「まあ、家を買ったの?え?キャッスルエリアっ?!
いいわねぇ、羨ましいわぁ。
やっぱり鯖でも有名な出来るナイトさんだとヘルプのお礼も呼ばれるミッションでの利益もすごいから、お金貯まるのねぇ…
私もね、ハイグラウンドに家を買うため、この3か月ほどずっと伊黒さんと二人でお金貯めてるの。
義勇ちゃんのところほどの物は買えないけど、好きな人とコツコツとお金を貯めて買うマイホームも私たちにとっては世界一のおうちになると思うのよ?」
それまでは一人でぽつねんと食べていた昼も、胡蝶が一緒に食べてくれるようになった。
そこに今日はいつも一緒に食べている伊黒が父方の祖母の葬式で休みだということで、甘露寺が加わっている。
こうして3人で摂る昼食。
普段はいない甘露寺がいるということで、義勇が甘露寺にレジェロを勧めてくれた礼を言った。
おかげでサビトと出会うことが出来て、毎日が楽しくて幸せだ、と、説明すると共に近況として、昨夜にレジェロで家を買って引っ越したのだと、そんな話をしたなら、ちょうど家を買うためにレジェロ内でお金を貯めているという甘露寺がそれに乗ってきたのだ。
「…サビトはレジェロ内でもそんなに有名人なんだ…知らなかった…。
家がキャッスルエリアになったのは、サビトがアイテムを保管するのに倉庫の多い大きな家を欲しがったからなんだけど…倉庫以外は全部好きにしていいと言われてるから、今日からはしばらく家具を物色したり内装を考えたりがすごく楽しみで…」
「そうよねっ!家を色々飾るの、とっても楽しみよねっ!
私も早く家を買いたいわぁ。
そのために欲しい装備も当分我慢で質素倹約だけど…」
「…もし甘露寺さんが良ければ、だけど…」
「なあに?」
「うちでサビトが使っている4つの倉庫のうち、1つはサビトにとっての不用品を放り込んである倉庫で、その中には私たちが装備できないけど他ジョブにとってはかなり価値のあるレア装備とかもあるらしいから、見に来て使えそうな物があったら持っていく?
サビトから、その中の物は友達にあげるなり売ってお金にするなり、特に許可なく私の自由にしていいって言われてるから…」
「え?いいのっ?!!嬉しいわっ!!
キャッスルエリアのおうちも見せて欲しいし、今日、伺っていいかしら?」
「もちろん。ぜひきて」
…と、そんなレジェロの話題で盛り上がっている二人を前に、とても美しい箸さばきで黙々と小さな塗りの弁当箱の中身を口に運んでいた胡蝶が、ふと箸を止めて、はぁぁ~~~と大きく息を吐き出した。
それにピタリと話を中断する二人。
「あ…しのぶちゃんはレジェロやってなかったのよね?
入れない話をしちゃってごめんなさいね」
と、慌てて謝罪する甘露寺に、
「いえ、そのあたりは別に気にしていただかなくても結構です」
と、首を横に振る胡蝶。
それなら、そのため息の理由は?と、2人してコクンと不思議そうに小首をかしげる甘露寺と義勇の顔に胡蝶は
「まったく…あなた達は…」
と、交互に視線を向ける。
「「???」」
そして何を言われているのかわかりません…と、丸わかりな様子で目を丸くしている二人に、胡蝶はゆっくりと言った。
──今…もう試験2週間前ですよ?試験勉強はどうしたんです?
…と。
「いいですか?
高等部進級時にも中間テスト後にも、何度も何度も、くどいくらい説明があったからよもや理解していないとは思いませんが、うちの学校は無条件で産屋敷学園大に進めるわけではありませんからね?
無条件に進めるのは380人中上位100人。
1年の1学期から3年の2学期までの評定の平均なので、1年だから大丈夫とは言えないんですよ?
むしろ取りやすい1年の時に評定を取れないと、挽回は難しいですからね?
2人とも大丈夫なんですか?」
そう続く胡蝶の言葉に、甘露寺は両手を頬に当てて、──ああっ!!──と小さく叫んだ。
そんな風に少し焦り気味な様子の甘露寺とは対照的に、義勇はずず~っとゆったりとお茶を飲む。
「私は大丈夫…」
「…そうですか、冨岡さん、中間の総合順位何位だったんです?
いま100位以内だとしても、ギリギリだと油断していると落ちますよ?」
「…中間は…125位だけど……」
「ぜんっぜん大丈夫じゃないじゃないですかっ!!」
バン!と箸を机にたたきつけるように置く胡蝶に、義勇はやっぱりゆったりと
「…登下校時とレジェロ内で毎日錆兎に勉強を教わってるから…。
英語の小テストもこのところずっと満点を取れるようになったし、今回サビトが家を買ってくれたのは、お高い家だとリビングで任意の画像を流せるTVがついていて、数学とか物理とか図解があった方がわかりやすい教科の説明も出来るから、という事らしいんだ」
と、昨日の話を説明した。
すると無言でふるふると震えはじめる胡蝶しのぶ。
そして、
「……す……」
「……え?」
「…私も、レジェロやりますっ!私も一緒に勉強したいですっ!!」
と、冷静な彼女にしてはかなり大きな声でそう言って立ち上がるのを、ぽか~んと見上げる義勇と甘露寺。
「姉がやってるので、今日帰宅したらすぐキャラ作ります!」
「…えっと、じゃあ私から義勇ちゃんのIDをしのぶちゃんに送るわね?
義勇ちゃん、いいかしら?」
「うん、いいけど…」
「蜜璃さん、冨岡さんを少しの間よろしく!
姉の教室に行ってあらかじめ色々聞いてきますっ!」
と、そこで留める間もなく教室を飛び出していく胡蝶。
それを見送って
「じゃあ…今日はしのぶちゃんと一緒に義勇ちゃんと錆兎さんのおうちにお邪魔するってことになるわね」
と、にこやかにそう言う甘露寺に、義勇はうんうんと頷いた。
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