契約軍人冨岡義勇の事情12_緊急連絡は急ぎだから緊急なのである

それは西ライン軍の息のかかったキャスターが朝昼晩担当しているニュース番組でのことだった。

そのキャスターがつけている普段は銀色のタイピンが金色のタイピンになっていたら草全員に連絡事項がある。

このところ体調があまり宜しくなかったので、ここ2回ほどニュースを見ていなかったが、その間に何かがあったらしい。

ニュースキャスターの胸元に光る金色のタイピンを認めた時、義勇は慌てて自分が元々持っていた古い携帯で草達に情報を流している西ライン軍の極秘のサイトにアクセスした。



そして知る。
今日、まさにあと3分でこの病院に事故を装って西ライン軍の輸送機が墜落するとの知らせを。

何故とかもう読んでいる暇もなく、義勇は慌てて辺りを見回した。
長らく寝たきりに近い状態だった体ではあと3分で病院から脱出する事は不可能だ。


――万が一…万が一だけどな…
と、瞬時に思い浮かんだのは錆兎の言葉。

ここは特別室だからセキュリティは万全のはずでも金持ちを狙った無頼の輩の襲撃が絶対にないとは限らない。
特に昨今はテロの可能性とかもある。

だから危ないと思った時はそこに逃げ込めるよう、老人を入院させていた時に小さな携帯用シェルターを用意させていて、それは退院後間もなく義勇を拾ったのでまだ設置したままだと言っていた。


ベッドの下…と、義勇はベッドを飛び降りて、説明された通りにボタンを押してみると、確かに人が1人入り込めるようなスペースがある。

そこに入り込むと再度ボタンでドアを閉めた。


飽くまで銃器を持った人間達から身を隠す程度のものだと思うが、どうなのだろうか…。
不安で心臓がきゅうっと締め付けられる。

しかしそれを苦しいと思う間もなく、ものすごい音が近づいてきた。
それはもう、色々考える事もできないほどの恐怖だ。


怖い…怖い…さびと…

死ぬのは怖い。
でもその時に一人ぼっちなのはもっと怖い。


せめてもう一度…もう一度で良いから会いたかった……

泣きながらそう思い、でも衝撃や炎、そんな物よりも先に、死は義勇自身の体の中から広がってきたようだ。

息が苦しくて胸が痛い。
パクパクと空気を取り込もうとするも、まったく入って来てくれない。


1人はやだ…寂しい…さびと……
そう思ったのを最後に義勇の意識は暗い中におちていった。




ふわり…と心地よい感触が全身を包む。


…ゆう…ぎゆう……

聞きたかった声…呼んで欲しかった名前……
うっすらと重い瞼を開くと、そこにはずっと会いたかった相手…


夢…夢なんだな…と思う。

だって錆兎の目が藤の花の色…、茶色かったはずの瞳が藤色なのだから、これは混乱した自分の夢なのだろう。

もしくは神様が自分を憐れんで見せてくれた優しい夢…


…会いたかった……嬉しい……

普段は伝えるのが苦手な素直な気持ちがするりと口をついて出る。
嬉しくて嬉しくて…幸せすぎる中、義勇の意識は今度はふんわりと失われて行った。



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