清く正しいネット恋愛のすすめ_16_絶叫学園

「冨岡さんっ!!なに?!!なんなの?!!鱗滝君とどういう知り合いっ?!!!」


錆兎にエスコートされて学校に行くと、もう視線が痛かった。



どんなに大勢から言い寄られても、毎回丁寧に毛筆でお断りの手紙を書き続けた鱗滝がっ?!!

と、学校の最寄り駅に近づいた時点でもう男子も女子も驚きの視線を義勇達にむけている。

この瞬間、義勇はきっと、産屋敷学園高等部1有名な女子になったに違いない。


──相手誰だよ?女子科?共学科?
──あ~…やっぱり清楚系女子が好みだったんだな…。そんな気はしてた。
──大人しそうな感じ…。日本人形みたいな雰囲気だな。
──やつも面食いだったんだな。
──ああ、めちゃ可愛い。なんだか彼女といるとウサちゃん嬉しそうだ。
──彼女もすげえ嬉しそうだし、お似合いじゃね?

と、おおかた微笑まし気な視線を向けてくる男子。

相手が自分の想い人じゃない限り、美少女といても祝福されるあたり、錆兎が人気者なのがうかがえる。


一方の女子は殺気立っている。

──嘘おぉぉぉ~~!!!いやいやっ!!誰か嘘だと言ってっ!!!
──あたしの鱗滝君がああぁーー!!!
──誰っ?!あの子誰なの?!!!


と、絶叫につぐ絶叫。
注がれる視線がむちゃくちゃ痛い。
ギリギリと歯ぎしりの音が聞こえてきそうな勢いだ。

それでも錆兎の大きな身体に隠れるように歩いていると、そんな視線も届かなかったが、校門をくぐって右の女子科、左の男子科の校舎に挟まれるように立っている共学科の玄関に来ると、嫌でも様々な視線に晒された。

ここからは一人なので、色々と怖い…と思っていると、

「お待たせしました?」
と、校舎から見慣れた顔が走り出してくる。

え?胡蝶さん?
と、きょとんと首をかしげる義勇の前で、
「これ…例のブツだ。頼むな?」
と、錆兎がカバンの中から紙袋を出して、胡蝶に渡す。

その中をこっそり確認した胡蝶は
「はい。確かに。これで3位は堅いですね。
錆兎さんに追いつくことは…できるかしら」
と、ニッコリ。

それに対して
「ん~。今期の女子の体育がパワーがいる系じゃなければ、いけるんじゃないか?
筆記系に関しては、ケアレスミスはむしろ胡蝶の方が俺より少なそうだし…」
と、錆兎もにこやかに答えた。

なんの話なのだろう?と聞く間もなく、錆兎は少しかがんで義勇の耳元に顔を寄せると

「…学校内で俺が守れない間は胡蝶に頼んでおいたから…。
何かあっても間に入ってくれるし、物理的に手が出そうになったら天元に苦情を言え。
自分で言いにくかったらそれも胡蝶に頼んでいい」
と、言って、パッと離れ、

「じゃあ、また下校時な?」
と、一歩離れて手を振ってくる。

そして
「それじゃあ、大切にお預かりしておりますね」
と、それを合図に胡蝶が義勇の背に手をやり、玄関内へと促してきた。


え?え?と脳内ではてなマークが盛大に運動会をしている義勇。

そんな彼女に、はぁぁ~と盛大にため息をついた胡蝶は、
「とりあえずさっさと靴を履き替えてください。
科学部の部室で説明してさしあげますから」
と、自身はさっさと上履きに履き替える。

それに倣って義勇も靴を履き替えると、彼女は何故か教室へ向かわず、彼女が中等部の頃から所属している科学部の部室へ向かった。


まあ、座って下さい…と、勧められるまま椅子に座った義勇の正面に座る胡蝶しのぶ。

姿勢を正した状態でまっすぐ座る彼女と対峙していると、なんだか病院で医師に診察を受けているか、学校の先生と面談しているような気分になる。

「あ、あの、錆兎と胡蝶さんは……」
と、きまずさに義勇が発した言葉は、胡蝶の
「時間がないので先に説明します。
質問は後で受け付けますから、それまでは黙って聞くこと。
私語は厳禁です」
と、言うきっぱりとした言葉で遮られた。

義勇が素直にそれに従って口を閉じると、胡蝶は、よろしい、と、コホンと咳ばらいを一つしたあとに、話を始めた。


「結論から言うと、錆兎さんも言っていた通り、冨岡さんが校内に居る間の安全の確保は私がします。
なので、校内では極力私から離れないように。
不死川さんを校内で近づかせないと言う密約が錆兎さんと宇髄さんの間で出来ているそうなので、不死川さんがいつものように付きまとってくることはないとは思いますが、来るようなら私に報告をすること。
宇髄さんに正式に苦情を申し入れて対処させます。
…と、こちらはあらかじめ体制が整っているので、たいしたことは起こらないと思いますけどね。

むしろ問題は女子生徒の方ですね。
こちらは錆兎さん自身が全く無自覚でノータッチなので。
義勇さんは気づいていると思いますけど、錆兎さん、女子にとっても人気の殿方です。
なので、彼といると妬んでくる子も少なくないと思います。
頂くものを先払いして頂いているからには、そちらの対応もきちんとさせて頂くつもりですから、何か嫌な事をされた時には私にきちんと報告してください。
以上、ご質問は?」

キビキビと説明をする胡蝶に圧倒される義勇だが、どうしても気になって、…質問…と、恐る恐る手をあげた。

「…何故錆兎は胡蝶さんにそれを…?二人は知り合い?
…あと…報酬って……」

「説明の都合上、順不同になりますけどお答えしますね。
錆兎さんと私は幼稚舎の頃の同級生です。
当時はあの方も共学科でしたので。

何故彼が私に依頼したかと言うと、義勇さんと同性で常に傍にいることが可能な事、学級委員なこともあり、それが出来る能力があると評価され、また、人間性を信頼していただいているからだと思います。

報酬…は、これはまあ個人的な事なのですが…隠すことでもないので、良いでしょう。
今度の試験範囲の全教科の錆兎さんのノートと、それを含めて、学習に使っているもの一式ですね。

おそらく、そう言うと私はノートを取っていないのかと質問される気がいたしますが、私も自分なりにとってはいます。
ですが、常に主席をキープされる方のノートというのは、単に板書の写しだけではなく、先生の口頭での説明の中から必要なものを取捨して、重要な事項は強調、不要なものは板書の物でも省くと言った、とても効率的な資料になっているので。
錆兎さんの場合、学校で作成したノートを復習もかねてPCで綺麗に清書、加工していらっしゃるので、下手な解説本よりもわかりやすいのですよ。

宇髄さんが大して勉強もせずに常に50位以内の成績が取れているのは、地頭の良さもありますが、毎回錆兎さんのノートをまわしてもらっているためで、以前チラリと見せて頂いた時に、羨ましく思っていたのです。
私もどうしても順位をあと1番あげて、ベスト3に入りたいので」

必死です、と言う胡蝶。

いや…別に20位以上なら最上層で、20位でも1位でも待遇は変わらないのでは…と、義勇は思うのだが、胡蝶いわく、自尊心の問題らしい。

まあ、雲の上の順位の方々のことはそれ以上気にしても仕方がないだろう…と、義勇は割り切り、胡蝶も、

「まあ、私のことはここでは関係ないので別に気にしなくても良いです」
と、切り上げる。

他に質問は?とそこでさらに聞かれて、義勇は最後に一つだけ気になっていた事を口にする。

「…錆兎は…本当に完璧で、好きだと言う女子がたくさんいるのもよくわかる。
…胡蝶さんは…違うの?」

「確かに…錆兎さんは良い人だと思いますが、私はダメ人間になりたくないので、絶対に彼女にはなりたくないです」

え???
胡蝶の口から出てきた言葉に義勇はぽかんと口を開けて呆けた。


「ああ、誤解しないでくださいね。
冨岡さんのようにボ~ッとした…あ、失礼、おっとりとした方にはお似合いだと思いますよ。
あの方は何というか…なまじ自分にとって必要な分をはるかに超えてなんでも出来てしまうので、他人の分もやってしまうんですよね。
彼女なんてその一番の対象になるじゃないですか。
私は自分の足で立っていたい人間なので、先回りして全てをやってしまわれるのはごめんこうむりたいですね。
楽で安全安心、心地よいかもしれませんが、自分だけで立てないダメ人間になる…いわゆるあれですよ、今流行りの人をダメにするクッション、みたいな人です、あの人は」


人をダメにするクッション……

言い得て妙で、なんだか笑ってしまう。


だが、胡蝶がそういう意味で錆兎に興味がないと知って安堵した。

だって、頭が良くて美人でしっかり者…と、男版錆兎のような優れ者の胡蝶が錆兎が好きだと言ったら、もう敵う気がしない。


そうこうしているうちに鳴る予鈴。

それに、急ぎましょう!と、立ち上がる胡蝶に頷いて、義勇も一緒に慌てて教室へと駆け込んだ。




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