は女の子だったのだが、
『だって、この名前が運勢が良い名前なのっ』
と、こだわる葉子に押し切られて、どう見ても男の子の名だろう?と言う名をそのままつけてしまった。

しかも次女は名は全く体を表さず、蔦子以上におっとりした子で、このままおっとりしすぎては将来困るかも?ということで、女子校ではなく、共学に放り込む。

…が、この選択肢もまずかったらしい。
気の優しい次女は腕白な男子にいじめられて、男の子が苦手な子に育ってしまった。

それでも内気で友達を作るのが苦手な彼女が全く知っている子のいない女子科に移籍するのも怖いと言うので、そのまま高校まで共学科へ。


…そんな流れからの、いきなり将来結婚したい相手…という話だったので、親もついつい娘の判断を疑ってかかってしまったわけである。

実は数十年前…道で迷子になっていた彼女の母親、つまり現在は彼の妻である葉子に一目ぼれをされ、追いかけまわされ…そして1か月後に親にあって欲しいと言われて、そのままなし崩し的に付き合って結婚したという自身の経験を義一も覚えていないわけではない。

しかし…しかしだ。
あれはたまたま自分が下心のないまともな人間だったから良かったのである。
相手がきちんとした人物で、そのまま結婚してきちんとした家庭を形成できる確率なんて高くはない。

まあ…先走る前に父親である自分に会ってくれというだけ、まだ良かったのかもしれないが…。


とにかく頭ごなしに反対したり疑っているような言葉をかけても意地になるだけだろう。
実際に会ってみて冷静に相手のことを観察して結婚ということを考えるまでにはもう少し色々考えた方がいいという事を指摘しよう。

そう考えて義一は土曜日の休みに次女の初めての彼氏というものに会ってみることにした。


彼と出会ってからは自分がいない間にもずっと、妻と長女には色々話していたらしい。
当日、妻と長女は次女と共に大はしゃぎである。

朝から、可愛くしなきゃね、と、2人して次女を飾り立てている。

きゃらきゃらと響く甘やかな女性陣の笑い声。

休日の朝に家を満たすそれは、本来ならとても和やかにして微笑ましいものなはずだが、次女の初恋を応援する気満々の女性陣の中でただ一人、それに異を唱えなければならない可能性が高いという事で、義一は気が重い。

散々同級生の男子にいじめられて嫌な思いをしてきた次女だから、せめて相手がからかいの気持ちで義勇にちょっかいを出しているんじゃないといいんだが…と、リビングのソファに座って新聞を広げながら、心配性の父親はため息をこぼした。


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2 件のコメント :

  1. パパ義一、最高ですね。

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    1. 錆が結婚したら一番の理解者で相談役になりそうですね😊

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