契約軍人冨岡義勇の事情6_ 目が覚めたらそこは天国だった

次に義勇が気がついたのは、驚くほど快適な空間。

どうやら横たわっているベッドはありえないほどふかふかで良い匂いがするし、室内だって暑くもなく寒くもなく快適だ。


呼吸も楽になり、胸だって痛くない。

不思議に思って目をあけると、淡いピンクのナース服を着た見た事もないほど綺麗な看護婦が、義勇に気づいてにっこりと優しい笑みを向けてくれた。


ああ、ここは天国か?と一瞬思うが、天使ではなくナースなあたりで、おそらく病院なのだろう。

…義勇が今まで知っていた病院とは随分とランクが違うようではあるが……




「気がついたのね」
と歩み寄ってくるナース。

「気分はどうかしら?苦しいところはない?」
と、優しい様子できいてきてくれる。

「…ここ…は?何故ここに?」

点滴や医療装置を見る限り病院なのだろう。
しかし義勇の知る病室とは何もかもが違っている。
まるでパンフレットで見る高級なホテルの客室のような雰囲気で、実際今いる部屋とは別に応接室のような続き部屋まであるようだ。

落ち付かない様子でキョロキョロと辺りを見回していると、ナースは優しく微笑んで

「実はね、昨日、つい最近までこちらにいらした患者さんの縁者さんが、あなたが道に倒れているのを見つけて運んで下さったのよ」
と説明してくれる。


ああ、もしかしてあの時バッグを取ったのは、身元を調べるためだったのか…と、ホッとしたのも束の間、義勇は蒼くなった。

どう考えてもここは最高級のレベルの病院の最高級のレベルの病室だ。

一泊分でいくらするんだろうか…
下手をすると一カ月の生活費でも足りないかもしれない。

一気に顔色をなくした義勇に、看護婦が
「どうしたの?気分悪い?」
と、顔を覗き込んでくるが、もう動揺しすぎて涙目だ。

「…あの……」
「はい?」
「ここの…費用って……」

それで察してくれたようだ。
看護婦は、大丈夫よ、と、笑って義勇の肩をブランケットの上からポンポンと軽く叩く。


そしてなんと、

「あなたを運んで下さった方ね、すごい富豪さんなの。
前に入院してたその方の知り合いの方もこのお部屋に泊まってらしてね、お年で亡くなったんだけど、その方の諸々の手続きを終えての帰りにあなたを見つけて、これも縁だと言う事で、ここに運ばれたのよ。
もちろん費用は入院費から治療費、それからこれから必要になる手術費用まで全部出して下さったの」
と、とてつもない話をするではないか。


手術?え?え?何の??

「あの…」
「はい?」
「手術って……」

「ああ、心臓のよ?大丈夫、今のうちならまず成功するとお医者様もおっしゃってるし」
「いや、じゃなくてっ!だってそれってすごいかかるんじゃ?」

「お金のこと?」
「です」

「大丈夫、さっきも言ったように…」
と、看護婦が言いかけた瞬間ノックの音が聞こえて、彼女はパタパタとそちらへ走っていった。

少しドアを開いて何か廊下の向こうとやりとりしている声が聞こえる。

意外に若い男の声。
医師か職員だろうか…。

そう思っていると、また看護婦がパタパタと戻ってきた。
少し紅潮したこころもち嬉しそうな顔で…。

(…人気のあるドクターか何かなのか……)

などと呑気な予想をしていた義勇に告げられたのは、なんと先ほどの話にでてきた富豪の来訪で、ひどく驚きも慌てもしたものの、

「体調がすぐれないようならまた出直すとおっしゃってるけど…」
と言われても、状況を考えればそんな失礼な事できるはずもない。

通してもらうように頼むと、看護婦の案内で入ってきたのは意外にも息を飲むくらい完璧に整った顔の若い男だった。



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