清く正しいネット恋愛のすすめ_19_白姫の不安

錆兎と不死川の勝負で錆兎が負けたなら、サビトとギユウのパートナーシップを解消する…

サビトの口から出たその言葉に、義勇は泣きそうになった。
…というか、リアルで泣いた。


本当はそれから狩りに行くはずだったのだが、とても狩りなどできそうになかったので、帰りたいと我儘を言って、狩りを中止してもらう。


離席から戻ってログを見たのだろう。

タンジロウからは心配するメッセージがものすごい勢いで届いていたが、返事をする気にもなれない。


その後、一旦は解散したパーティーだったが、再度サビトから『まとめて説明するから入ってくれ』というメッセージと共にパーティーの誘いが送られて来た。

サビトから離別を告げられたらと思うと怖すぎて吐きそうだったが、それでも錆兎は義勇を守ると言ってくれたのである。
その言葉を信じたくてパーティに入った。


「二人とも説明があとになってすまん」
と、まず謝罪から入る錆兎に、やっぱりちゃんとした理由があったのだとホッとする。

おそらく炭治郎もホッとしていることだろうと思う。
義勇もリアルで袖口で涙をぬぐって、ずずっと鼻をすすって聞く体制に入った。


「まずな、俺は一番の優先順位はリアルで義勇が不快な思いをしたり危険な目にあったりしないようにすることだと思っている」
錆兎はまず、そう、結論から話し始めた。

「登下校は俺が送り迎えをするからいい。
だが、学校内では俺は男子科で義勇は不死川と一緒に共学科だからな。
義勇は説明を受けているとは思うが、胡蝶には当面は全面的に義勇が不快な思いをしたりしないよう、協力してくれるよう依頼済みだが、男女で体力差、腕力差があるからな。

宇髄にも声をかけてみたが、宇髄は不死川の友人でもあるし、俺だけを優先はできない。
だから不死川の事も気遣うと言う形で交流を持つなら、俺もいるし、なにより物理的に危害が及ばないネット内で。
それに協力する代わりにリアルでは義勇の許可なしでは近づかないという約束を取り付けているんだ。
だから今日は不死川が学校で義勇を追いかけまわすようなことはなかったはずだ」


ああ、そう言えば今日は不死川が追いかけまわしてきたり怒鳴りつけてきたりすることは確かになかった。

あれは胡蝶がずっとついていてくれていたからだと思っていたが、実はそういうことだったのか…と、義勇は今更ながらに知った。

そして、思う。

やっぱり錆兎は完ぺきだ。世界で一番カッコいいHSK(ハイスペック彼氏)だ…と。

義勇がそんな風にうっとりとしている間にも話は進んでいった。


「だが、ネットの方で不死川が納得できない状況が続くと、リアルで約束を守る理由がなくなるだろう?
だからネットでは条件を限りなく同じに近づける必要がある。
ということで、双方文句が出ないように第三者に評価をしてもらって勝負をするのが一番良いと思った」


なるほど。
リアルの義勇の生活を守るためだったのか…でも……

「…理由は分かったけど…でも、ネット内だけでもサビトと別れるのはいやだ…」

「俺は全力で勝ちに行くし負けるつもりはないから安心してくれ。
それでも万が一負けていったんパートナーシップを解消しても、別にまた結びなおせばいいことだし」

「へ???」

「再度結ばないとは言ってないぞ?
ただ、不死川が勝者になったなら道義的に奴にも機会は与えられるべきだし、そうだな…1週間ほどは一緒に固定パーティーで過ごしてみて、それでも義勇の気が変わらなかったら…という感じか」

「…っ!…き、気は絶対に変わらないっ!!」
「そうか…。それなら問題はないだろう?」
「…うん」

「炭治郎もそれでいいな?」

義勇が納得したところで、錆兎は今度は炭治郎にそう声をかけるが、炭治郎は少し不満げだ。

「立会人が宇髄さんということは……錆兎の古くからの友人でもあるかもしれませんけど、不死川さんといた時間の方が長いし、ちゃんと公平にしてくれるでしょうか…」
と、不安も口にする。

そんな炭治郎の不安を錆兎は笑い飛ばした。

「大丈夫!宇髄の人間性については俺は信じているが、それとは別に、奴は俺なんかとは比べ物にならないほど、人間の機微に敏い男だからな。
あきらかに不平等な評価をすれば、俺が納得しないのもわかるし、そうすれば義勇がより不死川から離れていくのも理解している。
だから、おそらく俺も不死川も納得せざるを得ない形で優劣をつけると思う」

「なるほど…確かにそうですね。
明らかな不正なら向こうの要求も堂々と拒否できますよね」

「ああ、まあそういうことだ。
しかしな、俺の口から言うのもなんだが、宇髄は万人に友好的に見えて、実は友人はすごく選んでいる。
奴が友人と認めているのは両手の指の数…いや、下手をすれば片手の指の数くらいしかいないかもしれない。

そんな宇髄が友人と認めているのだから、おそらく不死川も学ぶ機会がなくて他人に対する接し方が下手なだけで、性根は悪い奴ではないのだと思う。

宇髄から聞いた個人情報だから、お前達を信頼して話すので、他には言わないで欲しいんだが…あいつの家は父親がすこしばかり乱暴で荒れた人間で、そんな中で母親を助けて下に6人もいる弟妹の面倒をよく見る良い兄らしい。

世の中、すべての相手、すべてのことに対して善である人間もいなければ、その逆もまたなし。
関係性を良い方向に誘導できれば、おそらく頼れる良い友人になってくれると思う。

まあ、それはそれとして、まだ善悪がよくわかっていなかったとはいえ、女子に手をあげたのは頂けないし、そこはきっちりと反省して謝罪はして欲しいところだが…」

「錆兎はひとがよすぎます…不死川さんは現在進行形で善悪がわかっていないと思いますけど…」

「ん~…恋人とでも友人とでも、人間づきあいに完全に理想に沿った完成品を求めるな。
相手との関係は互いに努力し、譲り合って育てるものだ。
その経過で意見のぶつかり合いやすり合わせをしていくうちに、互いに理解が深まり、より味わいのある良い関係が出来上がっていくんだと思うぞ?」

「………不死川さんに関しては納得できませんけど……」
と、それでもそう言いつつも、炭治郎は
「…でも、さすが錆兎だとは思います。
俺もそういう考えを持って他人に接していきたいです」
と、締めくくる。


本当に…錆兎は強くて優しくて、物語の主人公、勇者のようだと常々思っていたが、こうして、まるでまだ未熟な勇者を導く師匠のようなことまで言ってくる。
同じ高校生とは思えない。

とりあえず、何かあっても錆兎は最終的に義勇が困らないようにしてくれるだろうし、それならゲーム内でくらいは不死川と一緒にいても大丈夫な気がしてきた。


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