──…え?…胡蝶も?…ああ、義勇がいいなら俺は別に構わない。
帰り道、今日も当たり前に迎えに来てくれた錆兎と学校の最寄り駅まで向かう道々、念のため、今日の昼の話をして、胡蝶も一緒に勉強したい様だがいいか?と尋ねると、錆兎は了承して、
「もし胡蝶が新たにキャラを作るなら、良ければ当座使えるHQ装備を作って送ってやるからID聞いておいてくれ」
とまで言ってくれる。
あの勝負の日の翌日に学校に行くと、机の引き出しに不死川からの手紙が入っていて、昔の意地悪のことから、現在つい声を荒げてしまうことまで、丁寧な謝罪がつづられていた。
そしてそれを読み終わってちらりと後方の不死川の席の方を見ると、義勇が手紙を読んだことを理解したのだろう。
不死川が立ち上がって
「すまなかったァ!」
と、きっちり90度に頭を下げて言った。
教室内には他にクラスメートもたくさんいて、なかには初めて錆兎が迎えに来た日のことを結構多数が覚えていて恥ずかしいだろうに、そうやってきちんと謝罪をしてくる不死川に義勇は好感を覚える。
…というか、義勇が逃げずに話を聞いてやればここまでこじれなかったのかも…と、むしろ不死川には悪いことをした気になった。
「…私も…顔を見るたび逃げてごめん」
と、義勇のほうもぺこりと頭を下げれば、
「いや、俺が一方的に悪かったんだァ。ごめんなァ」
と、少し照れたように笑う顔は実は意外に童顔で可愛らしいことに気づく。
そうしてなんとなく不死川とも和解をして、さらに不死川といつも一緒の宇髄と話すことも多くなった。
しかし不死川は錆兎との約束があるせいか、めちゃくちゃ気を使って義勇のいる場所から距離を保っているようなので、
──別に…そこまで気を使って距離を取らなくても…普通のクラスメートの距離感でいいよ?
と言ってやると、最初びっくりしたように目を見開いて固まって、それから
──わかった!
と、とても嬉しそうに顔をくしゃくしゃにして笑うと、それからは胡蝶の監視の下ではあるが、普通の距離感になる。
…というか、近づくついでに、よく、胡蝶に言われて、色々手伝わされていた。
胡蝶とレジェロでの勉強会の話をしたその日も少し離れた所で宇髄と弁当を食べていて、じ~っとこちらを見ていたので、
「…不死川も…勉強会に混じりたい?」
と聞いてやると、本人が答える前に宇髄が
「あ~、混ぜてやってくれっ!
こいつ数学は馬鹿みたいにいいんだけど、文系がめちゃくちゃでなっ。
中間の数学、満点で1位なんだぜ?
なのに全体順位280位ってウケねえ??
このままだと上いけねえの」
と、不死川の成績を暴露しつつ爆笑している。
「うっせえっ!てめえ、勝手にひとの成績暴露してんじゃねえよっ!!」
と、不死川は口を尖らせながらも、
──…もし…迷惑じゃねえってんなら…
と、ちらりと義勇に視線を送る。
「うん、1人増えるのも2人増えるのも変わらないと思うから、錆兎に言っておくね」
と、義勇が言うと、助かるわ、と、両手を合わせた。
ということで、それも加えて錆兎に伝えると、
「ああ、和解できたんだな、良かった。
数学得意で文系苦手って義勇と一緒か。
じゃあ、同じ資料が使えるし一緒に教えられるな」
と、笑顔で言う。
ここで、自分の彼女が他の男も一緒にと言うのに嫌な顔一つしない錆兎は懐が深い…と、義勇は感心した。
自分だったら錆兎の方から他の女の子も一緒に…と言われたら、複雑な気分になるだろう。
「…やっぱり錆兎は世界一の彼氏だ…」
と、なんだか嬉しくなって手を置いていた肘にしがみついて、無言になった錆兎を見上げたら、なんだか真っ赤な錆兎の顔。
「…なんで赤くなるの?言われ慣れてるんじゃ?」
と、不思議に思って聞いた義勇に返ってきたのは、
「…彼女なんて義勇が初めてなんだから、言われ慣れているはずがないだろう…」
と、言う言葉で、
「そうか。錆兎にそう言ったのが錆兎の人生の中で私が最初ならすごく嬉しい」
と、ムフフっと笑って義勇が言うと、錆兎の顔がさらにさらに真っ赤になった。
その日のレジェロは特に楽しかった。
いつもの勉強の待ち合わせ時間、20時にレジェロの2人の家にいると、尋ねてくるミツリとシノブの2人の少女キャラと、サネミとテンゲン。
『でっけえ!さすが、最高級住宅街の中でも特に広い敷地に建てた最高級の家だわww
神ナイトがヘルプの報酬で建てたヘルプ御殿って呼んでいいか?www』
と、テンゲンが爆笑する横では、
『まだ家具とか手をつけてないんだけど、何か可愛いのとかあったら教えてくれると嬉しい』
『素敵な洋館ですものね!きゅん!としちゃうような家具をいっぱい置きたいわよね』
と、盛り上がるミツリとギユウ。
さらにその横では
『前回は地学の先生のひっかけ問題で私10点落としたんです!
サービス問題とか言ってて、すっかり騙されました。
今度こそ3位を目指すためにそのあたりのミスをなくしたいんですけど…』
『あ~、あれか。地球から一番近い恒星までの距離ってやつな?
4.367光年って書いたクチか』
『ええ、浅はかでした…』
『あれのポイントは太陽系から一番近い恒星じゃなくて、地球から一番近い恒星ってとこだよな』
『ええ…もうその説明されるとさすがに落ち込むので……』
『まあ…サービス問題…ではないよな、あれは。
ケンタウルス座アルファ星の4.367光年の方が、太陽の1億4960万kmよりは覚えやすい気がするし、ケンタウルス座アルファ星は割とみんな丸暗記してるからな…
サービス問題と言う言葉を発する時点ですでにひっかける気満々だったなw』
『そのサービス問題というひっかけの言葉にひっかかったのが口惜しすぎて血管が切れそうです』
『まあ、今回はサービス問題という言葉自体を疑ってみることだな。
胡蝶は基本も応用もほぼ網羅してるとは思うから、ノート渡した日以降の授業の分のノートと、自分用に作った基本はもうすっ飛ばした、ちょっと嫌な応用だけ集めた予想問題を明日、義勇に持って行ってもらうか?
で、それをやってみて、わからないところの質問と、出来れば胡蝶的に足りないと思うところがあれば指摘してもらうという相互補助という感じでいいか?』
『ええ、それで』
と、いきなりもうゲームも家も関係のない話をしている秀才組。
そして最後に、どちらの話題にも今一つ入れないサネミに、
『サネミは苦手教科がギユウと一緒だから、まとめて教えるな?
特に英語は小テストの平常点の割合が大きいから、まずは期末以前に小テストで点数を稼ぐぞ。ギユウには毎日教えてるから、お前も出来れば少なくとも期末までは毎日来てくれ』
と、声をかける。
『お~、さんきゅーなァ』
『せっかく縁ができたんだ。出来れば一緒に産屋敷学園大に行きたいからな』
と、最初の出会いが嘘のように和やかな2人。
それに少し安心して、
『ウサ~、なんか甘露寺に倉庫のアイテム持ってって良いって言ったんだって?
俺もあんま必要なことが少ないから後回しにしてた防御用の着替え欲しいんだわ。
甘露寺と一緒に物色しても良いか?』
と、手をあげる宇髄に、錆兎は
『ああ、じゃあ今日はギユウとミツリ、あとテンゲンは先に倉庫で、その間にTVに明日の英語の小テスト用の確認問題流すから、サネミはそれをスクショでも画像をコピーするんでもいいから写して、家で印刷できるなら印刷してひたすら繰り返し書いて覚えろ。
明日にはギユウと同じ単語帳と問題用紙持たせるけど、明日のテストには間に合わないから。
明日のテストから少しでも点数を取れるようにな。
胡蝶は質問があれば受け付けるが、なければ今日はマニュアルを見つつレジェロの最低限の操作になれてくれ。おまえとは双方向で画像のやりとりをすることもあると思うから画像のあげ方とかもな』
と言ってサネミとシノブを連れてリビングへ消えていく。
それを見送って
『じゃあ、私たちも行こうか』
と、ギユウはテンゲンとミツリを連れて第四倉庫へと向かった。
『ちょ、うはっwwwウサちゃん、これ不用品用の倉庫にいれるかぁwwww』
『え?ええ??ね、これ本当に頂いて良い物が入った倉庫なのかしら?間違ってない?』
こうして向かう四号室倉庫。
中に収納されている物のリストを見て、なんだか爆笑しているテンゲンとオロオロしつつソロリ…とギユウにお伺いを立てるミツリ。
ギユウも覗いては見るが、正直まだレジェロを始めてそれほど経っていないので、そこにあるアイテムの価値は全然わかっていない。
かろうじて装備の装備可能ジョブとレベルくらいは明記されているのでわかるのだが…
『…ごめん、私はまだアイテムとか装備とかよくわからなくて…。何か問題が?』
と聞くと、ミツリが
『あの…ね、この金剛石の聖爪ってね…格闘家にとっては三種の神器って言われてるほどの武器でね、カンスト8人で挑むくらいの強さの火水風土光闇のドラゴンを倒してそれぞれ稀に出る宝玉を6種類のドラゴン分集めてそれを奉納して初めてポップする虹のドラゴンを倒して稀に落とすっていう、レア中のレアで……とにかくすごいものなのっ』
と、興奮気味に説明をする。
『なるほど…なんかすごいものなんだ?高いもの?』
そう言えばサビトが何かの資金が必要ならこの倉庫の物を適当に売れば資金が作れるって言ってたなぁ…くらいの感覚でギユウが聞くと、
『それを売るなんてとんでもない!』
と、ミツリが某有名オフゲーのセリフのようなことを絶叫し、その横でテンゲンがやっぱり爆笑した。
よくわからないが…ミツリはジョブが格闘家だし、使うなら持っていけばいいんじゃないかと思って、
『装備できるなら持っていって?』
と言うと、再度ミツリに絶叫された。
『え?ええ???そ、それは悪いわ。申し訳ないわっ』
と固辞されるので、一応サビトに
『サビト、四号室にある金剛石の爪って装備、ミツリさんにあげていい?』
と、聞くと、
『ああ、売るとかじゃなく装備してくれるなら何でも持って行ってもらってくれ。
どうせ俺たちでは倉庫の肥やしにするか売るしかできないから。
ああ、そうだ。キョウジュロウに聞いたところによると、ミツリの恋人はあいつの親しい友人らしくてな、召喚士って言ってたから、確かその中に召喚士用の同シリーズのロッドもあったと思うし、ついでに持って行ってくれ』
と、返って来て、ミツリをさらに絶句させた。
え?え?ええ??と動揺するミツリに、テンゲンが
『あ~、ウサはそういう奴だから、遠慮せずもらっておけ』
と促して、
『ありがとうっ!ほんっとうに大切に使わせてもらいますっ!』
と、金剛石の爪とロッドを受け取る。
ミツリには、他にも必要なものがあったら…と言ったのだが、
『もう胸がいっぱい過ぎて…伊黒さんと金剛石シリーズをお揃いでつけられる日がくるなんて思っても見なくて…今はもう他の物なんて何も見えないわ…』
と、興奮冷めやらぬ様子で言われたので、宇髄が忍者用の防御装備を物色するのを待って、リビングの学習組に合流して、試験勉強タイムに突入した。
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