清く正しいネット恋愛のすすめ_15_通学時の高校生カップルの話

翌朝…錆兎は義勇の最寄り駅の改札で待っていてくれた。
そして、義勇が来ると当然のように持たれるカバン。
促されるまま昨日と同様に腕に手をかけると、歩きやすいように誘導される。

階段に来ると、背の高い錆兎が義勇を少し見下ろすように視線を向け、
「階段だから気を付けてな?」
と、当然のようにかけられる声。

あまりに細やかに気を使われるので、
「上るのがつらいって言ったら、抱き上げてのぼってくれそうな勢いだね」
と、それは冗談で言ったら、
「そうして欲しいならそうするから、言ってくれ」
と、真顔で返されて心底ビビった。

「…冗談…だけど…」
「ああ、そうだろうとは思うが…俺は別に構わないが義勇が悪目立ちして嫌だろうと思うし。
だが、すまんな。
俺は周りには1歳上の従姉妹が一人いるきりで本当に女性がいないから、慣れていないし、悪気はないんだが気が利かん。
だから、それが女子の間の常識でも義勇の願望でもいい。
何かして欲しいこと、して欲しくないことがあったら、遠慮なく言ってくれ」

そう言う錆兎の言葉に、思わず大声で『ダウトっ!!!』と言いたくなった。

義勇の人生の中でここまで義勇に対して至れり尽くせりだった相手は、男女に関わらずいたことがない。
小さい頃から義勇に甘くて義勇のことを知り尽くしている蔦子姉さんですら、ここまでではないんじゃないだろうか…。

「そんな心配をしなくても、私の人生の中でぶたれたり怒鳴られたりと嫌な方向を網羅する男子は居ても、ここまで至れり尽くせりだった人はいなかったから」
と苦笑すると、優しい笑みを浮かべて見下ろしていた錆兎の視線が、どこか痛まし気な色を帯びた。

そして…
「これからは今までの嫌な経験を埋め尽くす勢いで大切にするつもりだから、覚悟してくれ」
と、綺麗な藤色の瞳が義勇の目を覗き込んでくる。

凛々しく整った顔のイケメンの笑顔を間近に見る破壊力ときたら、あやうく悲鳴をあげるところだった。

その寸でで錆兎は再び前を見て階段を上がり始めたので、義勇はなんとかそれを飲み込んだのだが…

はあ…錆兎がカッコよすぎて、心臓に悪い……




学校までは混む方角とは反対方向のすいている電車で40分。
義勇を当然のように座らせて、錆兎はその前に立った。

「錆兎は座らないの?」
と、当然聞く義勇に、錆兎は
「ああ、何か不測の事態が起こった時に、立っていたほうが敏速に対応できるから」
と、まるで危険地帯にいるような発言をするので、それを指摘すると
「守るべき相手といる時は、当然の心構えだ」
と言う。

前世は軍人かボディーガードでもやっていたのだろうか…とは思うものの、不快ではないので黙っていると、少しの間のあと、──それに…──と、続いた。

「正面に立っている方が義勇のことがよく見えるから…
せっかく一緒にいるのだからお前の顔がみたい…」

………
………
………

ものすごいイケボで言われて、ときめくあまり悶絶死するかと思った。
これ…学校に着くまで果たして自分は生きていられるのだろうか…と、義勇は本気で心配になってくる。


こうして向き合って過ごす電車内。

「…共学科も英語Iの授業のたびに単語テストがあるのか?」
と、実に清く正しい高校生的な話題を振ってきたのは錆兎の方だった。

「…うん。ある。英語Iの授業数分、週に4回。毎回40単語分から計10問出題。
今日もあるけど…」
「Step29、30あたりか?」
「うん、そう。だけど、しょっちゅうあるから覚えきれなくて…」


そんな話題で、ああ、もう期末テスト2週間前だな、と、一気に現実に戻る。

産屋敷学園は全体的には学力が低い方ではない。
その中で義勇は中間テストは学年順位が、男子科、女子科、共学科合わせて360人中125位だったから中の上くらいか…

産屋敷学園は上に難関といわれる大学があって、しかし難関大学なだけに全員が無条件に進めるわけではない。

上位20名は無条件に進める上に、他大学を受けて落ちても、産屋敷学園大に入れる。

もっともこの層がわざわざ受けるのは旧帝大くらいで、しかもすべての学部のキャンパスが23区内にあり、学部も特殊なもの以外はほぼ網羅、学習環境や設備も整っているため、受かってもそのまま産屋敷学園大学に進む学生も多い。

さらに上位100名までは無条件に産屋敷学園大学に進めるが、こちらは外部受験をすれば内部進学の資格は失う。

そのあと上位240位までは内部で進学試験を受け、6割を取れれば上に進める。

…そして最後に、360人中120人、下位3分の1は優遇措置を得られないという、厳しい高校なのだ。


単純計算で考えると、それぞれの科が1クラス40人で3クラスずつ、計9クラスなので、一番上の20名は平均するとだいたい1クラスに2名強。
噂によると、義勇のクラスの胡蝶しのぶはこれに入っていると言われている。

次に上位100名。最上位の20名を省くと80名。一クラス約9名。
義勇は現在125位なので、できればあと26位順位をあげてこの層に入りたい。

そして次は上位240名。上の層を省くと140名。一クラス約15,6名
この層がいわゆる中間層で、人数も一番多い。

最後に残り360位まで120名。一クラス約12,3名と言った感じだ。

もちろんクラスの在席人数は平均してなので、最上位層が4人5人いる組もあれば1人もいない組もある。

特に男子科は最上位層が多いらしい。
だが、その分最下層も多いようだとの噂だ。
女子科は最上位層が少ない代わりに最下層も非常に少なく、共学科はその中間。

男子、女子、共学という性別による区分け以外に、そのあたりの学力差を重視して科を選ぶ学生も少なくはない。


「英語は英語Iも英語基礎も平常点が100点、テストの点が100点の計200点満点だから平常点になる単語テストは取っておきたいところなんだけど、ほぼ毎日くらいあるとなかなか…」
と、ため息をつく義勇に

「義勇、中学の時の英語の評価は?あと中間テストの点数。
高校の中間テストの順位は上に行けそうなあたりか?」
と、矢継ぎ早に聞いてくる錆兎。

正直…義勇は女子には珍しく、暗記の多い文系があまり得意ではない。
計算式や公式を駆使して考える理系は好きなのだが、ただただ覚えるという作業になると、色々余計なことを考え始めてしまって、なかなか先に進まなくなるのだ。

なので、単語や熟語を覚えなければならない英語はなかなか鬼門だ。
中等部の頃も理数は5なのに英語はかろうじて3だった。

成績が良いという噂の錆兎に自分の成績を知られて呆れられるのは辛い。
なので、なかなか言い出せないでいると、錆兎がポケットから何かを出して義勇の手に握らせた。

「…単語…帳?」
銀色のわっかにきちんとワープロ打ちされた発音記号の印刷されたカード。
一枚めくって裏を見ると、綴りと意味がやはり印刷されている。

「義勇が英語が得意で自分の方法で十分な点数が取れているなら、余計なお世話で申し訳ないが、俺がいつも週末に作って毎回のテストで使用している単語帳だ。
これなら机に向かってとか言う時間が取れない時でも、それこそ電車の中でも覚えられるからな。
義勇が産屋敷学園大に行くなら一緒に行きたいし、行きたいと思っていて少し成績が伸びないなどがあれば、共に勉強することで補助できればと思って、昨日義勇の分も印刷してカッティングしてきたんだ」


なんて…なんて完璧な彼氏なんだ…と、義勇は感動のあまり言葉を失った。
成績が悪いから馬鹿にするなんて、錆兎に限ってあるわけがなかった。


「…あの…ね、あと26番順位をあげたいんだ。今、125位だから…。
暗記はすごく苦手で、理数とかは5なんだけど、英語は3で…そのあたりをもう少しあげられれば…」
と、恥を忍んで告白すると、
「じゃあ、一緒に勉強すればいいな」
と、笑みを向けてくれる。

「…錆兎の勉強の邪魔…じゃ、ない?」

「いや?俺も最終確認が出来るし、ちょうどいい。
明日、これまでの全部の単語帳と、記述の練習が出来る最終確認用のシートを持ってくるから、レジェロで狩りを30分早く終わらせることにして、毎日レジェロのボイス機能を使って俺が発音記号から読み上げるから義勇は単語帳で意味と綴りをチェックしながら覚えることにしないか?」

いける…錆兎のイケボで発音してもらった単語なら、余計なことなど考えてしまうはずがない。
もう言われたこと以外、頭に入らない。
むしろ後からそれが脳内リピートすること確実だ。

ああ…幸せ……と、うっとりする義勇。

「あ…でも…ちなみに……」
「……?」
「…錆兎は不得意教科とかないの?…成績あげたいとか……」

義勇は口下手教え下手なので、あると言われても役に立つかはわからないが、聞かれたことくらいは答えられるかも…と思って聞いたのだが、錆兎に苦笑される。

「……?」
「あ~…うん、一応中等部の成績はオール5だった。
中間は…現国の長文問題の記述を答える時に、ついうっかり同音異義語の漢字を間違って使って2点引かれたのと、数学で答えに単位つけ忘れて3点引かれた以外は満点だったから…」

………
………
………

「…現国……98点…?」
「…ああ」

「…数学……97点…?」
「…ああ」

「…他は…100…点…?」
「…ああ」

「…ぜん…ぶ…?!」
「……ああ、そうなるな…」

「もしかして、校内順位はっ!!」
「…1番だ」

うあああ~~!!!!!

びっくりしたっ!今世紀一番のびっくりだ。

そりゃあ順位と言うのは一番からビリまであるのが当然だから、校内順位が1番という人間が必ずいるのは確かである。

しかしそれが目の前にいるというインパクトはすごい。


「…た…足して2で割れば、2人で余裕で大学行けるね…」
と、動揺のあまり口走れば、錆兎の目が一瞬丸くなって、次の瞬間、

「それ、いいな。出来るなら必要な分の点数やるんだけどな」
と、吹き出された。

とてもとても楽しそうに笑う錆兎。


そして最終的に…

「まあ、俺がそれで高成績を取れている方法で一緒にやれば、義勇の成績もあげられるんじゃないか?
さしあたっては…今日の単語テストだな。
今から駅に着くまで頑張るか…」

と、自分も自分用の単語帳を取り出して、

「じゃあ、表面の発音記号、裏面の綴り、意味の順で読み上げるからな」
と、実に美しい発音で単語を読み上げ始めた。


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2 件のコメント :

  1. 進路相談も永久就職ももう全てお任せしてOKなスパダリめ♡ヽ(^。^*)ノ義勇ちゃんの心臓が日々鍛えられていく(* ̄▽ ̄)フフフッ♪さねみん…頑張れ(無駄だけど)

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    1. 今回はにょただから、本当に永久就職できちゃうしねっ😁
      義勇ちゃんの心臓は強化されたはしから、またときめきパワーも強化されて、ずっとピンチが続くのですよ😉

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