清く正しいネット恋愛のすすめ_3_竈門炭治郎の怒り

(…本当に、絶対に絶対に絶対にっ!!義勇さんは俺が守らなければっ!!)


竈門炭治郎は小等部から私立産屋敷学園に通う、現在は中等部男子科の3年生である。

実家は竈門ベーカリー。

父が祖父から継いだ時は街の小さなパン屋だったが、なんだか外食産業の波に乗ってしまったらしく、知る人ぞ知る美味しいパン屋として雑誌に紹介されたのをきっかけにどんどん有名になっていき、今では全国に展開する有名チェーン店に成長した。

その過程で父母がパンを焼くことはほぼなくなり、その仕事が会社組織になったチェーン店の経営となって家計にもかなり余裕ができてきたあたりで、親も跡を継ぐことになる炭治郎には学が必要だろうと思い立ち、炭治郎を産屋敷学園の小等部へと放り込んだというわけである。


ただし、小等部に入学した時は通っていたのは男子科ではなく共学科。

その後、中等部にあがるにあたって、同じ道場で剣道を習っている先輩のあとを追って男子科へと通うことにした。


誰よりも強い男になりたい…それには最低限、炭治郎が知る限り、剣道のみならず他の武術にも多々精通していて、同世代では他の追随を許さないほど強いと言われている先輩の傍で、彼に追いつき追い越すくらいにならねば…と、それを目標にしての男子科への進路変更である。


その、強い男になるという目標を持ったのは、小等部に入学したての頃。

上の学年の児童が下の学年の児童の面倒をみる縦割り班で、裕福な家庭で育った子どもがほとんどの中、普通の家庭で育って色々と馴染めなかった炭治郎に親切にしてくれた1学年上の綺麗な先輩と出会ったのがきっかけである。


無口だが優しくて、とても可憐な彼女は冨岡義勇と言う小等部の2年生で、炭治郎は自分みたいな庶民育ちの人間にも親切にしてくれる彼女に好意を持って、自然と彼女を目で追うようになっていったのだが、当時の彼女は同学年の男子にひどい嫌がらせを受けていた。

もちろん炭治郎にとってそれは許しがたいことでもあったし、彼女にひどいことを言ったりしたりする彼女の同級生、不死川実弥の前に立ちはだかったりもしてみたのだが、子どもの頃の1年の差は大きいし、不死川自身もその年齢にしては強かったのもあるのだろう。

炭治郎自身もコテンパンにのされてしまって、義勇からもう無茶はしてくれるなと言われてしまった。


好きな女性一人守れないどころか、相手に気遣われてしまう…それがとても情けなくて悔しくて、炭治郎は近所にある剣道の道場に通うことにして、そこで、近所に住んでいて顔見知りではあった件の先輩に改めて出会ったのである。


彼もやはり産屋敷学園に通う1歳年上の先輩で、しかし共学科ではなく、男子科の生徒だった。
強く賢く優しく…炭治郎の目からみると、彼はまるでおとぎ話の主人公のようにキラキラして見えた。

彼のようになれれば、あの無頼の輩から大切な女性を守れるのではないだろうか…
そう思って炭治郎は剣道に打ち込んだ。


そして中等部…彼女のいる共学科に行ったとしてもどうせ学年が違うし、今はいったん離れてでも先輩の元で強く頼れる男になって、彼女の前に再度姿を現し、彼女を苦しめる悪人をやっつけたい。

そう思って先輩のいる男子科へ。



それでも縦割り班の頃にずいぶんと親切にしてもらった縁もあって、義勇とは時々連絡を取ったりしていた。

たいていは炭治郎の方からで、彼女の方からくることは滅多になかったのだが、ある日、久々に…というか、初めてなんじゃないだろうか…彼女の方からLineが入った。


内容はゲームについて教えて欲しいというものだった。

【レジェンド・オブ・ロード】というオンラインゲーム。略称【レジェロ】

若者の間でとても流行っていて、炭治郎もやっている。
以前、義勇にも一緒にやらないかと声をかけたのだが、その時は断られてしまった。

だが、今回、小等部の頃にやはり同じ縦割り班だったため炭治郎もよく知る甘露寺蜜璃という義勇の同級生に誘われて、その手のものにあまり興味を示さなかった義勇もようやく重い腰を上げたらしい。


しかしその甘露寺からの誘いは、『今からやればイベントの多い年末から年初めにはだいぶ育っていると思うから、そうしたら一緒にイベントやりましょう』と実に奇妙なもので、炭治郎は首をかしげた。

普通、誘うなら初心者のうちから色々教えて補佐するものではないだろうか…
誘っておいて成長するまでは一人きりで放っておくなどありえない。

義勇はよく言えばおっとり、悪く言えば鈍いところがあるから、そういうものかと思ったらしく、とりあえずそのゲームがどういうもので、どんなキャラをつくればいいのかからわからないから、と、炭治郎に聞いてきたのだが、これは下手をすれば嫌がらせである。


だが、甘露寺は明るく心優しい先輩で、嫌がらせをするようなタイプではない。
なので、何か誤解があるのでは…と、炭治郎は直接甘露寺の方に事情を聞いてみた。

そして知ったのである。

あの、小等部の頃に義勇を苛めていたにっくき不死川が、義勇に近づきたいがために甘露寺の恋人の伊黒に依頼して、甘露寺からゲームに誘わせたのだということを。


いったい何を企んでいる?!
義勇さんに何をするつもりだっ?!
と、炭治郎が思ったとしても不思議ではない。


そして彼は決意する。

──義勇さんの平和と楽しいネトゲ生活は俺が守る!!

こうして炭治郎はオンラインゲーム内での義勇を全面的にフォローすべく、まずは初っ端のキャラクタ作成から教えるために、自宅に義勇を呼んだのだった。


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