と、使用人に運ばせた服を楽し気に広げるマリア。
それはどれも上等な絹で出来ていて申し分ないものだった。
ただ一つ…女性用であることを除いては。
マリアの側はリー家の総帥として蓄えた様々な知識と経験を、そして錆兎の側は彼女が航海や船について実地で学ぶ場所を互いに提供するということで話が決まったところで、さっそくマリアの方から提供された情報というのは、まさに錆兎があの卜部の本家の襲撃事件からずっと求め続けていたものだった。
「世界の各地域に散る覇者の証。
それを手にするために必要な鍵が証一つに対して2つずつあるの。
あなた達が手にしている金銅の布銭、それがその鍵を手にするための道具の一つらしいのよ。
その価値も意味もわからず、ただの好事家の骨董品収集のためと騙されて、一族の全てを自分の手に渡してもらうことを条件に卜部を売ったのは卜部宗九郎。
そしてそれを持ちかけたのがソウジン・クルシマ。
そう、私たちはソウジン・クルシマを潰すために調べているうちに、偶然あなたの知りたいであろう情報も得たというわけ」
──その覇者の証というものはそもそもなんなんだ?
と聞きたいところだったのだが、それよりなにより隣で呆然と固まっている義勇の方が気になって、錆兎は
──…大丈夫か?
と、義勇の隣に膝をついて視線を合わせた。
そんな錆兎に義勇は目に涙をいっぱい浮かべて
──大丈夫じゃない…優しい叔父さんだったんだ…宗九郎叔父さん…あの人が…そんな…
と、首を横に振ってしゃくりをあげ始める。
錆兎は宗九郎という人物はあまり記憶になかったが、それでも四天王の家でそんな風に一族を裏切るものが出たというのはなかなかに衝撃的なものだった。
ただ一つ…女性用であることを除いては。
マリアの側はリー家の総帥として蓄えた様々な知識と経験を、そして錆兎の側は彼女が航海や船について実地で学ぶ場所を互いに提供するということで話が決まったところで、さっそくマリアの方から提供された情報というのは、まさに錆兎があの卜部の本家の襲撃事件からずっと求め続けていたものだった。
「世界の各地域に散る覇者の証。
それを手にするために必要な鍵が証一つに対して2つずつあるの。
あなた達が手にしている金銅の布銭、それがその鍵を手にするための道具の一つらしいのよ。
その価値も意味もわからず、ただの好事家の骨董品収集のためと騙されて、一族の全てを自分の手に渡してもらうことを条件に卜部を売ったのは卜部宗九郎。
そしてそれを持ちかけたのがソウジン・クルシマ。
そう、私たちはソウジン・クルシマを潰すために調べているうちに、偶然あなたの知りたいであろう情報も得たというわけ」
──その覇者の証というものはそもそもなんなんだ?
と聞きたいところだったのだが、それよりなにより隣で呆然と固まっている義勇の方が気になって、錆兎は
──…大丈夫か?
と、義勇の隣に膝をついて視線を合わせた。
そんな錆兎に義勇は目に涙をいっぱい浮かべて
──大丈夫じゃない…優しい叔父さんだったんだ…宗九郎叔父さん…あの人が…そんな…
と、首を横に振ってしゃくりをあげ始める。
錆兎は宗九郎という人物はあまり記憶になかったが、それでも四天王の家でそんな風に一族を裏切るものが出たというのはなかなかに衝撃的なものだった。
さて、とりあえずどうするか…。
まず何をすべきなのか。
普通に考えれば筆頭の渡辺本家の長である自分の父親に報告すべきなのだが、どこまでをどう説明をすべきだろうか…
渡辺をはじめとする残り3家が卜部の裏切者を潰すのは簡単だが、それがクルシマに漏れた時に、こちらが情報を得られているということを相手に知らしめることになる。
それはあまり上策とは言えない。
敵に与える情報は極力少なくするべきだ。
錆兎がそんなことをグルグルと考えていると、マリアが
「そうね、敵に知られる情報は少ない方がいいわね」
と、まるで錆兎の脳内を読み取ったようにそう言ってニコリと笑みを浮かべる。
まず何をすべきなのか。
普通に考えれば筆頭の渡辺本家の長である自分の父親に報告すべきなのだが、どこまでをどう説明をすべきだろうか…
渡辺をはじめとする残り3家が卜部の裏切者を潰すのは簡単だが、それがクルシマに漏れた時に、こちらが情報を得られているということを相手に知らしめることになる。
それはあまり上策とは言えない。
敵に与える情報は極力少なくするべきだ。
錆兎がそんなことをグルグルと考えていると、マリアが
「そうね、敵に知られる情報は少ない方がいいわね」
と、まるで錆兎の脳内を読み取ったようにそう言ってニコリと笑みを浮かべる。
「とりあえずすべての情報を得てから対処は考えればいいわ。
まだいくらか話すことはあるの」
まだいくらか話すことはあるの」
と、その後そう言われて、錆兎は視線をマリアに移した。
錆兎はそういう人間を前にするのも何回もの転生の間で数多くあって慣れていたので、それに臆したりすることはなかったが、圧倒的に上に立つ者のオーラを持った人物がこんな美しい女性だというのは珍しいとは思う。
自身の持つ情報を伝えてくれるマリアを前にすると、知らない知識を教わる生徒か、指示を待つ部下のような気がしてきてしまうのだ。
そんな錆兎のわずかに居住まいを正す様子に、マリアはクスリと笑みを浮かべる。
錆兎はそういう人間を前にするのも何回もの転生の間で数多くあって慣れていたので、それに臆したりすることはなかったが、圧倒的に上に立つ者のオーラを持った人物がこんな美しい女性だというのは珍しいとは思う。
自身の持つ情報を伝えてくれるマリアを前にすると、知らない知識を教わる生徒か、指示を待つ部下のような気がしてきてしまうのだ。
そんな錆兎のわずかに居住まいを正す様子に、マリアはクスリと笑みを浮かべる。
「とてつもない能力を持っているのはわかるけど、同時に良い家でまっすぐに大切に育てられた若様だという感じがする。
だから無駄な警戒心を抱かせない。
ああ、本当にあなたのような弟がいたら、私の人生は楽しいものになっていたわね。
まあ、とりあえずは当分は私たちの関係はそれに近いものになると思うわ。
だから無駄な警戒心を抱かせない。
ああ、本当にあなたのような弟がいたら、私の人生は楽しいものになっていたわね。
まあ、とりあえずは当分は私たちの関係はそれに近いものになると思うわ。
あなたを取り巻く雑事雑音、暗い部分は私が引き受ける代わりに、あなたは極力御旗となって行く先々で協力者を増やす。
あなたにとっては誰かに負担をかぶせるようで不本意かもしれないけどね、私は楽しいから気にしないで頂戴」
そのマリアの言葉は事実で、マリアに嫌なことを押し付けて自分がいいとこどりをするのは非常に卑怯で男らしくない気がして嫌だったが、マリアがとても楽しげなのと、実際目的を果たすためには綺麗ごとだけではやっていけないということは錆兎も長い人生の中で思い知っていたこともあって、
「申し訳ないが、頼む。
リー家の総帥としての知略や経験はとても頼りにしている」
と、頭を下げた。
こうして互いの立ち位置をまず確認したところで、マリアが話を進める。
「まずあなたが知りたいのは覇者の証についてだと思うんだけど、これは世界中に散っていて7つ集めないと正確なところを知ることはできないということもあって、私にもわからない。
ただ、噂によるととても大きな力を得ることができるということで、秘かにこれを集めようとしている勢力がいくつか存在しているということは聞いているわ。
クルシマに関して言うなら、彼はそこまで視野も広くないし情報収集能力があるわけでもなく、卜部宗九郎と一緒で、東アジアの支配権を約束されてどこかの勢力の依頼で東アジアの覇者の証を集めているに過ぎないようね。
それで肝心の証を手にする鍵なのだけれど…2つ揃ったところで資格のある者でなければ扉を開けられないと言われているの。
で、その資格のある者に証の鍵につながる物が伝えられているという事だから…」
「つまりは、義勇が資格のある者ということか?」
それは義勇の安全上あまり好ましいことではない…とややうんざりしつつ錆兎はマリアの言葉を遮って聞くが、返ってきた答えは
──そうかもしれない…だけど、そうではないかもしれないわね
というもので、意味を取りかねて錆兎が眉を少し寄せると、マリアは綺麗な白い手を伸ばしてその指先で錆兎の眉間のしわをグリグリと伸ばした。
「あなたはいつも自信に満ちた笑顔でいてね?
知らないけど知らなければならないことは私が調べ上げて見せるし、わからないことも私が答えを見つけて見せるから。
それで…この件については、確定ではないけれど、たぶん4家の筆頭だったあなたの家の直系の跡取り、つまりあなたじゃないかと思っているの。
証が特別な力だとすると、その資格者の卜部があるじでもなく筆頭でもないというのは不自然でしょう?
鍵と資格者両方が揃って初めて証を手にすることが出来るということだから、敢えて証を奪取されたりしないよう、資格者以外の家に預けたんじゃないかしら。
ということで、可能性があるのは卜部よりも上にいる、4家の筆頭の渡辺家かそのあるじの源家。
でももし源家が資格者だったとしたら、自分の所以外に証を預けるとしたら、真っ先に名があがるのは筆頭の渡辺家よね。
ということは…渡辺家が元々は証の鍵と資格者の存在する家で、卜部は常に渡辺の後ろに位置する家だからそちらに証の鍵を預けていて、特別な能力のある渡辺家を源家がひっぱったというのが可能性として一番高いんじゃないかしら。
あなたにとっては誰かに負担をかぶせるようで不本意かもしれないけどね、私は楽しいから気にしないで頂戴」
そのマリアの言葉は事実で、マリアに嫌なことを押し付けて自分がいいとこどりをするのは非常に卑怯で男らしくない気がして嫌だったが、マリアがとても楽しげなのと、実際目的を果たすためには綺麗ごとだけではやっていけないということは錆兎も長い人生の中で思い知っていたこともあって、
「申し訳ないが、頼む。
リー家の総帥としての知略や経験はとても頼りにしている」
と、頭を下げた。
こうして互いの立ち位置をまず確認したところで、マリアが話を進める。
「まずあなたが知りたいのは覇者の証についてだと思うんだけど、これは世界中に散っていて7つ集めないと正確なところを知ることはできないということもあって、私にもわからない。
ただ、噂によるととても大きな力を得ることができるということで、秘かにこれを集めようとしている勢力がいくつか存在しているということは聞いているわ。
クルシマに関して言うなら、彼はそこまで視野も広くないし情報収集能力があるわけでもなく、卜部宗九郎と一緒で、東アジアの支配権を約束されてどこかの勢力の依頼で東アジアの覇者の証を集めているに過ぎないようね。
それで肝心の証を手にする鍵なのだけれど…2つ揃ったところで資格のある者でなければ扉を開けられないと言われているの。
で、その資格のある者に証の鍵につながる物が伝えられているという事だから…」
「つまりは、義勇が資格のある者ということか?」
それは義勇の安全上あまり好ましいことではない…とややうんざりしつつ錆兎はマリアの言葉を遮って聞くが、返ってきた答えは
──そうかもしれない…だけど、そうではないかもしれないわね
というもので、意味を取りかねて錆兎が眉を少し寄せると、マリアは綺麗な白い手を伸ばしてその指先で錆兎の眉間のしわをグリグリと伸ばした。
「あなたはいつも自信に満ちた笑顔でいてね?
知らないけど知らなければならないことは私が調べ上げて見せるし、わからないことも私が答えを見つけて見せるから。
それで…この件については、確定ではないけれど、たぶん4家の筆頭だったあなたの家の直系の跡取り、つまりあなたじゃないかと思っているの。
証が特別な力だとすると、その資格者の卜部があるじでもなく筆頭でもないというのは不自然でしょう?
鍵と資格者両方が揃って初めて証を手にすることが出来るということだから、敢えて証を奪取されたりしないよう、資格者以外の家に預けたんじゃないかしら。
ということで、可能性があるのは卜部よりも上にいる、4家の筆頭の渡辺家かそのあるじの源家。
でももし源家が資格者だったとしたら、自分の所以外に証を預けるとしたら、真っ先に名があがるのは筆頭の渡辺家よね。
ということは…渡辺家が元々は証の鍵と資格者の存在する家で、卜部は常に渡辺の後ろに位置する家だからそちらに証の鍵を預けていて、特別な能力のある渡辺家を源家がひっぱったというのが可能性として一番高いんじゃないかしら。
もちろん卜部がたまたまそういう家だったという可能性も0ではないから引き続き義勇の身辺も警戒したほうがいいかもしれないけど…」
「俺が義勇が持ってきた金銅の布銭を持って家を離れる時に父が何も言わなかったのは、卜部と同様、万が一内通者がいた場合を想定していたからで、俺なら自力でそこにたどり着くと思っていたのだと思う。
もし渡辺の直系が資格者だったら、俺は遅かれ早かれ狙われるだろうが、それはいい。
跳ね返せる。だが……」
「俺が義勇が持ってきた金銅の布銭を持って家を離れる時に父が何も言わなかったのは、卜部と同様、万が一内通者がいた場合を想定していたからで、俺なら自力でそこにたどり着くと思っていたのだと思う。
もし渡辺の直系が資格者だったら、俺は遅かれ早かれ狙われるだろうが、それはいい。
跳ね返せる。だが……」
「義勇は前に立つ者ではないから危険だし生存を極力知られたくない。
…が、傍にいれば目立つ…かと言って、傍から放すのは心配だ…でしょう?」
と、マリアが相変わらずクスクスと笑いながら言う。
何もかもお見通しというわけだ。
…が、傍にいれば目立つ…かと言って、傍から放すのは心配だ…でしょう?」
と、マリアが相変わらずクスクスと笑いながら言う。
何もかもお見通しというわけだ。
はぁ…とため息をつきながらくしゃりと宍色の前髪を掴む錆兎にマリアは
「大丈夫、任せて?」
と、言うと、使用人を呼んで何かを命じた。
そうして綺麗な絹の服を大量に運ばせてデスクに広げた上で、前述のように言ったのである。
──義勇は私が預けた異母妹ということにしましょう
…と。
「大丈夫、任せて?」
と、言うと、使用人を呼んで何かを命じた。
そうして綺麗な絹の服を大量に運ばせてデスクに広げた上で、前述のように言ったのである。
──義勇は私が預けた異母妹ということにしましょう
…と。
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