清く正しいネット恋愛のすすめ_1_不死川実弥の初恋について

──とみおかぁ~、ちょっと顔貸せやぁ~!!


廊下で数メートル先に見えるぴょんぴょんと跳ねた黒髪を見かけて不死川がそう声をかけたら、遠目でもわかるようにぴゃっとその体が飛び上がり、そして、ぴゅ~!!!と駆け出して行った。


──…あ……

と、そちらに向かって伸ばした手は行き場もなくしばらく宙をさすらったあと、力なくおろされる。

がっくりと肩を落とす不死川。

その一部始終を見ていた宇髄は、後ろから彼の肩をポンポン、と叩いた。


そんな彼に
「…好きな子を苛めるなんて、中学入学まで小学校低学年の男子並みのことをしていたら、避けられるようになって当たり前です。自業自得ですね」
と、通りがかりに厳しい言葉を投げつける胡蝶しのぶ。

それに、
「あ~…確かに、まあ…普通なら一発逆転は難しいよなぁ…」
と、宇髄も頭を掻きながら苦笑いをした。




私立産屋敷学園高等部。

幼稚舎から大学まであるこの名門私立校は、非常に珍しいことに、男子科、女子科、共学科に分かれていて、学期ごとにはなるが、男子科や女子科から共学科に、またはその逆も移籍が自由である。

なので、共学と男子校や女子校の両方を体験したいとか、そのどちらかにいたが馴染めずに環境を変えたくなったなど、選択の幅を自由にすることで、よりよい環境で学生の本分である勉強をできるということで人気の学校だった。



宇髄天元は幼稚舎から共学組で、現在高等部1年。

小等部から共学組に入ってきた不死川実弥とは腐れ縁と言うのだろうか…小学1年から今までずっと同じクラスになっていた。

そしてそんな幼馴染とも言える相手が初恋に落ちる瞬間から今をもって実っていない様子を見守り続けてきたのも、それと同じくらい長い期間になる。



…冨岡義勇……

義勇などと何とも勇ましい名前だが、名は全く体を表さない非常におっとりと大人しい美少女。
それが不死川の初恋の相手だ。

真っ黒な髪に真っ白な肌。
小さな赤い唇に華奢な手足。
これで黒曜石のように漆黒の瞳を持っていれば白雪姫のようだ。

しかしそんな彼女は母方の祖母が西洋人ということで、日本人形のような愛らしい容姿をしているが、その瞳は西洋人の祖母譲りの青い色だった。


宇髄の学年の共学科には、他にも前述の胡蝶しのぶであるとか、もう一人の友人、伊黒小芭内の彼女である甘露寺蜜璃であるとか、顔だけで食っていけそうなレベルの美少女も多かったが、どちらも活発なタイプで、わんぱくな子どもだった不死川は唯一おっとりと大人しい義勇に惹かれたのである。


そこまでは良かった。
まあ、よくある微笑ましい初恋だ。

しかしながら…不死川は当時本当に絵に描いたような小学生男子だった。


好きな子に優しく接することなどできるわけもなく、怒鳴り、小突き、時に罵った。

これが胡蝶のような気の強い女子ならポンポン言い返してきて、好かれるか嫌われるかは別にして接点は増えたのかもしれないが、義勇は気の優しい大人しい女の子だったので、怖がって泣く。

そこで不死川は同級生女子達に罵られ、義勇との間に入られたので、余計にイライラして暴言を吐きまくる日々だった。

当然、距離はどんどん開いていく。


こうしてこれではいけない、距離が縮まらないと気づいた頃には、彼女は不死川を見かけると怯えて逃げるようになっていた。

これはなんとかしなければ…と思って、友人の宇髄に相談。

とりあえず、まず、謝れと言われて謝ろうと思っても、近寄ってもらえない、話を聞いてもらえない、怖がって逃げられる。

そうしてあまりに大きく距離を取られ続けたまま、とうとう高校生になってしまった。



中等部の半ばくらいからは、学校でもカップルになる男女も出てきて、それこそ伊黒などは不死川と同じく小学校入学時くらいに一目ぼれをしてからずっと想い続けていた学年有数の美少女、甘露寺蜜璃と付き合っていた。

同じ時期に同じように一目ぼれをしたのに…と、ため息をつくと、

「あ~…伊黒は周りにからかわれようと、何言われようと、一貫していつも甘露寺の味方で、甘露寺にだけはとにかく優しかったからなァ…」
と、宇髄から痛い指摘を受けて、地の底まで落ち込んだ。


そうだ、自分だってせっかく身近に伊黒もいたわけだし、伊黒と同じようにしていれば、今頃義勇とつきあえていたかもしれない。
いや、つきあえていただろう。

女の言う事を聞いてばかりなんて女々しいことはできない…なんて思っている場合じゃなかった。

というか、今にして思えば、他の人間になんと言われようと好きな女の子を大切にして、常に心身ともに彼女を守り続けた伊黒は強くて男らしい。

むしろ他の人間の目を気にしてか弱い大人しい女の子をいじめていた自分の方が女々しくて弱虫だった。



昔のことを謝りたいんだ…と、自分は避けられてしまうから、宇髄から時間を取ってくれるように頼んでもらったのだが、義勇はやっぱり自分のことが怖いらしくて、困ったように、ごめん…不死川の傍に寄るのは怖い…と首を横に振られると言う。

お手上げだ…、でもそれで諦められるようなら、小等部入学から9年間も想いを引きずっては居ないのだ。



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2 件のコメント :

  1. さねみんの容貌で「顔貸せや」って言われたら大抵の人間は逃げると思う…(;^ω^)親しい友人でも腕に覚えのある人間しか貸してくれないよきっと…

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    1. この話での一番の仲良しは宇随さんですから(笑)
      そして…のちにその宇随さんに『俺の付き合い長い友人。見た目ヤンキー系中身小学生男子。彼女いない歴=年齢』と紹介される予定です😀

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