清く正しいネット恋愛のすすめ_5_協力者

ピッポコ、ピッポコ、ボンボコリン♪

そうして到着したキノコの森、マジックフォレストは、まあるいキノコが明るい音楽に合わせて踊っているような可愛らしい場所である。


…うわあっ…可愛いなぁ…

と、自分の方がよほど可愛い義勇のキャラ、白姫のギユウ。


ゲームの中とは言え、こんな可愛いギユウとデートとは、自キャラながらタンジロウが羨ましい。
自分も義勇と二人きりで出かけてみたい。

まあ、その前に悪の魔王を撃退しなければならないのだが…



さて、今日はもう作りたてなのでギユウのデスペナが怖くないうちに、ギユウが行きたい所に片っ端から連れて行っても良いのだが、そのあとはどうしようか…。

レベル上げに付き合うのは良いのだが、このゲームは4人パーティなので、不死川達に見つかれば、パーティにいれろと言われる可能性が高い。

ゲーム内ではもちろん炭治郎がきっぱりと断るつもりだが、義勇がキャラを作って遊び始めたという事が確定となれば、学校内でしつこく言い寄られる可能性がある。
それは避けたい。

本当は固定パーティーが組めればいいのだが、炭治郎が知っている限りでこのゲームをやっている甘露寺は、常に彼氏の伊黒と二人パーティで、彼女は良くても伊黒の方は二人きりの時間を邪魔されるのを非常に嫌うので、無理に誘ってもきっと義勇が気まずい思いをする。

炭治郎の小等部の頃の友人の善逸もこのゲームをやっていると聞いているが、彼は不死川の友人の宇髄と仲がいい。

どうやら今回のことは不死川に頼まれた宇髄の提案らしいので、あちら側の宇髄と仲が良い善逸に頼むと、善逸に板挟みで大変な思いをさせてしまうだろう。



他に頼めそうな相手は……

と、炭治郎が考えていると、少し離れたあたりから、──デュウ!──と、キノコの泣き声がした。

どうやらギユウが奥に入りすぎたらしく、キノコに気づかれたようだ。



──ギユウさん、下がってっ!!

と、剣を抜いて駆け出すタンジロウ。

なんとかギユウを森の入口まで逃がそうとするが、1匹を叩いているうちに他のキノコたちがギユウの方に…


死に戻り上等と言うことで互いに納得して来たわけだが、やはり好きな相手のキャラを守れないと思うと不甲斐なくて、炭治郎はリアルでコントローラのボタンを操作しながら目を潤ませた。

その時だった。


──タンジロウ!俺をPTに入れろっ!!

と、いきなりsayで叫んだのは、リアルでよく知る人物に似た宍色の髪のキャラ。

反射的にパーティの誘いを送りつつ、キャラ名をみれば、やはり思った通り”サビト”の文字。

そう、炭治郎が最強を目指して男子科に追いかけていった、同じ道場の先輩剣士だ。


この状況で自らの身を盾にして仲間を守るタンクジョブで颯爽と現れるなんて、もう心憎いほどの完璧さ。

どこまで主人公気質なんだ!と叫びたくなる。


そのままサビトは周りの敵に、ヘイトをあげて自分に攻撃を向けるタンク用のアビリティ、【挑発】を入れて、ギユウの方へ向かう敵を次々と自分の方へと向けている。

その安心安定の頼もしさに、炭治郎はほぉっと肩の力を抜いた。


そんな間にも誘いを受けてパーティーに入ってきたサビトは【挑発】だけではなく、パーティーメンバーの身代わりになって敵の攻撃を自分が受けるタンクのアビリティ【守る】まで使って、しっかり義勇を守っている。


そうして敵を全て倒し終わると、

「ありがとうございました…。助かりました」
と、礼を言う義勇に

「いや、無事で良かった。じゃあっ!」
と、即立ち去ろうとする彼。

それを、
「待ったっ!!サビト、待ったーー!!!」
と、炭治郎は慌てて引き留めた。



「ああ、タンジロウ。お前もこのゲームしてたんだな。で?なんだ?」

振り返る宍色の頭。
リアルでのトレードマークともいえる唇の端から右頬にかけて残る大きな傷痕はゲーム内のキャラでも健在だ。

リアルの錆兎もそれがなければ随分と整った顔立ちの、いわゆるイケメンだが、その傷は実は幼い頃、錆兎がたまたま商店街の道で竈門兄妹の傍にいた時に、地震で取れた飾りが降り注いできたものから炭治郎の妹をかばって出来た傷だ。

当時はそれはそれは大騒ぎだったらしい。

頬をざっくりとやって、大きな痕が残るとわかった時に、炭治郎の両親は青ざめて土下座して謝罪をしたが、錆兎本人もその保護者も、これは女の子に傷が出来るのを防げた勲章のようなものだから、そんなに気にしないでくれと笑みを向けてくれたと言う。

そして、当時まだまだ裕福とは言えなかった竈門家ではあるが、治療費と共に可能な限り慰謝料をと申し出たが、それも断られた。

男としての誇りを持って取った行動なのだから、金をもらうようなことではない。
もしどうしてもということなら、それは怖い思いをした竈門家の娘さんを癒すのに使ってあげて欲しいとのこと。

なので、最低限の治療費以外のすべてを固辞され、しかしそれからも普通に何事もなかったようにパン屋にパンを買いに来てくれた。


その後、錆兎は傷痕のせいで色々嫌な目にあったこともあったらしいが、一度としてそれを炭治郎の家族の前で口にしたことはない。

むしろ炭治郎が何か言われたのでは?と気にして口にすると、錆兎は笑って

「心配してくれてありがとうな。でも俺は全然平気だぞ。
それより、俺の傷はもう痛みも何もないが、傷に関することを口にすれば、お前の妹の心が痛い思いをすることになる。
幸いにして幼い頃で覚えもないようだから、蒸し返して傷つけるようなことをしてくれるな。
自分より弱く幼い存在を傷つけさせずに済んだのは、俺のなによりの誇りなのだからな」
と、頭を撫でてくれた。


錆兎はもう、傷があったってそれを含めてカッコいい顔だと思うが、容姿よりなにより中身がイケメンだと思う。
彼は本当に、炭治郎が考える世界で一番の男の中の男で、炭治郎の理想で目標だ。

そんな錆兎がゲームをするにあたって、他人を守るタンクを選んだのは至極納得できた。
彼にぴったりのジョブだ。

そして…守りたい相手がいる炭治郎にとって、彼ほど頼りになる人物は他にいない。


「サビト、頼みがあるんだが、いいだろうか…」
と、声をかけると、彼は

「ああ、構わんぞ。
そちらの白魔導士は良いのか?
それとも、彼女のイベントか何かでタンクが必要なのか?」

と、内容を聞くこともなく、即了承してくれる。


何も聞かずに了承…それは炭治郎は良識に反するようなことを頼んできたりはしない…そんな風に信頼してくれているからだろう。

長男で自分が無条件に頼れる相手のがいない炭治郎にとっては、錆兎とのそんな信頼関係がとても心地いい。

兄がいたならこんな感じだったのだろうと思う。


炭治郎としては全てを話してしまいたいのだが、それをするとせっかく甘露寺に誘ってもらったと困りながらもその気持ちは嬉しく思っている義勇が傷つくかもしれない。

だから一部隠して伝えることにした。


「ああ、実はこのギユウさんは俺が共学科の小等部に居た頃にとてもお世話になった人なんだ。
で、今日からこのレジェロを始めたんだけど、同級生でずっとギユウさんに暴力をふるったり暴言を吐いていた男もやっているから、ゲーム内でも絡まれたら嫌だなと思っている。
だから、ギユウさんがある程度レベルが上がるまで、サビトも固定パーティーを組んでもらえないだろうか。
そうすればあと1枠しか空いてないし、見つかりにくいヒーラーとタンクが揃っていれば、野良で募集してもすぐみつかるだろう?」

「ふむ…本来なら守るべき女子にむやみやたらと暴言暴力など、男の風上にも置けん奴だな。
いいぞ。そいつが来てもお前ごと彼女も守ってやろう。
ということで、そちらの白魔導士の子は初めましてだな。
俺も今日からパーティーの仲間だ。
俺のことはサビトと呼んでくれ」

「…私のことはギユウと……」
「わかった、ギユウ、タンジロウ、よろしくなっ!」

と、こんな流れで協力者…それも炭治郎にとって世界最強の協力者が増えた。

しかもパーティには必須だが絶対数が圧倒的に少ないタンクである。


なんだか一気に前途洋々になってきたように思えた。

しかし、同時にこれが嵐の前触れでもあったのだ。



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