清く正しいネット恋愛のすすめ_35_長男、長男、一人っ子

…う~ん、なかなかすごいことになったが、皆楽しそうで良かったな…

とある夏の午後の鱗滝邸の前庭は、現在絶賛プール日和で、幼児から小学生までが、家庭用にしては驚くほどでかい直系3mほどのプールではしゃいでいる。

今日は元々は幼い弟が邪魔をするため自宅で宿題をするのが難しいと言う不死川を、それなら我が家で、と、誘ったのだが、大家族の長子である彼が出かけようとすると、弟妹がずるいと泣き出し、それならまとめて面倒をみるからみんなで来い、と、誘ったのが始まりだった。

しかしそうなると、面倒をみる側が自分だけでは足りないだろう。
不死川自身は宿題をさせてやらねばならないしと、共通の友人宇髄を呼ぶことにして、家に置きっぱなしになっている幼い頃の女児用のおもちゃを使わせてもらうために念のため許可を取ろうと連絡をいれたら、真菰も来てくれることになった。

そうして、真菰に今日来るメンバーを伝えたら、──ここはさ、チャンスだよ。義勇ちゃん誘ってみなよ。口実は十分あるわけだからさ──と言われて、ダメもとで義勇に声をかけたら、来てくれると言う。

ナイスだ、真菰。不死川もありがとう!思いきりもてなさせてもらうぞ!と、このあたりで変なスイッチが入った。

鱗滝家では祖父が毎年夏休みの間、剣道の弟子達のなかで希望者を一泊二日、合宿と称して家に泊めて家事を教えながら剣道の練習をさせるというイベントをやっている。
その時にお楽しみ行事として流しそうめんの他に、弟子の1人の家で昔から懇意にしている竈門ベーカリーから電動のかき氷器を借りてかき氷をつくるので、今回、子どもが多くなるからかき氷器を借りれないかと電話をしたら、ちょうど出た炭治郎が泣いた。
いや、比喩じゃなく、本当に電話口で泣いたのである。

自分の方がずっと昔から親しくしていて、自分は錆兎の弟弟子なのに、不死川に声をかけても自分に声はかからないのか…と。

錆兎の家なのに、義勇さんもくるのに…と、しゃくりをあげる長男。

それに、いや、本来は遊びではなくて、自宅で宿題のできない不死川だけ、宿題をする場所を貸すために呼んだのだが…というところから、兄弟総出でくることになった理由も話した。

そのうえで、
この暑いなか足を運ぶのを構わないということであれば、なんならお前も来るか?
弟子歴が長くて我が家の勝手を知っているお前が来ればめちゃくちゃ助かるが…
なんならお前の所の弟妹も連れてきても構わないが?
と声をかければ、あっという間に立ち直って、こちらも兄弟姉妹総出で参加することになった。

結果…不死川家7名、竈門家6名、宇髄に義勇に真菰、それに女手がさらにあれば助かるだろうと、真菰が一緒に生徒会をやっている友人の胡蝶カナエも来てくれるという事で、自分も入れたら総勢18名の大所帯と相成ったのである。


着いたらまず不死川はそれが目的だし、年長者組もたくさんいるから気にせずやれと、部屋に押し込めて、あらかじめ宇髄と準備していた大きなビニールプールに年少組を放り込み、それは玄弥と炭治郎の妹の禰豆子の中学生組、それからカナエ、そして念のため宇髄の4人体制でしっかり見ていてもらう。

その間に錆兎は炭治郎と共に倉庫から出して洗っておいた流しそうめんの筒を組み立てて、それが終わったら真菰と一緒に食器の準備をしてくれている不死川家の上二人の妹と義勇に合流。
彼女たちと共にそうめんのお椀や割り箸、かき氷用の器の準備に勤しんだ。

そうめんをゆがくのはよそ様の娘さんに万が一があると困るので、すべて錆兎と炭治郎。
薬味や麵つゆを足したり、ゆでたそうめんを運んで流すのは、準備をしていた4人の女性陣。

プール組の年長者たちは、食べている間の子ども達の面倒もみながら自分達も食べる。

チビ&その保護者役達が食べ終わったら、それも万が一があったら怖いので真菰が作ってかき氷。
シロップはイチゴ、メロン、ブルーハワイ、レモンと用意して、禰豆子が自分も食べながらも、チビ達の分はかけてやり、玄弥、宇髄、カナエは、やはり子ども達の面倒をみながら自分達も食べる。

錆兎と真菰、不死川家の2人の妹と義勇、それに炭治郎と不死川は交代でそうめんを流しながら食べつつ、食べ終わった頃に子どもの面倒組の宇髄と玄弥が男の子の、禰豆子とカナエが女の子の着替えをさせている間に、真菰が仕切りをして女性陣に食器の片付けをしてもらい、片付けくらいはさせてくれという不死川と炭治郎と3人で流しそうめんの道具の片付けと、プールの水抜きをする。

この二人に同じ作業をさせたのは、まあ、互いに実は似た境遇なので、それを思いきり実感できるこのイベント中に和解できたらいいなと、そんな意図もあってのことだ。


未だ不死川の事を極悪非道な悪の大魔王と思っている炭治郎だったが、幼い弟妹を見る不死川の視線が意外に優しいことに戸惑っているように見える。

さらに不死川が
「錆兎、今日は本当にありがとうなァ…。
うちは兄弟多い上に親が忙しくて、俺も自分の宿題と勉強と、夏休みくらいは母ちゃんに楽させてやんねえとだから、家事とチビ達の日常の世話で手一杯でな。
上の4人まではまあ自分でなんとでも折り合いつけてやってるみてえだが、チビ二人はやっぱどこも連れてってもらえねえのは悲しいみてえだったから。
お前が流しそうめんやってくれるって聞いた時、一番下の妹のことなんか喜んで、絵日記に描くんだってクルクル踊りながら歌ってたんだぜ」
などと、目を細めると、炭治郎もそのあたりは同じ大家族の長男だけに共感する部分があるのだろう。

「ああ、わかる、それ。
うちもパン屋で自営業だから皆が休んでる時に休めないしな。
禰豆子は中2だから一緒に下の兄弟の面倒見てくれるし、竹雄は校庭開放の時に遊びに行ったりとかするけど、花子と茂は小2と小1だから一人で出せないし、2人ともやっぱ絵日記が宿題で出てて、書くことない、どこか行きたいって泣いてたな。
それに比べればまだよくわけわかってなくて、おぶったり抱っこしてやれば機嫌がいい2歳児の六太の方が楽かもしれない」
と、頷いた。

「あ~、やっぱどこも同じか。
小学校の低学年は絵日記出るんだよな、宿題に。
教師もどこも連れてってもらえねえ家のガキのことも考えて宿題出せよと思うよなァ」

「…それだよな。自分の時は確か夏休みに家の手伝いをしたことを書いたし、仕方ないのもわかるんだけど、友達が遊園地連れて行ってもらったとか、田舎のおばあちゃんの家に行ったとか、楽しそうなこと書いてる中で、自分だけどこも行かずに家の手伝いしてたとか、1人で近所の公園行ったとかいう日記書いてるとなぁ…去年、それで花子が自分だけどこも行ってないって、学校から泣きながら帰ってきたな…。
俺がどこか連れて行ってやればいいのかもしれないが、5人引き連れて行くのはちょっと辛いと言うか…危ないと言うか…」

「うちなんかさらに1人多い6人だぜぇ…」
と、長子二人がため息をつく。

そこで唯一の一人っ子の
「まあ…ここにそんなお前達が羨ましい一人っ子がいるんだけどな…」
と、言う言葉と共に漏れるため息が重なった。

「あ~、錆兎一人っ子か…。なんだかそれっぽくねえなァ」
「ですよね、錆兎はなんというか…みんなの兄さんだから…」

「…そう思うなら、炭治郎なんか家が近いんだから、もっと兄弟たち連れて遊びに来い。
だだっ広い家に1人きりの、本気で寂しい身の上なんだからな。
少しは兄弟貸し出せ。一緒に遊ばせろ」

「え~?良いんですか?そんなこといったら、みんなで押しかけちゃいますよ?
うち、俺や禰豆子から六太まで皆錆兎のこと大好きだから」

「ああ、別に構わんぞ?
さすがに毎回流しそうめんとかは出来ないが、なんなら今度はきちんとおじさんおばさんに許可をもらって、日中は宿題見てやるから、夜までいて、庭で花火でもするか?」
「いいんですかっ?!じゃ、今度はうちのパンいっぱい持ってきますっ!」

「よし、いつにしようか。炭治郎、実弥、都合悪い日はあるか?」
「え?うちも良いのかよ??」

「お前ん家の親御さんが許可してくれるならな。
夜まではダメと言うなら、宿題だけでもどうだ?
自由研究とか、低学年だと工作とか多いし、広い方がやりやすくないか?」

「親は平気だ。うちは忙しすぎて気にしやしねえ。
兄弟たちもめちゃくちゃ喜ぶけどよォ…
…なんつ~か…錆兎、お前、めちゃくちゃ面倒見良いよなぁ…
マジ、一人っ子とは思えねえ」

そう言えば義勇に対して改心の気持ちを表明してからの自分に対しても、錆兎は同級生とは思えないほどに面倒見がよくなった。
そもそもが今日だって、末の弟に邪魔されて美術の宿題を出来ない話から始まっている。

本当に感心しきって言う不死川に、錆兎はう~ん…と、腕組みをして、
「いや…下心あるからなぁ…」
などと言うので、それはそれで驚いてしまった。

しかしそれに驚いたのは不死川だけではない。

「錆兎が下心っ?!!」
と、炭治郎がまんまるい目を大きく見開いて叫ぶ。

「ああ。俺はずっと兄弟姉妹が欲しかった人間だから…」
「…だから?」
「何故自分だけどこにも連れて行ってもらえないんだ?と泣いていた実弥の妹のように、何故自分だけ1人なんだ?兄弟姉妹が欲しい!!と泣いたことがある」
「………」
「今にして思えば…両親は亡くなっていたし、それを言われる爺さんも困っただろうけどな。いまさら自分がどこぞで子を造ってくるわけにもいかんだろうし…」
「…まあ、そうだよなァ」
と、不死川が苦笑する。

「それでな、爺さんが言ったわけだ。
血のつながりは作れなくとも、よその人間に対してでも兄弟姉妹のように手を差し伸べれば、相手もそのうち兄弟姉妹のように慕ってくれるようになる。
そうすれば、そんじょそこらの兄弟姉妹なんて物の数ではないほど大勢の家族ができるぞ…とな」
と、その言葉には
「鱗滝先生らしい考え方ですね」
と、その祖父に剣道を習っていて人柄をよく知る炭治郎が微笑んだ。

しかし…その後に続く、錆兎の
「で、義勇と出会うまで、俺は俺の嫁になってくれるかもしれない女性が出来るとは思っても見なかったから、自分の血のつながった子を持つこともできないだろうし、手あたり次第、兄弟姉妹候補を抱え込むしかないなと…」
という言葉には、

「錆兎…お前、そこはおかしいぞ?
賭けてもいいけどなァ、うちのクラスでお前の嫁候補を募集したら、半数以上は手ぇあげるからなァ?」

「錆兎、それはありえません。
うちの禰豆子と花子はどちらが将来錆兎のお嫁さんになるかで、しょっちゅう喧嘩してますよ?
ありえないけど、義勇さんに振られたら、どちらかもらってやってください。
どちらも16の誕生日になったら、その日からこの家に駆け込んできます」

「あ~、そんなら、それより、うちの妹達の婿に来てくれや。
一気に兄弟6人できっぞォ」

「何を言ってるんですかっ!うちの妹達のほうが先に決めてたんですっ!!
俺だって錆兎の弟になりたいし、渡しませんよっ!!」

「先にって言うなら、冨岡だって俺が一番先に惚れたんだからなァ?
でも結局錆兎を選んでんだから、順番なんて関係ねえだろうがァ」

と、思いもよらぬあたりから、また不死川vs炭治郎の戦いが勃発。

しかしそれは錆兎の
「…縁起悪いから、義勇に振られる前提で話をするな。
俺は2年後に義勇と共に産屋敷学園大に進学、学生時代に公認会計士の資格でも取って、卒業後、生活していけるめどがついたら義勇と結婚。しばらく務めた後、この家の一角を改造して事務所にして開業。
最低一男一女、できればもっとたくさんの子どもを作って、隠居後はじいさんのように剣道を教えつつ楽しくも平和な老後を迎えようという人生設計をたててるんだからな」
と言う言葉で終了する。


「え?お前、経済系かよ。文系なら弁護士とか裁判官とか…それか官僚?
とにかく法学系のイメージだわ」
「ん~。独り身のまま生きていくならそれもありだったんだが…」
「結婚するとダメなんですか?」
「弁護士なら自分の依頼主かその相手、裁判官なら原告か被告、どちらか思い通りの判決が出なかった方に恨みを買うことになるだろうから、義勇や将来生まれる子どもにまで危険が及ぶ可能性がある職は避けたい」

「「うわぁぁ…」」
長子組が口をそろえて言う。

「官僚も考えたが、忙しくて家族と顔を合わせる時間がなさそうだしな。
自宅を事務所にできる士業なら忙しくとも顔の見える所にいられるから…」

「…寂しがり屋かよ?」
プスッと笑う不死川に、
「知らなかったのか?」
と、照れもせず当たり前に答える錆兎。

「…だから…実弥も炭治郎も、暇なら兄弟連れてどんどん訪ねてきてくれ。
前日くらいまでに連絡くれれば飯くらいは用意しておくし、道場も庭もあるから、子どもが騒ごうが走り回ろうが全く問題ないからな」
と言う言葉でなんとなくオチがついた。


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