清く正しいネット恋愛のすすめ_27_マイスウィートホーム

──ふむ…やはり家を買うか……

不死川との勝負が終わって、サビトの友人知人を集めたギルドまで出来て、なんだかホッと一息ついた翌日のこと、勉強のためギユウが少し早めにログインすると、いつもの待ち合わせ場所である城の裏庭ですでに待っていたサビトは、開口一番そう言った。

え?家??…レジェロ内で…だよね?

確か個人で家を購入できるシステムがあったのは攻略サイトを見て知っている。
家があれば家具もおけるし内装を変えて楽しむこともできる。
もちろん鍵をかけてプライバシーも守れるし、庭に畑を作って栽培を楽しむことだってできてしまう。

ただし、高額だ。
ものすごく高額だ。
敷地面積によって値段が違うのはリアルと一緒だが、ささやかなほど小さな家でもギユウには手が出ないほど高額で…しかも、そこはリアルと違い、ローンも組めない。

されど憧れのマイスウィートホーム!!

『本当に買うの?!』
と、ギユウはその話題に飛びついた。


『ん…。ギユウが一緒に住んでくれるなら買うかなぁ…と』
『住むっ!住みたいっ!!』

住んでくれるなら?
何をおっしゃるウサギさん。
ああ、文字通りウサギさんだ。

サビトと二人のマイスウィートホームが手に入るなら、ギユウが住まないわけはないだろう!

ギユウが即答すると、サビトは、
『あ~、じゃあ買いに行くかぁ…』
と、外へと促した。


城から出てすぐの橋の横には、街中のあちこちのエリアに飛べるワープポイントがある。

『住宅エリアに飛ぶが…どのエリアの家を見たい?』
と、その前で足をとめて見下ろしてくるサビト。

『…え?…どのエリアって……』

確か住宅エリアはキャッスル、ハイグラウンド、ミドルクラス、ダウンタウンの4つに分かれていて、前者から順に超高級住宅街、高級住宅街、一般人向け、下町である。
当然高級住宅街の方が、広い家も多いし景観も綺麗だが、高額で戸数も少ない。

『ギユウに特に希望がないなら、キャッスルエリアで構わないか?
もちろん、他のエリアが良ければそれでも全く問題ないが』

言葉に詰まるギユウに飽くまで淡々と提案してくるサビト。
ギユウにとっては家はダウンタウンですら高級品である。
自分で出せない以上、要望など口にできるはずもない。

そもそも、いくらサビトでもそんなに簡単に買えてしまうものなのか?
しかも…キャッスルエリア…?
いや…もしかしたら、ただこんなところもあるんだ、と、見物に行くだけで、実際はミドルクラスの家を買うということも……

『見に行くって…豪邸見物…に…?』
おそるおそる聞いてみると、サビトはこれにもあっさり、本当にあっさりと、
『プラス、気に入った物件があったら購入も。
もしかしてギユウは小さな可愛らしい家とかの方がいいのか?』

購入…!!!…いま確かに、購入って言ったっ!!

『広い家の方が保管しておけるアイテムの量も多いし、あとは…できれば広いリビングがあった方がいいと思ったんだが、ギユウが望む家が一番だ。
ギユウがそういうのが好きなら小さな家を買おう。
そうすると普段住まん家を管理するのも面倒だし、利便性を追求する家は金を渡してマコモに買わせて間借りするかな』

なんか…恐ろしいセリフを聞いた気がする。
…家を2軒買うとか言わなかった…??

『違ってっ!!そんな高級住宅街の家って高いんじゃないかと……
そんな所の家を買えるなら、2軒も要らないっ!!』

これは止めておかなければ誤解をされたままとんでもないことになるんじゃないかと、ギユウが慌ててサビトの腕にすがると、サビトは一瞬きょとんとギユウを見下ろして、それから思い当たったのだろう。

『ああ、そういうことか。
心配しないでも俺はナイトだから』
と、不思議な事を言う。

『ナイトなのとお金持ち…何か関係あるの?』
と、そこでギユウが聞くと、サビトはニコリと笑みを浮かべた。

『カンスト後にレアアイテムを落とすネームドモンスター狩りをするのには、絶対にタンクが必要だからな。
しかし必要数に対してタンクは圧倒的に少ないから、知り合いでも野良でもよくヘルプで呼ばれるし、そういう時は主催のジョブで必要な装備やアイテム以外はたいていロットできる。
野良で呼ばれた時などは、なんなら優先ロットやあらかじめ報酬を提示されることも少なくはないから、使いきれない程度には金が貯まるんだ』

なるほど!サビトは敢えてそこまでは口にしないが、先日のメンバーの口ぶりだと、サビトはその希少なタンクの中でも群を抜いて優秀なタンクらしいから、引っ張りだこなのだろう。

『…というわけでな、ギユウが特に希望がないようなら、キャッスルエリアの家を買わないか?
内装は好きにしてもらっていいし、なんなら置きたい家具があれば言ってくれれば木工か鍛冶か裁縫の合成でたいていの物は作れるし、合成で作れないようなドロップアイテムなら取りに行く。
庭も花を植えるなり噴水や池を置くなり畑を作って栽培するなり、なんでも好きにしてもらって構わない』

なんて夢広がる提案なのだろうか…
素晴らしい。
内装を色々楽しむなら、そりゃあ広い家、広い庭がいいに決まってる!!

ということで、めでたく意見の一致をみたところで、結局それから二人でキャッスルエリアの居住区に飛んだ。


城にほど近い最高級エリアの街並みは、当然その立地に見合った優美さである。
道には綺麗なキラキラしたタイルが敷き詰めて会って、その所々に様々な彫刻が飾ってある。

そして肝心の家だが、まだ売り出し中の土地はだだっ広い敷地が広がっているだけだが、すでに購入済みの家はそれぞれ塀や庭木なども趣向を凝らしていて、通行人の目を楽しませた。

『どのあたりがいい?好きな場所を選んでくれ』
と言われて、ギユウはあちこちを歩き回り、結局木に囲まれた高台の、少し遠くに城全体を見渡せる、とても素敵な景色の場所を選ぶ。

正直値段は考えていなかった…が、購入するのに土地の前に立っているポストについているボタンをサビトが押した時、0が数えきれないほど並んだ値段が表示されて、その時に初めて、自分がとんでもない選択をしたのだと青ざめたが、サビトは全く動じることもなく、値段のあとに、購入しますか?というメッセージと共に現れるYes/NoボタンのYesを押して、

『これで土地はよし!ギユウ、建物を選んでくれ』
と、建物の見本を選べる権限をギユウに丸投げして寄越した。


見本自体は大豪邸から丸太小屋のようなものまで、全部のエリアの建物が見られるが、エリアによって選べる建物が違う。
最高級の居住区であるキャッスルエリアでは、あまり小さな庶民的な家は選べない。

このエリアで一番安い建物でも、ミドルクラスのエリアの一番高い値段の家が5軒は買えてしまう。
ダウンタウンの家なら10件以上だ。


土地代だけでもとんでもなかったのに、さらに建物代まで…どうしよう…とギユウは思ったわけなのだが、そこでサビトから飛んでくる言葉は

「ずっと使う家だからな?本当に気に入ったものにしてくれ。
建て替えるとなると、倉庫から一度荷物を出したり、家具を移動させたりと、色々面倒だからな。
それでもお前がどうしても変えたくなったら建て替えてもいいけど…」
というもので、建て替えとなったら値段も2軒分と思ったら腹が決まった。


まるで風と共に去りぬに出てくるような白い洋館。
敷地の正門から伸びた道の側には5本の白い柱が立っていて、そちら側のオープンテラスにはテーブルやチェアがデフォルトで設置され、外でお茶を飲めるようになっている。
もちろんそれらは自分の気に入った家具に変えることも可能だ。

全体的に窓が大きく、玄関を入れば正面奥の扉の向こうが大きなリビング。
一階にはその他にキッチンとバストイレ。そのほかに倉庫用の部屋が何部屋もある。
白い螺旋階段を上がって二階に行くと、メインのベッドルームのほか、書斎や衣裳部屋、それにゲストルームが4部屋。
どの部屋にも大きなバルコニーがついていて、景色を楽しめるようになっていた。


本当におとぎ話の城そのままの家にギユウがはしゃいでいる間、サビトは宿屋の有料オプションサービスで借りていた倉庫から、購入した家の倉庫へと、せっせと私物を運びこんでいたらしい。

──ギユウ、ちょっといいか?
と、声をかけられて下に行くと、倉庫用の部屋の前に立っているサビトが開口一番言った。

『この家は倉庫が6部屋ある。
で、ギユウはまだ私物も少ないだろうし、これだけは本当にすまないが、そのうち4つは俺が使わせてもらうな?
1部屋で100種類の物が各99個まで置けるから、ギユウの私物が増えて2部屋では足りなくなったら、また考える。
で、倉庫の中についてなんだが、一号室は俺が普段行かないイベントや場所に行く時だけ使う、通常時は持ち歩かない、しかしないと不便な装備を入れている。ここのはなかなか手に入らない装備が多くて間違って売ったり捨てたりすると少しばかり困るので、すまないが鍵をかけさせてくれ。
で、二号室は普通に俺の私物だ。
使うことは使うが、まあほとんど気分で変える程度の装備だな。ギユウとはジョブが違うから共有できるものはアクセサリくらいしかないが、もし始めたばかりであまり使える装備がない友人に何か渡してやりたいとか、そんなことがあれば、一声かけてくれれば持って行ってくれて構わない。
三号室は合成素材のストックだ。
これはギユウがなにか合成をあげたくなった時などに必要なものがあれば、特に断らなくても良いからどんどん使ってくれ。
四号室は必要のない装備や調度品だ。
ヘルプの時に得たりしたナイトは装備出来ないがそこそこで売れるレア装備とかもあるから、ここの物は自由に誰かにやるなり、換金して欲しい物を買うなり好きにしてくれ。
俺は何か不用品があれば適当にここに放り込むし、ここの物は持っていくのに確認は不要だ。
以上倉庫4部屋の管理以外はこの家のことは内装から庭、調度品に至るまですべてギユウの好きにしてくれて構わない。
必要な物があったら俺に言ってくれれば揃えるし、俺がいない時に何か欲しくなったらさっきも言った通り四号室の物を適当に換金してくれ』

ぽか~ん…
ギユウは本当に反応に困ってポカ~ンとしてしまう。

生真面目で几帳面できっちり整理整頓しつつ、その一方でギユウに対しての甘やかし方がめちゃくちゃ大雑把だ。


しかしマイスウィートホーム関係の驚きはこれで終わらなかった。

『…ということで、倉庫についての説明は大丈夫だな?』
という言葉にギユウが頷くと、サビトは
『じゃあ、本題に入るな?』
と、ここでさらにギユウの脳内を混乱の嵐に突き落とす。


一緒に来てくれ…と言われて足を踏み入れたのは、サビトがこだわっていた広いリビング。
そこにはご立派な応接セットやらシャンデリアやら、キラキラしたものが目白押しだったのだが、重要なのはそれではなかったらしい。

『家が欲しかった大きな理由の一つがこれなんだが…』
とサビトが言った瞬間、壁に埋め込まれた大型TVに映し出されたのは、なんと数学のノート。

『…これって……?』

まさかレジェロで用意された画像ではないだろうと思いつつも聞いてみると、

『ああ、俺のノートの写真な』
と、言う返答が返ってくる。

『…え~っと…つまり?』
とさらに聞くと、さらに返ってきたのは

『ハイグラウンド以上のエリアの家にはPC上に保管した写真を表示できるTVがついているんだ。
試験2週間前ということもあるしな。
数学とか物理とかの説明をする時に、図解出来た方が便利だろう?』

…と言う答えで……。


さすが学年首席…。
ゲームも完全に遊びではないということか…。

『まあ別に普通にオンラインでやってもいいんだが、こうやってゲーム内でキャラ同士並んでると、一緒に勉強している感があって楽しくないか?』
と言われると全くその通りで、ギユウは思いきりうんうんと頷く。

そしてさらに続く
『家で1時間ほど一緒に勉強をして、その後、外に狩りに出かけるって面白いだろう?』
との言葉に、楽しいとは言えない試験勉強もなんだか楽しみな時間になってきてしまった。

勉強も遊びも恋愛も、すべて一緒に出来るなんて、レジェロはなんて素敵なゲームなんだろうか…
楽しく遊んで成績もあがる、万々歳だ。


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